「レモネードには騙されない」タピオカで損させられた大家の弁

「レモネードには騙されない」タピオカで損させられた大家の弁

タピオカの次はレモネード?

 どんなことにも始まりがあれば終わりがあるように、どんなブームにも終わりが来る。透明容器の液体のなかに黒い小さな粒がコロコロと浮かぶ様子がインスタ映えすると爆発的ブームになったタピオカドリンクは、5坪に満たない狭小な場所でも開業できると店舗が大増殖した。しかし今や、タピオカドリンクにかつての勢いはない。代わって人気急上昇中なのが、ビタミンカラーがキレイで美容にもよいと大注目のレモネードだ。ライターの森鷹久氏が、タピオカブームに振り回され、レモネードでは同じ轍を踏まないと決意する人たちの事情についてレポートする。

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「忘れもしません、4ヶ月前ですよ。店にやってきて、次は大丈夫ですってパンフレット見せびらかしてね。また騙されるもんかって空返事で追い返しましたけど、最近テレビ見ていて『あっ!』って」

 東京都中野区の不動産店経営・冨田祐一さん(仮名・50代)が呆れたような乾いた笑い声をあげる。コンサルタントを名乗る男・Xを、自らが所有する都内の狭小店舗の内見に案内したのは昨年の春頃だった。

「タピオカ屋をやると言ってね、当時流行っていたでしょ? Xがコンサルしてる飲食系の社長が、うちの物件でタピオカ屋をやるんだって。4坪でも、とにかく安けりゃいいというから、全然借り手のつかない物件を格安で貸したんだ。家賃は10万円だったのを8万円に下げて、補償金もかなり下げた。2年は借りたいって言ってくれたからね。信用したんだよね……」(冨田さん)

 当時は、テレビや雑誌で「タピオカ」がブームと連日取り上げられ、原宿や渋谷を歩けばタピオカ屋を起点にいくつもの行列、多くの若者が透明容器に太いストローが刺さったタピオカドリンクを片手に闊歩していた。東京で言えば、新橋や大崎といったサラリーマン向けの街にまで、雨後の筍のごとくタピオカドリンク店が乱立した。

 ブームのときに慌てて参入する人たちの中には、少なからず不誠実な商いをする人たちが加わるものだ。X氏もそういった人物の一人だったと、彼を知る飲食店経営者・西川卓さん(仮名・30代)がいう。

「Xはチームを組んで、原価のかからないタピオカドリンクで金儲けするって息巻いてたんです。他の店が高級な茶葉を利用したミルクティを売りにする中、Xは激安スーパーで買ってきたペットボトルミルクティを使って、一杯100円しないのを600円で売っていた」(西川さん)

 大風呂敷を掲げて不真面目な商売をするのは、よくいるあまり賢くない「経営者」である。お客さんと向き合ってよりよいものを提供する努力よりも、自分が儲かって楽しい思いをすることしか想定していない。だがX氏らは、ビジネスが傾く場合もきちんと考えており、ある意味での「賢さ」もあった。

「盛り上がっている市場に加わって、半年か一年そこらで撤退するのがパターン。タピオカ屋も都内と名古屋で数店やって、売れなくなると責任を全部、現場の経営者に押し付けて逃げる。不動産屋には、経営者が悪いの一点張り。単に紹介しただけで責任はないと言い張る。かと思えば、次のネタ(商売)の話を持ちかける。私も2月ごろ、Xからレモネードの話を持ちかけられましたよ(笑)」(西川さん)

 前出・冨田さんの元からXはすでに去り、残ったのは経営者の未払い家賃だけ。経営者もXに騙されたと家賃を支払う気が無い。確かにXはコンサルタントにすぎず、冨田さんと賃貸契約していたわけではないのだろう。だから、家賃について支払い義務は生じない。冨田さんも被害を訴えているが、借り手が見つからない狭小物件を借りてくれるならと審査が甘くなっていたのではないか。詰めが甘い者どうしでビジネスをした結果、いつまで経っても家賃が払われない泥沼状態は続いている。

 確かにタピオカ屋がうまくいかなかったことで生じる責任すべてがXにあるわけではないのだろうが、それでもプロモーションでアテを外させたのだから、さぞかし評判を落としたはず。ところが、今はたくましく「レモネード」ビジネスの有望性を売り歩いていると言う。西川さんは、不誠実な人が加わったら、レモネードもタピオカのようにブームに急ブレーキがかかるだろうと言う。

「タピオカだって、ちゃんとしている店が、ブームに押されて出てきた粗雑な店に食われた感はありますよ。レモネードも、無農薬レモンにこだわって、シロップ手作りして、容器にもこだわってる店がすでにあるのに、Xみたいに不真面目な奴が出てきてさ……。どうせ業務用のレモンシロップに炭酸水入れて、またボロい変な商売するから、レモネードの印象まで悪くなる。ブームだってすぐ終わるよ」(西川さん)

 筆者はこのX氏に事情を聞くべく電話をしたが「人の商売に口出しするな」と言われ、取りつく島もなかった。

 ブームとは、色々な人の目を眩ますものだ。大人気のうちに波に乗らねばと焦るあまり、普段なら丁寧に確認することを怠る。タピオカブームがあれほど凄まじい勢いでなければ、借り手が見つからず持て余していた狭小物件を借りたいと申し出られたとしても、通常時の冷静さがあれば、彼らが言うビジネスは成功するかどうかを落ち着いて見極めたことだろう。賃貸契約の条件だって、もっと違うものを提案していたかもしれない。そして今は、コロナ禍によって冷静さを失っている人が少なくない。「本物」を見抜く力は、常に試されている。

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