銚子電鉄 「お先真っ暗セット」で新型コロナウイルスに対抗

新型コロナウイルスで銚子電気鉄道にも危機 「お先真っ暗セット」発売し対抗

記事まとめ

  • 銚子電気鉄道は何度も経営危機に瀕してきたが、卓抜なアイデアで危機を乗り越えてきた
  • 新型コロナウイルスでは観光客需要がほぼゼロになり、3密ではなく「乗客がゼロ」とも
  • グッズをセット販売にした「お先真っ暗セット」や手作りマスクの販売を開始した

銚子電鉄 「お先真っ暗セット」で新型コロナウイルスに対抗

銚子電鉄 「お先真っ暗セット」で新型コロナウイルスに対抗

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 銚子電気鉄道株式会社、通称「銚子電鉄」といえば、超ローカル線でありながら、度重なる経営危機を、運賃外収入を得ることで乗り越えてきたことで知られている。法律で定められた車両点検費用を賄うための費用として、ぬれ煎餅を買おうという呼びかけがネットに広がったことを記憶している人も多いだろう。そして、新型コロナウイルスの感染拡大による影響は、もちろん銚子電鉄も直撃している。ライターの小川裕夫氏が、新商品「お先真っ暗セット」を抗コロナウイルスとする攻めの営業についてレポートする。

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 新型コロナウイルスの猛威が止まらない。

 感染拡大に歯止めをかけるべく、4月7日には安倍晋三首相が記者会見を開き、緊急事態を宣言。同宣言により、東京都・大阪府を含む7都府県が対象地域に指定された。

 それでも、日を追うごとに1日の新規感染者数は右肩上がりを続け、新型コロナウイルス禍は国民を恐怖に陥れている。事態を重く見た政府は、4月17日に緊急事態宣言の対象地域を全国に拡大した。

 密閉、密集、密接の「3密」を避けるように呼びかけられ、急速に在宅ワークへの切り替えが行われているため、通勤する人が減少している。しかし利用者が減少しても電車の運転本数を減便したら、電車の混雑は解消しない。満員電車は感染拡大の原因でもある。そうした事情から、首都圏の鉄道各社は利用者が少ないのに減便できなかった。

 一方、通勤ラッシュが生じない地方の鉄道会社は、外出自粛を受けて減便を決行した。運転本数を削減することで経費削減に努めている。しかし、運行本数を減らしたからといって、削減できる金額は小さい。車両・駅などの維持管理費を大幅に削減できるわけではないからだ。

 そうした事情から、地方の鉄道会社は生き残りに必死だ。

 地方の鉄道が苦境に陥っている中、銚子電気鉄道が孤軍奮闘している。千葉県銚子市に約6.4キロメートルの路線を有する銚子電鉄は、これまでにも何度も経営危機に瀕してきた。廃線やむなしの声が出るたび、銚子電鉄は卓抜なアイデアで危機を乗り越えてきた。

 千葉県の片隅で走る銚子電鉄が全国に名前を知られるようになったきっかけは、2006年に車両の点検費用を捻出できない事態に直面したときだった。

 鉄道会社が所有・運行する車両は、定期的に保守・点検することが法的に定められている。これは、乗客の安全を確保するうえで当然といえるが、そうした保守・点検作業には莫大なメンテナンス代が必要になる。

 銚子電鉄は、これらの費用が不足した。その際、ブログに「電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです」と記述。その電車修理代を確保するために、銚子電鉄が副収入を得るために製造・販売している“ぬれ煎餅”の購入を呼びかけた。

 お堅いイメージのある鉄道会社が、赤裸々な呼びかけをしたことは大きな話題になった。銚子電鉄の叫びは、インターネット掲示板「2ちゃんねる(現・5ちゃんねる)」に転載され、そこから銚子電鉄の悲痛な叫びは爆発的に広まる。話題を聞きつけたテレビ・新聞などもこぞってブログの内容を取り上げ、銚子電鉄のぬれ煎餅は一気に全国区の銘菓へと変貌。ぬれ煎餅の爆発的なヒットによって、銚子電鉄は一時的に危機を脱した。

 しかし、銚子電鉄が慢性的な赤字経営であることに変わりはない。そのため、銚子電鉄は新企画を連発していく。

 2008年には、累計発行部数50万部を突破し、アニメ化もされた人気漫画『鉄子の旅』とコラボレーション。新たなファン層の開拓に乗り出した。

 そうした新しい企画を手がけながらも、「全国でも1、2を争うほど経営状態の厳しい鉄道会社なので、とにかく正攻法だけでダメ」と現状には満足せず、常に新たな集客を模索するのは銚子電鉄鉄道部の担当者だ。

 2018年には、ぬれ煎餅ブームが一段落していたテコ入れとして、新商品のスナック菓子「まずい棒」を発売した。経営が"まずい"と経営危機を全面に出した自虐的な商品だったが、まずい棒もヒット商品となった。その売り上げが、銚子電鉄の経営を支える。

「本州のとっぱずれ(一番端っこ)にある銚子電鉄は、かしこまった発信しても相手に情報が届きにくいという不利な面があります。自虐的な取り組みでも面白がってくれる社風があり、それが広報的にも大きいと思います。かっこうつけないで、単刀直入な呼びかけをすることで、広く共感を得ていると受け止めています」(同)

 2019年、銚子電鉄は「売るものが無くなってきたから音売ります」と、YAMAHAとタッグを組んで電車音や踏切音などをダウンロードできる音楽配信サービスに参入している。

 新しいチャレンジを続けてきた銚子電鉄だが、他社同様に新型コロナウイルスが経営に大きな影を落とす。銚子電鉄の観光客需要はほぼゼロになったのだ。

「銚子電鉄の利用者のうち、8割以上が観光客です。その需要がなくなったので、運賃収入はかなり厳しい状態です。また、学校が休校しているので、学生の利用もありません。そのため、銚子電鉄の利用者は激減しています。そうした状況のため、減便を実施しました。それでも、3密になることはなく、乗客がゼロという列車もあります」(同)

 苦境に陥っても、自虐的なユーモアを忘れないセンスには脱帽するばかりだが、心中は穏やかではないだろう。

 ぬれ煎餅、まずい棒、そして音楽配信サービスと貪欲に運賃外収入を求めてきた銚子電鉄は、次なる手段として“お先真っ暗セット”を4月20日から発売した。同セットは、サングラス・メガネ拭き・定規としても使えるキーホルダー2種・マグネットがセットになった商品。そして、お先真っ暗セットと同時に新型コロナウイルスによって品薄状態が続くマスクの販売も開始。

「お先真っ暗セットは、まずい棒に続く自虐ネタです。これは、もともとイベントなどで販売していたグッズをセット販売にした商品です。新型コロナウイルスによって、イベントが中止になって販売できなくなってしまったので、インターネットによるセット販売へと切り替えました。また、新型コロナウイルスの影響で生産ラインが停止してしまった工場と協力して製造した手づくりのマスクの販売も始めました。銚子電鉄を残していきたいという地域の気持ちと、地域を応援したいという銚子電鉄の気持ちがひとつになって始めた企画です」(同)

 銚子電鉄のグッズ販売は、少人数で企画・担当していることもあり、手が回っていない部分もある。新企画が出てきても、着手までに時間を要する場合もある。それでも、新たな展開を貪欲に模索する。その姿勢が買われてか、「お先真っ暗セット」や、直後に販売開始となった「銚子電鉄コロナウイルスによる廃線危機救済セット」は現在、当初の予定分を完売した。だがこれでは十分と言い難い。今後も、新たなグッズ展開を予定しているという。

新型コロナウイルス禍は春休み、そしてゴールデンウィークという鉄道会社にとって書き入れ時を直撃した。そして、終息する見込みも立っていない。

 鉄道会社を応援したいと思っている人は少なくないが、不要不急の外出を控えるように言われている今、銚子電鉄に乗って応援することはハードルが高い。しかし、ネット経由でグッズを購入することは全国どこからでも難しくない。

 銚子電鉄の奮闘は、苦しい経営に追い込まれている鉄道各社の参考になるだろう。なにより、励みにもなるはずだ。銚子電鉄に触発されたかのように、ネットで自社ノベルティグッズや不要になった鉄道部品などを販売する鉄道会社も出てきている。

 新型コロナウイルス禍はまだ続きそうな気配だが、乗り越えようとする鉄道各社の奮闘にエールを送りたい。

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