ストリッパーになった名物書店員・新井さん 「楽になった」

ストリッパーになった名物書店員・新井さん 「楽になった」

新井さんは「新井賞」の名物書店員だ

「えッ? あの新井さん、ストリッパーになったの!?」。本誌・女性セブン編集部でも話題騒然となった、驚きの挑戦。さっそく新井さんに話を聞いた。ストリップのようにまったくの異世界に見えるものでも、実は私たちの日常のすぐ隣で魅力的な光を放ち、扉は開かれているのだ──。

 東京・日比谷にある書店「HMV&BOOKS 日比谷コテージ」。“女性のための書店”をテーマにした明るく開放的な店内で、シャツワンピースにグリーンのエプロンをつけた女性が、テキパキと書棚の整理やレジ打ちに動き回る。新井見枝香さん(39才)は知る人ぞ知る有名書店員だ。

 彼女が半年ごとに最も面白かった本を“個人的”に発表する「新井賞」が2014年にスタートすると、全国の読書家がこぞってその本を手に取った。同日発表の芥川賞や直木賞の受賞作より注目されるという、実力派の書店員であると同時に、自らエッセイなどを執筆し、文筆家としても活躍している。

 そんな新井さんには「もう1つの顔」がある。

 3月中旬の夜、東京・上野の「シアター上野」。薄暗いステージ上で交錯するカラフルな照明に、新井さんの姿が浮かび上がった。大音量のロックミュージックに小柄な体をくねらせる。一枚、そして一枚と、彼女はゆっくり脱いでいき、ついには一糸まとわぬ姿になった。

 客席に近づいたかと思えば遠ざかり、手招きしながら焦らし、熱い眼差しを送る。子猫のような新井さんのしぐさに観客は釘付けになる。そう、彼女は舞台で踊るストリッパーになったのだ。

◆“初ステージ”で自然に涙がこぼれた

 そもそもストリップとは、踊り子が音楽に合わせて服を脱ぐショーのこと。戦後の混乱期にアメリカから流入して人気を博したが、風俗営業法の改正などで減退し、近年は閉館する劇場も少なくない。

 新井さんがストリップと出合ったのは2年ほど前。知人で作家の桜木紫乃さんに誘われ、シアター上野に足を踏み入れたのが最初だった。

「そこで桜木さんの小説『裸の華』のモデルになった相田樹音(あいだ・じゅね)さんのステージを見て、激しく心を揺さぶられました。“この人は特別だ”と思ったんです。お客さんが踊り子さんを素直に応援するような雰囲気も心地よく、次第に劇場に通い詰めるようになりました」(新井さん・以下同)

 以来、書店の仕事が終わると最終ステージに駆けつけ、オフの日は全国の劇場を回った。ストリップに魅了されるなかで、今年初めに転機が訪れた。

「自宅のある北海道から久々に上京する桜木さんを驚かせるために、樹音さんが“見枝香ちゃん、舞台に立ってみる?”って誘うんです。私、人を驚かせるの嫌いじゃないんで(笑い)、何の打ち合わせもなく、真っ赤な口紅を塗って、樹音さんとステージに立ちました」

“ドッキリ出演”ながら、舞台を見続けてきたので、ステージに上がると体が勝手に動いた。寝そべって開脚すると、客席から喝采を浴びたという。興奮と恍惚のなかで踊り終えた後、自然と涙を流す新井さんに樹音さんが声をかけた。

「見枝香ちゃん、踊り子になったら?」

 その日の経験が、カリスマ書店員の人生を変えた。

「舞台の高揚感に包まれて、思わず『はい』と答えたんです。頭で考えたら、私は会社員だし、年齢も年齢だし、踊ったこともないんだけど、でもそれらをすべて取り払って、『やる?』と聞かれて『はい』と答えたことを大事にしようと思ったんです」

 書店の仕事終了後にスタジオで踊りの練習を重ね、今年2月、福井県にある劇場「あわらミュージック」でデビューを果たした。

「緊張しないタチなので、思ったよりうまくできました。もともと私には“自分の体は他人のモノ”みたいな感覚があり、裸になることに抵抗はまったくなかった。恥ずかしいと思うポイントが人とズレているのかもしれませんね。裸より足の裏のカサカサを見られる方がイヤ(笑い)。私の裸でお客さんが喜ぶなら、お安い御用です」

 そうして“本屋の新井さん”は、“踊り子の新井さん”になった。

◆ステージにパンツ忘れてるよ

「会社のなかには、“舞台上で踊り子と客が本番行為をする”といった昔のストリップをイメージする人もいました。でもいまは女性客が多く、お客さんも親切で、だから随筆の題材にもなると説得しました。

 もともと私の会社は音楽などほかのエンターテインメントにかかわりながら書店員をしている人も多く、最終的には『人気者になって本屋のお客が増えるならいいか』と認めてもらえました」

 友人や知人の反応も温かいものばかりだった。

「“書店員が脱ぐなんて”と叩かれると思ったけど、『本屋さんがやるのがカッコいい』『やりたいことをやって楽しそう』という反応が多くて意外でした。

 親にはこれまでたくさん迷惑をかけてきて、踊り子デビューも伝えていないけど、知っていると思います。誰にも迷惑をかけず、きちんと働いてお金をもらう仕事で人に喜んでもらっているので、『大人になったな』と感心するんじゃないかな」

 彼女は、お客さんは好きだが“人間”はあまり好きでないと語る。自分自身に嫌悪感があって生きづらさを感じたり、有名書店員としての周囲の評価と自己認識のギャップに悩むこともあったそうだ。それも「ストリップと出合って楽になった」と微笑む。

「まるで想定していなかった『踊り子になる』という“流れ”に乗ったら、ずいぶん楽になりました。いまはとてもいい状態で、変に考えすぎずに楽しく踊れています」

 踊り子には、専業で40日間舞台に立ちっぱなしの先輩もいれば、夏休みなど長期休みだけ出演する大学生もいる。年齢層も幅広く、新井さんの母親世代もいるという。

 お客さんは温かく、演技中に自主的にタンバリンを叩いて舞台を盛り上げたり、「ステージにパンツ忘れてるよ」と教えてくれたりする。小さな劇場で見聞きするあらゆる出来事を、新井さんは愛しそうに語る。

「いまはとにかくすべてをポジティブに捉えられています。客入りがよくない日でもピリピリせず、お客さんが率先してステージを盛り上げてくれるし、踊り子さんもみんな明るくて、新人の私によくしてくれます」

 いま新井さんは、1か月のうち10日間は1つの劇場の舞台に専念し、残りの20日間は日比谷の書店で働く。今後も書店員、文筆家、ストリッパーという異色の三足のわらじを履き続けていくという。

「本屋さんで本を売ってレジを打つのも楽しいし、書いた文章が誰かに届くのも楽しいし、舞台で踊ってみんなに喜んでもらうことも楽しい。

 ただ“楽しい”だけでもありません。根底には経済的な『利益重視』の意識もあります。本がいっぱい売れて作家さんにお金が入ったり、依頼してくれた出版社にお金が入ったり、多くの人が劇場に足を運んでストリップ業界が豊かになる、そんな未来が見たいから、私は3つとも本業だと思って必死でやっています」

 そう語った彼女は、とても清々しい笑顔をしていた。

※女性セブン2020年4月23日号

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