石破茂氏 「戦争経験者に納得頂けるような憲法改正を」

石破茂氏 「戦争経験者に納得頂けるような憲法改正を」

「改憲議論は粗略にすべきではない」と強調した

 支持率急落に直面した安倍首相は、政局の場面転換を図るように憲法改正へと走りだした。秋の臨時国会に改憲案を提出し、来年中に「国民投票」にかけるという“駆け足改憲”だ。

 だが、その内容は政権の公約と大きく違っている。9条を改正して「国防軍」を創設する自民党草案ではなく、9条を残して「自衛隊」を条文に追加するという安倍私案が打ち出されたからだ。自民党草案の9条改正部分の起草委員である石破茂・元幹事長は「改憲議論は粗略にすべきではない」と訴える。

──改憲論議は安倍私案をもとに進もうとしている。国防軍創設を盛り込んだ自民党草案はどうなったのか。

石破:今も自民党の憲法改正案は2012年に党議決定したあの草案のままです。安倍総理の提示された内容は、まだ党で正式に議論されていないし、草案を変える手続きは何もやっていない。

 総理が「よく読め」と仰せだからと読売新聞の記事を読み、総理の考えを忖度して議論を進めようというのはいかがなものか。中には、「草案は野党時代につくったから、ピュアな内容のものを出せた。でも、今は与党になった。政治は妥協だからね」という人もいる。

──若手議員は「草案」を理解できていないし、「安倍私案」も読売新聞で読んだだけ。そんな実情で秋の臨時国会に改憲案を提出とは拙速ではないか。

石破:以前から私は、1日も早く改正したいと考えている。安倍総理も私も戦争を知らない世代だが、空襲の戦火の中を逃げ惑ったり、原爆でご自身が被ばくしたり家族を失ったりされた方々がまだご存命のうちに、納得頂けるような憲法改正をしなければならないと思っている。

 ただし、早く改正することと議論を粗略にすることとは違う。時間がないなら集中的に討論すればいい。私が知る自民党の伝統は、米価の決定や政治改革などで議論が沸騰した時は議員全員で口角泡を飛ばして明け方3時や4時まで議論し、次の日も朝8時から続け、いったん決まったら、異論なしに結束して賛成する。それが党の活力につながった。

 今、国会議員は夏祭りとか選挙区回りで忙しいかもしれないが、憲法改正は重要な政治課題だ。自民党はこの夏に「禁足令(※注)」を出して全国会議員を1週間くらい東京に集め、総裁の案であろうと草案であろうと、とことん議論すればいい。議論のプロセスを国民に見せることで憲法改正の本気度が伝わり、信頼回復にもつながるはずだ。

(※注)/党が所属国会議員に対して国会から離れることを禁止し、定められた採決や議論に参加することを命じること。禁足令を破ると党から懲罰を受けることもある。

──衆院の任期は残り1年半しかない。改憲案の提出を急ぐのは与党が3分の2の議席があるうちに国会で発議し、次の総選挙を憲法改正の国民投票とのダブル選挙にするためではないか。

(ここで石破氏は席を外し、使い込んだ1冊の分厚い法学書を持ってきた)

石破:これは40年前の大学時代に習った憲法学の教科書。著者の清宮四郎先生は、憲法改正の国民投票は単独で実施するか、あるいは衆院か参院の選挙と同時にやる方法があるが、同時にすれば国民は選挙に気を取られて憲法のことを考えるのは難しいだろう。従って憲法のような重大な問題は国民投票単独で行うのが望ましいと書いておられる。

 私は9条改正はそれだけで正面から国民に問うべきで、選挙でたとえば減税とか、年金を増やすとか、国民に受けるような政策と抱き合わせでやるようなことはすべきではないと考えている。

──そうした憲法改正のプロセスなら政治は国民の信頼を取り戻せると思うか。

石破:議員になる前に故・渡辺美智雄先生の講演を聞いたことがある。「政治家の仕事は勇気と真心を持って真実を語ること。これ以外にない」という言葉に非常に感動してテープを何度も聞き続けた。

 いま街角で「政治家を信じますか」と聞いたら10人のうち8~9人は「信じない」と答えるだろう。「政治家はろくなもんじゃない。表で言うことと裏でやっていることが全然違う」と、多くの人がそう思っている。

 では、政治家は国民を信じているだろうか。“本当のことを言っても国民はわからない。どうせ甘いことを言えば乗ってくる”──そう思って真実を語っていないんじゃないか。国民を信じていない政治家が国民に信じてもらおうなどと思ってはいけない。

■聞き手・構成/武冨薫(ジャーナリスト)

※SAPIO2017年9月号

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