開成・灘・麻布の生徒たちが過ごした休校期間のすごさ

開成・灘・麻布の生徒たちが過ごした休校期間のすごさ

開成(東京都荒川区)は東大合格者数日本一

 全国で9割以上の学校が休校措置を取るなか、子供たちにとって、この期間を有意義に過ごせるかどうかはその後の学力にも影響する大問題だ。東大合格ランキング上位常連の進学校の生徒たちを取材すると、やっぱり「できる子供」は時間の使い方が一味違っていた。

◆社会人にビジネスを学ぶ

 全国でコロナ休校が続くなか、“超進学校”でも対策が講じられている。

 東大合格者数日本一を誇る開成中学・高校(東京都荒川区)では、4月半ばからオンラインでの授業や課題を導入した。同高校教務委員長の神田邦彦氏が語る。

「対面での授業ができない代わりに、双方向のオンライン授業や録画した講義を動画配信したりするなど、各教科の教員ごとに工夫しつつ、学年ごとに週単位で時間割を組んでいます」

 西の名門、灘中学・高校(神戸市東灘区)でも、5月の連休明けからグーグルの「クラスルーム」というサービスを用いたウェブ配信授業が始まった。

「できるだけ平常授業と変わらない量をこなせるよう、プレゼンソフトを使った音声解説付き教材や、期限付きの課題を出しています。多くの生徒がパソコンやスマホで配信授業を視聴しており、平時の7〜8割の内容は達成できていると思います」(海保雅一教頭)

 生徒の自主性を重んじる校風で知られる麻布中学・高校(東京都港区)では、平秀明校長が休校前、生徒にこんな言葉を送った。

〈英国の生んだ偉大な科学者アイザック・ニュートンは、学生時代にペストの流行で大学が閉鎖となり、ロンドンから離れた郊外でゆとりある思索のなかで万有引力の法則を発見したと言われています。諸君に与えられたこの時間をぜひ有意義に過ごしてほしいと思います〉(麻布のHPに掲載された「生徒諸君へ」より)

 校長のメッセージを受け、生徒は様々な活動に取り組んだようだ。同高校3年の洪克樹さんは「麻布生によるビジネスプラン大会」を自ら企画し、オンラインで開催したという。

「僕は今年4月下旬、世界で起業学習プログラムを提供する『DECA』のビジネスプラン世界大会に日本代表として出場するはずでした。新型コロナ感染拡大で大会は中止になりましたが、世の中の問題を解決するビジネスを考えた経験は、とてもためになりました。僕以外の麻布生でもできるのではと思い、校内でビジネスプラン大会を企画したんです」

 参加学生の募集やチーム分け、ビジネスプランの作成、起業家や会計士による審査まで、すべての過程はオンラインで行なわれた。

 5月2日の本大会に参加したのは高校生13人と中学生1人。最優秀賞は発起人である洪さんのチームだった。

「新型コロナでは靴にも注意すべきというアメリカの研究を踏まえ、紫外線によって靴を殺菌・消臭・乾燥する箱形の機械を開発し、ホテルにレンタル・販売するビジネスプランを立てました。開発費や人件費などのコストを踏まえ、5年後の利益まで計算しています。多くの日本のビジネスコンテストは商品ベースで買ってもらうことを考えますが、『DECA』は社会問題からビジネスを考えるという発想が特徴的です」(洪さん)

◆「オンライン文化祭」の準備

 灘中・高では、5月2〜3日に予定されていた伝統の文化祭が中止となった。

「毎年高校3年生が中心になり、中高6学年がひとまとまりになって100人以上の文化委員会を組織して実施しています。例年は2日間で2万人のお客さんが見えるのですが……」(前出の海保教頭)

 それほどの一大行事だけに「オンライン文化祭」の準備が進められているという。同高2年の生徒が語る。

「文化祭に出品する予定だった巨大なレゴブロックの作品や学術発表など、すでに制作を終えているものも多く、生徒会が中心となってオンラインで動画配信するようです」

『男子御三家 麻布・開成・武蔵の真実』(文春新書)の著者で、中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平氏が指摘する。

「灘と麻布は校風が近く、生徒の自立や『個』を重んじる傾向が強い。生徒たちもそうした自由な校風によって、自分のやりたいことを追求する生徒たちが多いようです」

◆「Zoom自習室」で“共学”

 東大合格者数ナンバー1の開成は、勉強ばかりの日々を送っていると思われがちだ。しかし、例年5月中旬に開催される運動会は「開成生にとって魂みたいなもの」(同高校2年生)と言い、その準備には多くの時間と労力が費やされる。伝統の運動会は今年で149回目を迎える予定だったが、中止となった。

「戦時中以来81年ぶりの中止です。3年生の先輩は『理解はしてるけど納得はしていない』と言いながらも、今年は早めに“受験モード”に切り替えているそうです」(同高校2年)

 そうした影響もあり、「開成高校は39年連続東大合格者数1位ですが、今年はさらに実績をあげるかもしれない」(大手進学塾サピックスの教育事業本部長・広野雅明氏)という声も聞かれた。

 高校2年生以下は、各々充実した時間を過ごしているようだ。数学教師を目指す開成高2年の生徒が語る。

「都内進学校の生徒が地方の小中生にオンラインで勉強を教える『ファーストペンギンハイスクール』という家庭教師の事業に参加しました。これは東京と地方の教育格差を是正することを目指す、現役高校生による取り組みです。中2の時に数学教師になることを決め、数学オリンピックや大学での研究のことよりもわかりやすい数学教育とは何かを意識してきた僕にとっては、まさに絶好の機会でした」

 彼自身が勉強する上で、オンライン通話アプリ「Zoom」を使って一風変わった勉強法を実践しているという。

「自宅で1人だと遊びの誘惑もあって勉強に集中できない、という生徒もいます。そこで自宅の勉強机の上で、勉強している手元だけをZoomで映し、大人数がアプリ上で一緒に勉強しているように感じられる『Zoom自習室』という取り組みをしています。パソコン画面にみんなの手元が映っているだけで、本当の自習室のようにみんなが集中している実感が湧くので、自分も集中しなきゃと思えます」(同前)

◆「小津安二郎の映画」が課題に

 読書や映画鑑賞に取り組んだ生徒も多かった。麻布中学2年の生徒は、多ジャンルにわたる本を読破した。

「高嶋哲夫のパンデミック小説『首都感染』をはじめ、梶山三郎の経済小説『トヨトミの野望』『トヨトミの逆襲』、清武英利の『しんがり 山一証券 最期の12人』、末永幸歩の『13歳からのアート思考』、瀧本哲史の『ミライの授業』、楠木建の『ストーリーとしての競争戦略』、雫井脩介の『検察側の罪人』などをいずれも電子書籍で読みました」

 開成高2年の生徒は、映画鑑賞の課題があったと話す。

「現代文の課題で、小津安二郎監督の映画『東京物語』を鑑賞して読解させるものが出ました。最初は白黒映画への抵抗もありましたが、今の映画作品とは違うなんとも言えない良さを感じました。これまで観ていなかったのが悔やまれます」

 ──ニュートンはペストによる大学休校期間を“創造的休暇”と呼んだとの逸話も残っている。いつか2020年春を振り返って、「あの外出自粛の日々が天才を育んだ」と評価される日が来るかもしれない。

※週刊ポスト2020年6月5日号

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