集中医療を譲る意志カードの難題 同調圧力生まれる懸念も

集中医療を譲る意志カードの難題 同調圧力生まれる懸念も

「若者に譲る」という決断ができるか(写真/Avalon/時事)

 大阪大学人間科学研究科未来共創センター招聘教授で現役医師(循環器科専門医)の石蔵文信氏(64)が高齢者向けに作成した「集中治療を譲る意志カード(譲〈ゆずる〉カード)」が話題を呼んでいる。表面には次のように記されている。

〈新型コロナウイルス感染症で人工呼吸器や人工肺などの高度治療を受けている時に機器が不足した場合には、私は若い人に高度医療を譲ります〉

「譲カード」には医療現場の負担を軽減する狙いがあるが、経済評論家の宮本勝浩氏(75)は、「命は年齢に関係なく大切なので、難しい問題」と答える。

「自宅がクラスター化して家内や子供、孫まで家庭内感染して病院に運び込まれた時に医療機器が足りなかったら家族を優先してほしいけど、見ず知らずの若者に譲る覚悟はありません」

 宮本氏の弟は脳梗塞で倒れ、寝たきりで5年間過ごした。本人が「延命措置は不要」との意思を示していたため、実際に胃瘻手術をせず旅立った。

「弟は生前に自分の意思で書面に書き残していましたが、あくまで『回復の見込みがなくなれば』ということでした。新型コロナは助かる見込みがある。若い人に長生きしてほしいとの気持ちはわかりますが、年寄りに“命を譲れ”という同調圧力が出てくるのはどうなのか」(宮本氏)

 高齢者にとって、どのように自らの死を迎えるかは遠い問題ではない。

 一般に、耐え難い苦しみに襲われている患者や助かる見込みのない末期の患者が、医師の力を借りて自らの意思で死を選ぶことを「安楽死」、患者の意思で積極的な延命治療を行なわないことを「尊厳死」と呼ぶ。政治評論家の小林吉弥氏(78)はこう指摘する。

「日本では安楽死が認められない一方で尊厳死の法律がなく、医療現場では事前に患者本人が希望してもそう簡単に人工呼吸器を外せないのが現状です。『譲カード』が提起するのは、自らの意思で死を選ぶ尊厳死をどう考えるかという問題です。私は譲る、私はダメという個人レベルの問題ではなく、社会全体が考えるべき課題です」

※週刊ポスト2020年5月22・29日号

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