夜の歓楽街、このままでは「コロナ隠し」発生を驚けない

夜の歓楽街、このままでは「コロナ隠し」発生を驚けない

歓楽街に生きる人々の本音は(時事通信フォト)

 緊急事態宣言の延長が発表されたとき、安倍晋三首相は会見の締めくくりで「みんなで前を向いて頑張れば、きっと現在のこの困難も乗り越えることができる。国民の皆様の御理解と御協力をお願い申し上げます」と呼びかけた。この発言に対し、そんなことでウイルスに対抗できるかと呆れる人たちがいる。ライターの森鷹久氏が、見放されている自分たちは、勝手にやるしかないと営業を続ける接客業の世界の本音と「コロナ隠し」についてレポートする。

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「休業要請とか補償金とか、そういうのは全部"オモテ"の人たちの話でしょう? 僕らは“分断”された世界に住んでいるので、関係ありませんよ」

 4月下旬、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために各自治体が出した「休業要請」に従う飲食店が多い中、都内のキャバクラ店経営・大場寛也さん(仮名・30代)は、筆者の取材にこう言ってのけた。

「だいたい、国や都のいうことを聞いていたら、まともに商売もできません。以前は朝までやれていた営業も、深夜一時をすぎると取り締まられるようにもなりましたよね? 水商売だから、毎月毎年、安定して売り上げが見込める業種ではないのに、税金は他の業種と同じようにがっぽり取られるし締め付けもすごい。はっきり言って、法律をいちいち守っていたら、商売も生活も成り立たないんですよ」(大場さん)

 大場さんの店では、日本国内でも新型コロナウイルスの感染が拡がった今年2月ごろから現在まで、元々の定休日を除き、休業は一切行っていない。3月の終わりに、隣接地域のクラブ店で「クラスター」が発生した際には、店で働く女性従業員が怖がったこともあり、1日だけ店を閉めたが、それ以外はいつもと変わらず、時短営業すら行わず営業を続けている。感染者が出たらどうするのか、身勝手とは思わないのか、筆者の問いには全く悪びれる様子もない。

「だから、休業協力金も、従業員への手当てもいりません。全部自分たちでやる。うちなんかはマシな方でしょう、税金はしっかり払ってるんで。この業界、税金もしっかり払っていないところが多いんです。彼らも、国や都に助けてもらおうなんて思っていない。だから営業してる店が多いんです」(大場さん)

 千葉県内のバー経営者も、全く同じような論調で、営業の自粛をしない自身のスタンスを正当化する。

「助成金一つもらうにしても、直近の売り上げから半分以上下がっていないとダメとか、仕組みがいちいちややこしい。2月や3月なんか、すでにコロナの影響で落ち込んでいるんですけど、そこから半分以上落ちるということは、もう首をくくっているレベルなんですよ。国も県も市もあてにならないから、4月の中頃から店を開けています。まともにやろうとしてもできないから、結局裏でこっそりやるしかないし、そうしないと本当に死んでしまう。評判とか、そういうのはもう考える余裕もないんです」(バー経営者)

 同じく千葉県内の風俗店経営・内田望さん(仮名・40代)も、一時期は休業に踏み切ったが、助成金や休業補償金があまりにも低く、いつ給付されるのかもわからないといった現状にしびれを切らし、営業を再開した。

「実は近くの同業店でコロナウイルスの感染者が出たんです。流石にまずいということで、付近の店は一斉に休業に入りました。風俗店にも休業協力金が支払われるとの報道もあり、それなら、と思ったんです。でも蓋を開けてみると、補償額は数十万だし、手続きも煩雑。従業員へ、手当を出すこともできない。休業しようにも一ヶ月分の生活費も捻出できないということで、近隣店舗も一斉に営業を再開しました。犯罪者だとかヤクザだとか、クレームの電話も来ます」(内田さん)

 水商売、風俗業界というのは、一般的な企業に比べて見れば、関係者以外からは確かに謎に包まれた部分も多く、法の抜け道を探るようなスタイルでもって、なんとか営業できているという側面もあった。当局は当局で、そうした実情をある程度は把握しつつも、是々非々、清濁併せ呑んでやってきたというのも関係者の本音なのだろう。要はずっと自他共に認める「アウトサイダー」スタイルでやってきたのに、ここにきて人様と同じように休業しろ、補償はいつになるのかわからない、そう言われても呑めるわけがない、というのだ。内田さんが続ける。

「同業者には、すでに“コロナ隠し”をやっているような業者もありますよ。普段は取り締まりから目をつけられながらもやってこられたのに、衛生面とか収支とかコロナのせいで洗いざらいバレて、全部パーになるなら隠すしかない。営業やめると死ぬから続けるけど、またコロナが出て、クラスターが発生しても、強行営業する店だってあるでしょう。そもそも普段から低く見られて、役所にもまともな人間扱いされたことなんてない。普通の人たちとは違うんです」(内田さん)

 内田さんが言うところの「分断された世界」では、最悪の事態が進行しつつあることがわかる。「コロナ隠し」、つまり従業員もしくは客などの訪問者から新型コロナウイルスの感染者が出たことを伏せ、それに応じた対応をせずに営業を続ける店舗が出現していることだ。適切な対応をとらない人たちが悪い、ではすまされない。彼らが“普通の人たちとは違う”と自虐しようとも、彼らに同等の支援を与えることを生理的に嫌がる国民の声があがっても、それでもコロナ対策をとるような仕組みと施策が必要であることは明白、それが感染症対策なのだ。すべての人の人権に配慮しつつ、これらの対応をとる難しさは百も承知だ。政府や自治体の長、そしてテレビや新聞が毎日のように「みんなでコロナに打ち勝とう」「一緒に乗り切ろう」と叫ぶなら、彼らも含めて感染症対策を当たり前にとれるような具体的施策を打ち出すべきだろう。

 普段の生活で交わり合うことがほとんどない私たちと彼らだが、ガラス越しに全く別の世界に暮らしているわけではない。平時にお互いが生き方の「差」を感じていようとも、そんなものにウイルスは忖度してくれない。小さな自粛が誰かの命を助けることにつながるかもしれない、そう考えられるだけの余裕を生み出せる状況、制度が作られない限り、我が国からウイルスの脅威は遠ざからないのである。

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