高齢者にとって医師は拠り所 薬はコミュニケーションの道具

高齢者にとって医師は拠り所 薬はコミュニケーションの道具

高齢者にとって薬が医師とのコミュニケーションツールに…

 病院や診療所の待合室に高齢患者が集い、手には数種の薬袋がいっぱい詰まったビニール袋を提げ、薬の数自慢。シニア社会でよく見る光景…と見過ごしがちだが、今、この薬が問題になっている。

 88才ひとり暮らし・Aさんの例を見てほしい。

「骨粗しょう症、高血圧、高脂血症、糖尿病、感染症などを患っていて、めまい、不眠などの症状を訴え、3つの医療機関から計25種類(46錠/日)を処方されていました」

 解説してくれたのは、神戸大学名誉教授・神戸大学医学部附属病院前薬剤部長で薬剤師でもある平井みどりさんだ。

「25種類とはかなり多いですが、複数の医療機関や他科にかかってそれぞれに症状を訴え、各医師がそれに応えるべく薬を処方していった結果、こうなることは珍しくありません。特にAさんは不眠がつらかったのか、3つの医療機関すべてから、高齢者が注意すべきベンゾジアゼピン系睡眠薬が処方されています。

 治療を引き継いだ在宅医により5種類に削減された結果、血圧と血糖値は若干悪化したものの、めまいと不眠が解消しました。高齢者の場合、肝臓や腎臓機能の低下により、薬が体内に長く滞留するため、薬が効きすぎる傾向があります。めまいは、糖尿病、血圧の薬が効きすぎて、血糖値や血圧が下がりすぎたと推察されます」

 Bさんのケースを見てみよう。73才のBさんは、脳梗塞の後遺症で麻痺があり、車いすで生活をする女性だ。

「攻撃的で介護関係者を困らせ、ふらついて倒れてけがが絶えず、当時の主治医が次々に薬を増やしていった結果、次第に不安、抑うつ、希死念慮(具体的な理由はないが、漠然と死を願うこと)などの精神不安定に陥りました。地域のサポートセンターから通報があり、私どものクリニックの在宅医が薬剤性の意識障害と診断。大幅に処方薬を見直しました。今では攻撃性や精神不安定が収まり、機嫌もいい。気立てのいいおばちゃんです」

 Bさんの処方を見直した、野崎クリニックの副院長・嵯峨崎泰子さんは、現役の訪問看護師。認定医療コーディネーターでもあり、高齢者の多剤併用問題を懸念する1人だ。

「多剤併用の代表的な副作用に、精神不安定や認知機能低下があります。高齢者だけに、すぐ認知症かと疑われますが、薬を削っていったらシャキッとして元気になったという例はたくさんあるのです」

◆高齢者の孤独も多剤併用の背景に

 健康を守ってくれるはずの薬。いったいなぜこのようなことになっているのか。

「高齢社会とはいえ今の医療体制は、臓器別、疾患別の各専門医が自分の専門分野の知識や技術を駆使し、働き盛りの患者を完治させ社会復帰させようという考えが主流です。若い人は急性で単一の病気で医療にかかる場合が多いので、専門治療にはまさによいのですが、高齢者の多くが抱えているのは慢性的で複数の病気。病気別に専門医にかかれば、副作用が出るほど多くの薬が、しかも漫然と長期的に出されることになります。

 そして、日本人は“念のため”が好き。“念のため薬を出しておきましょう”は医師の誠意であり、言われる方はちょっと安心。そんな国民性も背景にあるかもしれませんね。1人の高齢者を1人の医師が総合的に診る“かかりつけ医”を国も推進していますが、まだまだ行き届かないというのが現状です」(平井さん)

 また、地域の高齢者と密接にかかわる嵯峨崎さんは、患者側の切実な心情も垣間見る。

「高齢になると血圧や血糖値、血中コレステロールはたいてい高め。何かと具合が悪く、それがとても不安なのです。社会との接点が少ない高齢者にとって医師は拠より所であり、薬は医師とのコミュニケーションツール。薬効や副作用以前に、妄信してしまっていることが少なくありません」

※女性セブン2017年8月10日号

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