暴力団が共謀罪の勉強会 捜査関係者「俺らより勉強してる」

暴力団が共謀罪の勉強会 捜査関係者「俺らより勉強してる」

共謀罪の影響は暴力団にどう及ぶか

 6月末、都内某所──。関東に拠点を置く指定暴力団は、最高幹部を含む直系組長(二次団体)を一堂に集め、ある勉強会を開いた。

 テーマは「共謀罪」。張り詰めた空気のなか、誰もが顧問弁護士の言葉を聞き漏らさぬよう耳を傾け、配布された資料に熱心にメモを書き込んだ。30分ほどで説明は終わったが、その後の質疑応答は1時間にも及んだという。最後の訓示では、「末端まで必ず伝達し、学ばせること」と通達された。

 付き人として参加した組員は、「幹部会には何度も来てるけど、どんな幹部会よりも張り詰めた空気だった。あんな親分連中は見たことない」と明かした。

 共謀罪は7月11日から施行され、「テロ集団や暴力団が取り締まりの対象」とされる。それに対し、各地の組織が強い危機感を抱いているのは間違いない。六代目山口組三次団体のある幹部はこう言う。

「共謀罪の説明文書は定例会で配られ、『読み合わせするように』という指示が組長からありました。今でも、携帯に『盗聴!』というシールを貼って、肝心なことは電話で話さんように注意して、LINEやメールもほとんど使わないようにしている。“これ以上、どうせい”というのが正直な気持ちですね」

 2011年10月から全国で暴力団排除条例が施行され、銀行口座を開設できなくなるなど、シノギは大きく制限されるようになった。それに加えての共謀罪だからこそ、脅威に感じているようだ。神戸山口組三次団体幹部が話す。

「この6月16日、神戸山口組の井上邦雄組長が、山健組に指示して会津小鉄会に傷害や暴力行為を行なわせたとして逮捕された。結果的に起訴されずに釈放されたが、共謀罪が施行されていたら、謀議を行なったことの証明だけで犯罪が成立するので、起訴されていたかもしれない」

 本誌が入手した〈共謀罪を考える〉と題された文書は冒頭の勉強会で配布された資料で、5ページで構成されている。

 冒頭から〈法律の実績作りのためにヤクザが集中的に対象とされる〉と危機感をあらわにしている。

〈組員が銃や刃物を持っていて銃刀法違反で逮捕された場合、これが警察によって敵対する組幹部を殺害するためだったとでっち上げられ、他の組員、幹部、さらには親分クラスが共謀罪に問われるケースも起こり得る〉

 など、想定される適用例を挙げたうえで、さらに共謀罪の対象となりうるケースとならないケースを一覧表で対比。その見せ方は“独特”だ。

〈暴力団組員らが、対立する暴力団の構成員を襲って監禁した上、拳銃で射殺することを計画〉は共謀罪の対象になり、〈会社の同僚数名が、居酒屋で、上司の悪口で盛り上がり、「殺してやろう」と意気投合〉は非対象。

〈暴力団組員らが、談合をしていると因縁を付けて事業者らから現金を騙し取ることを計画〉は対象だが、〈マンション建設に反対する町内会と環境保護NGOのメンバーらが、建設阻止運動の一環として、建設会社のロビーで座り込みをすることを計画〉は非対象などと解説。暴力団構成員は狙い撃ちにされる――という問題意識がうかがえる。

 この文書を目にしたある捜査関係者は、「俺らより勉強しているんじゃないかな」と驚きを隠さなかった。

◆「これは兵糧攻めだ」

 暴力団問題に詳しいジャーナリストの伊藤博敏氏はこう話す。

「暴対法や暴排条例が施行されたため、暴力団は自分の存在を消すことに長けてきた。すでに備えはあるといえるかもしれません」

 ただ、共謀罪への対策は従来の延長上にあるといっても、締め付けは確実に厳しくなるはずだ。前出の神戸山口組三次団体幹部は「一番、心配なのは起訴率があがることだ」と言う。

「警察が暴力団をなんでもかんでもパクリよるのは、起訴より組事務所への家宅捜索が目的。そこで組織の動向動静、構成員の数や連絡先などを把握する。だから、これまでは逮捕されても不起訴となることが多かったが、これからは共謀罪で起訴までもっていかれるかもしれない。起訴されれば、組は裁判のために弁護士をつけ、家族の面倒も見なければならなくなる。出費は馬鹿にならない。共謀罪が兵糧攻めにつながる」

 この危機感が、暴力団側の根底にあるようだ。前出・伊藤氏は言う。

「文書にあるように、捜査当局は暴力団を共謀罪の摘発第1号にするでしょう。共謀罪の対象となりうるケースはまさに暴力団のシノギで、謀議の認定がしやすい。これまでの摘発がそうであるように、暴力団を誤認逮捕しても誰も文句は言いません。

 強行採決で法案を通した共謀罪の実績作りには、暴力団はもってこいの摘発対象。敵対する組織への襲撃準備なども対象となりうるので山口組分裂抗争の行方にも影響を及ぼすと見られています。暴力団がますます生きづらくなるのは間違いないでしょう」

 だからこそ必死に法の網の目を抜ける対策を練っているのだ。

※週刊ポスト2017年8月4日号

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