都の子ども受動喫煙防止条例は家庭内に権力が介入する危険

都の子ども受動喫煙防止条例は家庭内に権力が介入する危険

わずかな審議のみで条例案は可決された 時事通信フォト

 小池百合子都知事の独走が際立っている。国政のことではない、足元の都政のことだ。都議会では子どものいる自宅やマイカー内での喫煙を規制する条例案が可決、制定された。しかし、家庭など私的な空間にまで踏み込む規制に問題はないのか。ジャーナリストの入江一氏が解説する。

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 遡ること約1か月前の10月5日、衆院総選挙の公示を間近に控え、日本中が「小池劇場」に目を奪われていた最中、都議会では「子どもを受動喫煙から守る条例」が可決、成立した。

 同条例は18歳未満の子どもに受動喫煙をさせないよう努めることを「都民の責務」と規定。子どものいる部屋や自動車内で喫煙をしないよう努めなければならないとし、家庭外でも受動喫煙対策が不十分な店舗などに立ち入らせないよう努力義務を課す。罰則規定はなく、あくまで「啓発」を目的としたもので、来年4月1日から施行される。

 同条例は小池都知事が実質的に率いる都民ファーストの会と公明党、民進党が共同提出して賛成多数で可決されたが、反対した自民党都議からは次のような批判が上がった。

「私的空間を条例で規制するには慎重かつ十分な審議が必要だが、たった1日の委員会質疑ではあまりに拙速。継続審議すべきだ」

 それもそのはず。家庭やマイカーの中にまで行政が介入するようになれば、都民の生活に大きな影響を及ぼすのは必至である。にもかかわらず、有識者を集めた検討会などは開かれず、都議会で事実上、審議された時間は9月29日の厚生委員会の約1時間半と、10月3日の同委員会の約10分のみ。その2日後に本会議でスピード採決という流れでは、十分な議論が尽くされたとはとてもいい難い。

 手続きの拙速さもさることながら、問題はやはり行政がプライベートな空間にまで立ち入ることにある。全国の自治体で初めて屋内喫煙を規制した神奈川県受動喫煙防止条例の見直し検討部会長を務めてきた玉巻弘光・東海大学名誉教授(行政法)の指摘だ。

「『法は家庭に入らず』という格言があるように、家庭内は基本的には私的領域として家族の自律に委ねられるべきであり、法が踏み込むことには謙抑的であるべきだ。実際、刑法では、親族間の窃盗のように法が家庭に入ることを控えている部分がある」

 一方で、子どもを守るために家庭内を規制する法制もある。児童虐待防止法やDV(ドメスティック・バイオレンス)防止法などがそれにあたり、条例案をまとめた都議は「受動喫煙は児童虐待と共通性がある」などと主張してきた。しかし、玉巻氏は「児童虐待やDVはただちに人の安全にかかわる問題であり、窃盗や受動喫煙とは危険の性質が異なる」として、こう続ける。

「本気で子どもを守るのであれば、溺死や転落、やけど、誤飲など命にかかわるより大きな危険を防止する責務も併せて課す必要を検討しなくてはならないはず。なぜ受動喫煙だけを抜き出すのか。法が介入すべき問題と、介入を控えるべき問題の境界線は十分に検討する必要がある」

 無論、子どもを受動喫煙から守るという目的そのものに異を唱える者はいないだろう。実際に、子どものいる喫煙者からは、すでに家庭内では換気扇の下やベランダで喫煙していたり、子どものいるリビングでは一切喫煙しなかったりするという話をよく聞く。多くの喫煙者が自主的に受動喫煙を防ぐ傾向にある中、公権力が私的空間にまで踏み込む一律規制を課すには検討の余地は十分に残されているはずだ。

 今回の条例は罰則のない「理念条例」であり、児童虐待防止法のような通告義務や立ち入り調査などは盛り込まれてはいない。

「ただし、条例には施行後に検討を加えて必要な措置を講ずると記されており、今後は罰則規定の追加もあり得る。ましてや都の条例と同じ趣旨で豊島区がまとめようとした条例案(現時点では区議会への提出見送り)には公権力に通報できる条項まで盛り込まれた経緯もあり、その行方は注意深く見ていく必要がある」(前出・玉巻氏)

※SAPIO2017年11・12月号

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