高齢者は歯が命 ケアしないとみるみるやつれる

高齢者は歯が命 ケアしないとみるみるやつれる

歯はケアを怠ると、どんどん痩せ衰える(写真/アフロ)

 父親の死で、突然母の介護をすることになった本誌N記者(53才・女性)。そこで感じたのは、高齢者にとっての歯の重要性だった…。

 * * *
 父の急死で突然、一人暮らしになった母は、みるみるやせていった。もともとふくよかで、実年齢よりも若く見られるのはしばしば、溌剌とした印象だったのに、顔はしぼんだ風船のようになり、急に老け込んでしまった。

「ちゃんと食べてる? 今日は何食べたの?」と電話で聞けば、「食べてるわよ。お刺身とかお肉とか。好きなものを買ってる」と、毎度お決まりの台詞が返ってくる。

 母は昔から食を大切にしていた。グルメというほどではないが三食、丁寧に手作りし、「働く人はちゃんと食べて、栄養を摂とらなきゃだめ」が口癖。おかげで私も、食べることが楽しみな人間に育った。

 また母はお酒もたしなみ、父の生前は一緒に晩酌も欠かさなかった。まず枝豆や冷や奴など、父の晩酌のお供をササッと出した後、野菜炒めや煮物、焼き魚などのおかずを3品以上は並べた。家族3人だけの食卓なのに毎晩、宴会のようだった。

 恐らく父とふたりになっても毎夕の宴は続いていて、それが突然、お開きとなってしまった。料理を作ったり食べたりする気力が失せても無理はない。しかも認知症。

 買い物に行くのを忘れたり、買っても食べるのを忘れたりしても、無理はないのかもしれない。何とかしなければ…。

 それから私は、頻繁に母を食事に誘うようにした。焼肉、トンカツ、パスタ、天ぷらと、こちらの心配をよそに、まぁよく食べた。私の家族と行く居酒屋などでは、昔がよみがえるのかご機嫌で、「(私の夫に向かって)パパ、ほらちゃんと食べないと働けないわよ。Sちゃん(私の娘)、さばを食べると頭がよくなるのよ、もっと食べなさい!」と、同じ説教がエンドレス。

 でもある時、ふと食べている母の口元に目が留まった。モゴモゴして噛みにくいのか、のみ込めないのか、チョロッと食べ物がこぼれる。頬を指でさするようなしぐさも。

「食べにくい? 痛いの?」
「え、まさか! ママは1日3回、歯を磨いてるもの」

 と、母は視線を外した。やっぱり歯だ! 母の取り繕いを見抜く術は、もうかなり身についていた。翌日、さっそく母を歯科医に連れて行った。でも内心は恐る恐るだった。たぶん母が歯科医に口の中を見せるのは何十年ぶりのことだった。

「歯周病がかなり進行していて、奥歯など根っこがない歯もありますね。奇跡的に歯がくっついている状態です」と女性の歯科医。すかさず、「でもね、治療となれば抜歯して入れ歯ということになり、食生活も変わってしまうの。80代にはかなりのストレスになります。今、歯が残っていることをよしとして、定期クリーニングをして見守りましょう。痛みが出てどうにもならなくなったら、その時、考えましょう」

 ああ地獄に仏…いや女神様。この期に及んで改めて、食べることが母の人生の喜びの多くを占めていることに気づき、歯科医に手を合わせた私。

「大丈夫。そういう高齢者のかたは、結構いらっしゃいますよ」

 この夏も母が楽しみにしている家族旅行で、母の大好物のアワビ料理を注文した。母の歯が取れないよう、心の中で祈りつつ…。

※女性セブン2017年8月17日号

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