成立断念の検察庁法改正案 86%が「容認できない」と回答

「#検察庁法改正案に抗議します」運動、コロナ自粛が反対運動を盛り上げた可能性も

記事まとめ

  • 検察庁法改正案をめぐって、今国会での法案成立が見送られることになった
  • NEWSポストセブンのアンケートでは「容認できない」人は86.2%(1166人)と9割近くに
  • SNSでは「#検察庁法改正案に抗議します」運動に発展したが、コロナ自粛が影響したとも

成立断念の検察庁法改正案 86%が「容認できない」と回答

成立断念の検察庁法改正案 86%が「容認できない」と回答

「法案にはさまざまな批判があり、しっかりと応えて行くことが大切」と成立見送りの理由を語った(時事通信フォト)

 ツイッター上で火がついた「#検察庁法改正案に抗議します」運動。政府が審議を進めていた法案に反対する投稿やリツイートは、関連するハッシュタグをあわせて1000万件以上にのぼったとされる。世論が沸騰するなか、政府は今国会での同法案成立を見送り、再び秋に予定される臨時国会で議論されることになった。

 波紋を広げたのは、国家公務員の定年を65歳に延長する国家公務員法改正と合わせて「束ね法案」として議論されていた検察庁法改正案。これは(すでに定年が65歳となっている検事総長を除く)検察官の定年を63歳から65歳に引き上げるとともに、検事長・次長検事といったポストは63歳で「役職定年」となることを定めた上で、必要と認められればその定年を超えてもポストにとどまることができるようにするものだった。

 法案見送りに先立つ5月15〜17日、NEWSポストセブンでは【検察庁法改正案、あなたは容認できますか?】と題する緊急アンケートを行った。男女1353人(男女比はおよそ7対3)から回答を得た結果、「容認できる」と答えた人は13.8%(187人)にとどまり、「容認できない」と答えた人は86.2%(1166人)と9割近くに上った。

 圧倒的多数が「容認できない」とした理由はさまざまだが、特に目立つのは「三権分立が保てなくなるから」という意見だ。

「権力からの高い独立性が堅持されるべき検察庁の人事に、内閣の一存で特定の人物だけを役職付きで定年延長できることは、三権分立を壊す」(48歳男性)
「三権分立を子供にどう説明したらいいのかわからない。逆に子供にどう説明したらいいのか教えてほしい」(51歳女性)

 安倍晋三首相は5月14日の会見で「今回の改正により、三権分立が侵害されることはもちろんないし、恣意的な人事が行われることはないことは断言したい」と述べていた。この首相発言についても批判が寄せられた。

「検察への恣意的な人事介入するかしないかではなく、できるかできないか。今回の件はあからさまに、できるのほう」(27歳女性)
「『恣意的な人事をしない』と首相は言うが、『恣意的な人事ができる』ようになることが問題だ。為政者の心持ちの問題ではない」(38歳男性)
「仮に恣意的な人事をしないとしても、その権利を持っているだけで圧力になる。安倍さんは『国民に丁寧に説明する』ってよく言うけど、今まで納得できるような『説明』をしてもらった記憶は全くない」(50歳女性)

 森友・加計学園問題や「桜を見る会」私物化疑惑などを通じ、安倍首相個人や現政権への不信感を募らせたという意見も多かった。それと同様に目立つのが、世界中がコロナ禍に見舞われている最中に法案を採決しようとしたことへの違和感の表明だ。

「非常事態宣言時には感染症対策を疎かにし得るような審議をすべきでない」(42歳女性)
「わざわざこのコロナウイルスの最中に、短時間で議論し、採決しなければならないことでしょうか。不要不急ではない理由は?」(55歳男性)

 その“理由”として、今年1月に閣議決定された黒川弘務・東京高検検事長の異例の定年延長との関係を指摘する声が多く挙がった。

「現在の法解釈を曲解して黒川氏の定年延長を決定したことへの法的な後ろ盾を形成する意図があると捉えられるのが、通常の国民感覚である」(42歳男性)
「新型コロナウイルス対応に注力すべき本国会で当法案を性急に議論、議決すべき理由は(黒川検事長のグレーな定年延長を正当化したい、くらいしか)見当たらない」(54歳男性)
「今、法案化の中で議論している、内閣が特例で定年延長する『基準』の前に、既に行われた黒川検事長の定年延長をどういう判断で行ったのかをもっと問いただすべきだと思います」(65歳男性)

◆ネット世論が盛り上がった背景

 約86%に上る「容認できない」に対し、同法案を「容認できる」と回答した約14%の意見で目立つのは「高齢社会のいま、定年延長に何の問題があるのか」(33歳男性)といったものや、「反対意見はなぜか感情的なものが多い」(45歳男性)などだった。また、検察自体への不信感も散見された。

「検察は村木厚子さんの件など過去の冤罪事件を見ればわかる通り、絶対正義ではない」(40歳女性)
「起訴後の有罪率がほぼ100%である日本の司法において起訴する権利を検察に独占させていることが問題であり、そちらを批判するということであれば納得できる」(33歳男性)

 嘉悦大学の高橋洋一教授は「#検察庁法改正案に抗議します」のハッシュタグが広がっていた5月10日、そうした動きに苦言を呈する立場から、「法案を読めば、検察官だけではなく公務員全体の定年延長の話。公務員の定年は年金支給開始年令に連動したもので、定年引き上げは20年くらいからの既定路線。というと、法務省人事の問題という声もあるが、法案には人事なんてどこにも書いてない」とツイート。法案に賛同する層から一定の支持を集めている。

 法案の成否は秋の臨時国会に委ねられるが、今回特徴的だったのは、「一つの法案」についてSNSを通じて「国民的議論」が盛り上がったことだ。『なぜ政治はわかりにくいのか』などの著書がある東京工業大学の西田亮介准教授(社会学)はこう分析する。

「ネットでハッシュタグを使って運動と議論を盛り上げる動きは、常態化しつつあります。最近ではグローバルに盛り上がった#MeToo運動がありますが、今回は国内問題、しかも政治に関して桁違いに盛り上がりました。従来、政治的な態度を明確にしてこなかった芸能人なども、数多く反対の意思を表明しました。有名人である彼らはネット上のインフルエンサーでもあるので、ファンだけでなく、それ以外のユーザーも呼応して同調が広がったのだと思います。

 今回の盛り上がりについては、好ましい面とそうでない面があります。そもそも政治に関心がなかった若者が関心を持つようになり、何かと政治的な議論を避けがちな社会の風潮が変化するなら好ましいでしょう。しかし、同時に、ステレオタイプな政権批判が目立つ一方で問題点を深掘りする議論がないように見えます。『反対運動に同調しないとは何事か』など“自粛警察”に似た動きがあることも気になります」

 西田准教授はまた、コロナ自粛という特殊な状況が、反対運動を盛り上げた可能性があると言う。

「芸能人を含む多くの人がステイホームの共通体験を余儀なくされたことで、スマートフォンを手にネットを眺める時間が長くなっています。コロナ禍という緊急状況下では、誰もが仕事やプライベートを制限されたという“被害者意識”をもっている。その矛先のひとつが、SNSでの検察庁法改正案反対運動だったのではないでしょうか」(西田准教授)

 そして結局、検察庁法改正案の今国会での成立は見送られた。この間の政権がとった態度について、西田准教授はこう指摘する。

「一部報道や当方の研究でも、現政権はネットの『民意』に強い関心を示しています。しかし、『国民の反対』を理由に政府の方針がコロコロ変わるようでは、『民意』と異なった妥当な政策があるときに、それが採用されにくくなる恐れがある。為政者には、たとえ反対が多くても必要があるときには責任をもって民意を説得する、という選択があり得るはずです」

 前述の通り、本アンケートでは9割近くもの圧倒的多数が「容認できない」と回答したが、奇しくもそのなかに次のような42歳女性の言葉があった。

「民主主義の根幹となるのは、多数決ではなく、対話である」──為政者たちはもちろん、我々国民も胸に刻むべき至言であろう。

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