中学受験 難関「公立中高一貫校」が軒並み応募者減の異変

首都圏の難関「公立中高一貫校」が軒並み応募者減の異変 2019年から一転

記事まとめ

  • 公立中高一貫校入試は2015年以来、高倍率が続いたが、2019年は一段と応募者が増えた
  • 2020年は一転し応募者が減少したといい、安田教育研究所代表の安田理氏が背景に迫った
  • 5〜6倍という倍率の高さ、年々レベルが上昇、塾通いが必要などの理由が考えられるそう

中学受験 難関「公立中高一貫校」が軒並み応募者減の異変

中学受験 難関「公立中高一貫校」が軒並み応募者減の異変

私立並みの教育内容で人気も高かった公立中高一貫校だが…

 2005年に首都圏初の公立中高一貫校、「都立白鴎(※正確には區ヘンに鳥)高校附属」が誕生して以来、毎年高倍率が続いていた公立中高一貫校入試。2019年は「さいたま市立大宮国際中等教育学校」の開校もあって、一段と応募者が増えたにもかかわらず、2020年は一転して応募者が減少したという。一体なぜなのか。安田教育研究所代表の安田理氏が、今年の入試状況と大学合格実績を振り返りながら、その背景に迫った。

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 現在、首都圏には22校もの公立中高一貫校があり、中学受験において大きなシェアを占めるようになっている。都県別の内訳を見てみると、東京が11校、神奈川が5校、千葉が3校、埼玉が3校ある。

 公立中高一貫校には中等教育学校(高校募集がなく6年間同じメンバーで学ぶ)と高校募集がある併設型と呼ばれる学校がある(〇〇中学校とか〇〇高校附属という校名になっている)。このほか連携型と言われるものがあるが、これは入試を伴わないので、ここでは前2者について取り上げる。

 公立中高一貫校の入試は、開校初年度は、小学校の学習範囲からしか出題されない「適性検査」(教科別の問題ではなく融合問題)ということで、地元の小学校では全員が受けたなどというケースもあった。ダメ元で大勢が受けるため、大変な倍率になることもよくある。しかし、最近はきちんと準備しなければ受からないということが分かり、年々倍率が低下するのが一般的な傾向である。

◆都内の応募者 11校中9校が「減」

 2010年に都内の公立一貫校11校が出揃ってから今年で11年が経った。2018年、応募者数の合計が初めて9000人を割り込んだが、2019年には多摩地域の学校への女子の応募者が増え、総計9019人(都立一般枠+九段の男女計)と9000人台を回復していた。それが2020年は8476人と近年最低の数字になった。

 学校別では、増加は「都立富士高校附属」と「都立立川国際中等教育」の2校だけ。男子だけ増が「桜修館中等教育」、「千代田区立九段中等教育」、女子だけ増が「両国高校附属」、「大泉高校附属」であった。増が2校だけというのは、私の記憶にはない現象である。

◆神奈川・千葉・埼玉の応募者は11校中6校が「減」

 3県では、神奈川が2019年の3966人から3799人へと減。千葉が2207人から2238人へと唯一若干の増。埼玉が2077人から1730人へと大きく減という様相であった。埼玉の大幅減は、前年「大宮国際中等教育」が開校初年度で大勢を集めた反動と言っていいだろう。

 学校別では、「神奈川県立平塚中等教育」、「横浜市立南高校附属」、「千葉県立千葉」、「千葉市立稲毛高校附属」、「埼玉県立伊奈学園」の5校が増であった。つまり3県でも減のほうが6校と多かったのである。

 以上のように、都県別では増は千葉のみ。学校別では22校中3分の1以下の7校のみ増であった。わずかずつとはいえ15校が減とは予想していないことだった。

◆19校中18校から「東大合格者」が出る

 次に大学合格実績に注目してみよう。22校のうち中高一貫の卒業生が出ているのは19校。「千葉県立東葛飾」、「横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校附属」、「さいたま市立大宮国際中等教育」の3校は開校が新しいので、まだ出ていない。

 3月10日に東大の合格発表があったので、それに注目してみた。

 合格者数の多い順に校名を挙げると、「千葉県立千葉」が20名、「都立小石川中等教育」が10名、「都立桜修館中等教育」が9名、「都立武蔵高校附属」が8名、「横浜市立南高校附属」が7名、「都立大泉高校附属」と「都立両国高校附属」が6名、「神奈川県立相模原中等教育」が5名、「都立白鴎高校附属」と「千代田区立九段中等教育」が4名、「都立南多摩中等教育」と「さいたま市立浦和」が各3名──と素晴らしい実績をあげている。

 このほかでは「都立富士高校附属」、「都立立川国際中等教育」、「埼玉県立伊奈学園」が各2名、「神奈川県立平塚中等教育」、「川崎市立川崎高校附属」、「千葉市立稲毛高校附属」が各1名と、なんと「都立三鷹塚中等教育」以外の18校が東大合格者を出していた。これは凄いことである。全国的にも公立中高一貫校の大学合格実績は極めて良好である。

◆女子の応募者が増えている理由

 公立中高一貫校の適性検査は、長い文章の読解、長文記述があるので、応募者は女子のほうが多くなることが一般的だ。が、「都立小石川中等教育」、「都立武蔵高校附属」、「県立千葉」、「県立東葛飾」といった難しいとされる学校はこれまで男子のほうが多かった。

 ところが今年はことごとく女子のほうが多くなり、男子のほうが多いのは、理数教育に特化している学校の性格から「横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校附属」のみになった。

 2020年度入試では男子が増えた学校は21校中(「川崎市立川崎高校附属」は男女合計数しか公表していない)4校しかない。一方女子は9校で増加している。近年の教育では読解力、記述力がより求められるようになっているにもかかわらず、男子はこうしたものに対する苦手意識が強いようである。

◆女子が70名も離脱した公立中高一貫校も

 公立中高一貫校のスタート時は、落ちたら地元の公立中学に進学する人が多かったが、2年、3年と塾に通って準備をして受けると、それを無駄にしたくないということで私立中学も併願する人が増えてきている。逆に、私立中学を本命として勉強してきたが公立中高一貫校も受けるケースもある。「都立小石川中等教育」などは入学者の8割以上が私立中学を受けている。

 東京都教育委員会は、都立10校について〈試験当日の欠席者数〉や〈合格発表後の辞退者数〉を公表しているので、それを見てみると、欠席者数は男子・女子とも前年より減っている(男子197名→164名、女子255名→223名)。辞退者数は男子44名→39名、女子38名→51名と、女子で増えている。

 実はこれは特定の学校に集中していて、欠席者の男子164名中31名が「都立小石川中等教育」、20名が「都立白鴎高校附属」と「都立両国高校附属」の応募者であり、女子の223名中50名が「都立小石川中等教育」、27名が「都立桜修館中等教育」、26名が「都立白鴎高校附属」、20名が「都立両国高校附属」となっている。

 辞退者も、男子39名中8名が「都立小石川中等教育」、7名が「都立桜修館中等教育」、6名が「都立武蔵高校附属」であり、女子の51名中20名が「都立小石川中等教育」、6名が「都立三鷹中等教育」、5名が「都立白鴎高校附属」、「都立大泉高校附属」、「都立武蔵高校附属」となっている。

 つまり、区部の学校ほど私立中学との併願者が多いことの表れだ。中でも「都立小石川中等教育」の女子は欠席が50名、辞退が20名とダントツである。

 欠席者は2月1日に「桜蔭」や「女子学院」といった私立の女子校を本命にし、翌日の発表で合格をつかんだケースと推測される。辞退者は2月3日の公立中高一貫校の試験日の時点では私立中学の合否が分からず受検したけれど、その後合格が決まり、辞退したということだろう。

 他県で欠席者の多い学校を調べてみると、2桁は男子では「神奈川県立相模原」が16名、「千葉市立稲毛高校附属」が13名、「横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校附属」が12名、「神奈川県立平塚」が10名となっている。

 一方女子では「横浜市立南高校附属」が31名と多く、次いで「神奈川県立相模原」が28名、「神奈川県立平塚」が18名、「千葉市立稲毛高校附属」が12名、「横浜市立横浜サイエンスフロンティア高校附属」が10名と、やはり特定の学校が多いことがわかる。都内・3県に共通していることは、女子のほうが私立中学に抜けているということだ。

 スタート時と異なり、今は公立中高一貫校でもレベルの高いところほど難関私立中学と併願している受験生が多くなっている。

 一方、私立中学側も、公立中高一貫校は倍率が5〜6倍となり、不合格者になるほうが圧倒的に多いので、「適性検査」に向けた勉強でも受けられる「適性検査型入試」を設定するところが年々増えているのである。

 中には「うちの適性検査型入試は○○中等教育学校、××高校附属を意識して作問をしています」と謳っているケースもある。そのほか入学金や授業料免除の特待生を出すケースもよく見られる。そうした背景から、スタート時の「落ちたら地元の公立中学に」というパターンは今や少数派である。

◆優れた教育内容は「私立並み」に

 ここまで数字的なものばかりを取り上げてきたが、公立中高一貫校の魅力はむしろ教育内容にある。公立中高一貫校同士は全国的に交流し、かなり研究し合い、競い合っている。

 ここでは詳しい内容には触れないが、例えばふつうの公立中学ではまずない海外研修の機会がある学校が公立中高一貫校には多数ある。中にはシリコンバレー研修といった時代の先端的な場所に連れていく学校まである。

 そのほか、大学との連携、フィールドワークをともなう探究型学習、ネイティブによる英語教育、卒業論文の作成・発表……など、私立中高一貫校が取り入れていることの多くをいまや同様に実施しているのだ。

◆今年の応募者の減少要因と来年の予想

 ほぼ学費がかからない状態で上記の教育を受けられるのに、なぜ今年応募者が減ったのだろうか。公立中高一貫校に大勢受検させる塾の先生に聴いても明確な要因は見つからなかったが、以下のような理由は考えられる。

・5〜6倍という倍率の高さ/無駄な努力はしたくない(させたくない)という心理
・年々レベルが上がっている/どこもが開校時と比べると格段に難しくなっている。近所で多くの不合格体験を目にするようになって、チャレンジする家庭が減少
・塾通いが必要/2年、3年と塾に通うことが必要なことがわかり、その費用の点から断念

 以上のことが絡み合っているわけである。ただ、今年こそ減少したが、2021年度は間違いなく応募者は増加するに違いない。これから「コロナショック」がもたらすであろう経済不況はかなり深刻なものになりそうだからだ。

 目下は観光業、運輸業、小売りなどへの打撃が取り上げられているが、部品供給の不足などから製造業、さらには金融、商社……リストラを経て家計にも大打撃がもたらされる。

 いま私立中学受験熱は6年連続で受験者増をもたらしている。これは、中高一貫教育が優れていることが広く知られるようになったことが大きい。倹約してでも教育にはお金をかける日本人の国民性からいって、今後不況になっても、いや厳しい時代になりそうだからこそ、わが子にはより良い教育を受けさせたいというスタンスは変わらないのではないだろうか。

 そう考えると、学費が安いうえに教育内容が優れている公立中高一貫校に再び注目が集まる可能性は高いだろう。

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