倒閣の武器“落選運動”のやり方と「やってはいけないこと」

倒閣の武器“落選運動”のやり方と「やってはいけないこと」

会見も国会も逃げ回っている(時事通信フォト)

 政治家は忘れてはならない。国会議員が自らを「選良」というのは思い上がりで、正しくは主権者である国民に雇用された任期付きの特別職国家公務員に他ならない。総選挙は国民が議員の仕事ぶりを査定する、いわば契約更改であり、「落選運動」とは主権者から“あなたは議員の任に非ず”と突きつける解雇予告なのである。

 国民のために働かない議員を解雇するのは、主権者がその手に持つ正当な権利かつ“最強の武器”だ。

質問に答えない安倍首相

 本誌・週刊ポスト前号で報じた『「落選運動2020」を始めよう』の特集記事が反響を呼んでいる。

〈無策でコロナ禍を拡大させた議員〉
〈緊急事態の中で私腹を肥やした議員〉

 など、政治評論家やジャーナリストの指摘をもとに与野党合計38人の議員の実名を挙げ、国民が「落選運動」を起こすことが安倍首相を退陣させ、日本の政治を新しい時代に進める有効な手段だと問題提起した。合わせて「9月解散、10月総選挙」の場合、自民党は過半数割れの大敗になるという選挙予測を報じた。

 ツイッターなどのSNSでは、前号発売直後から「#落選運動2020」などのハッシュタグをつけたこんなつぶやきが増えた。

〈#落選運動 OKなんだ。コロナの今こそ政治手腕問われるのに後手後手、曖昧で国を治めるどころか対応は地方に丸投げ。そんな安倍総理、自民党、公明党を支持できません〉

〈これ、ちゃんとやりたいな。「落選運動・日付・選挙名」のタグで落としたい議員名、選挙区名、理由を流していったら、選挙の時に調べて参考にしてもらえないかな〉

 そうした有権者の動きを警戒しているのは自民党だ。地元回りをしている関東地区の中堅議員が渋い顔で語った。

「最悪のタイミングで嫌な記事が出た。落選運動で自民は大敗と書かれたことで何人もの支援者から『あんたは大丈夫か』と言われる。記事で名前を挙げられた議員は自業自得かもしれないが、こっちに飛び火したら困る」

 失政続きの政府のコロナ対応の中で、最も国民を苛立たせ、怒らせているのは安倍首相自身だ。

 2月の「全国一斉休校要請」、4月の「緊急事態宣言」と第1波の時は記者会見で自らの決断をアピールしていたのに、感染第2波が拡大した途端、確固たる方針を示すことができず1か月半も記者会見から逃げ回った。

 さすがに毎年恒例の広島(6日)と長崎(9日)の平和式典後の記者会見だけは回避できずに会見場に現われたものの、

「直ちに緊急事態宣言を出す状況ではない」

 そう感染対策について歯切れの悪い説明を繰り返し、記者の質問に答えたのは広島4問、長崎2問。いずれも回答書を読み上げただけで、追加質問は一切拒否して逃げるように席を立った。そんな安倍政権への失望は新聞・テレビの世論調査にはっきり現われている。

 TBS系列のJNNの世論調査(調査日8月1〜2日)では安倍内閣の不支持率が過去最高の約62%にのぼり、読売新聞の調査(同8〜9日)でも不支持率は同紙調査で最高の54%、安倍首相が新型コロナウイルス対応で指導力を発揮しているかという質問に「そうは思わない」との回答が78%に達した。

 従来の「反安倍」層だけではなく、安倍政権を支持してきた層にも「政権を任せておけない」という不信感が高まっていることを物語る数字だ。

 ではなぜ、国民による落選運動が安倍政権倒閣の“最強の武器”になり得るのか。現在の政治状況は事実上有権者に選択肢がない。

「安倍さんのままじゃコロナを乗り切れるか心配」と思っていても、自民党に投票すれば安倍政権が続く。かといって野党に政権を担えるとはとても思えない。それをいいことに、与党議員は“野党がだらしないから選挙に勝てる”とタカをくくって国民を顧みない。

 そんな状況で国民が政権にNOを突きつけるには、「落選運動」で与野党の無能な議員を名指して落選させ、主権者の力を見せつけるしかないのだ。国民の政治に対する“暴力装置”が落選運動の本質といえる。

個人でやるなら制限はない

 落選運動は誰でも1人で始めることができる。今年の通常国会終盤、検察庁法改正案を廃案に追い込んだツイッター・デモは、5月8日に1人の女性会社員が発信した〈#検察庁法改正案に抗議します〉というツイートから始まったとされる。それを小泉今日子をはじめ多くの著名人がリツイート(引用)したことで国民の間に一気に拡散し、短期間に900万リツイートを超える社会現象となった。

 前回総選挙の際、「落選運動を支援する会」を立ちあげた上脇博之・神戸学院大学法学部教授が語る。

「落選運動は個人でやるなら公選法の制限がないから何でもできます。SNSで呼びかけるのが一番手っ取り早い。落選運動という言葉に抵抗がある人は、『落選させましょう』とは言わずに、議員の過去の問題行動を指摘するだけでも効果はある。そこから不特定多数に共感してもらえば、次の選挙で『この議員は当選させたくない』と呼びかけるなどステップアップしていけばいい」

 どんなSNSを使うのが効果的だろうか。ITジャーナリストの三上洋氏に聞いた。

「ツイッターはリツイート機能があるので拡散しやすい。フェイスブックやLINEのタイムラインに投稿して、友達に『いいね』で拡散してもらうのも手です。ユーチューブやインスタグラムの動画投稿を利用するなら数分程度の短い動画の中で冷静に落選運動を呼び掛けることが必要ですが、リツイートやシェア(共有)機能がないのでフォロワー数が低ければ拡散は期待できません。

 いずれにせよ、SNSだけでは詳しい内容まで伝えられないので、落選運動を呼びかけるにあたっては、たとえば『落選運動2020』といったサイトだったり、ベースとなるHPやブログはあったほうがいい。そこで落選運動の趣旨や概要がわかるようにする。概要は詳しい記事やブログとリンクしてもいいわけです」

 もちろん、全部1人でやる必要はなく、やれる人に任せてもいい。

 落選運動に広がりを持たせるために気をつけたいのは、ネガティブキャンペーンとの線引きだ。

「ネットの傾向として特定個人に対する誹謗中傷は賛同を得られにくい。それを防ぐには“ネガキャンとは違う”とはっきりわかってもらうことが重要。前述のHPやブログなどでその政治家を落選させたほうがいいという客観的事実や検証結果を冷静に示すことです。SNSなどでの呼び掛けと、そうしたHPやブログを紐づければ落選運動に興味を持った人がHPやブログに訪問できます」(同前)

 落選運動の賛同者が全国的に広がったとしても、落選させたい議員が自分の選挙区とは限らない。

 そういうミスマッチを解消するために、SNSなどに「落選候補交換所」を開設し、落としたい議員の選挙区の落選運動参加者と投票を交換する方法がある。「ボート・スワッピング(投票交換)」と呼ばれる。三上氏が想定するのはこんなやり方だ。

「たとえばツイッターで票の交換を持ちかけるツイートをする際、最後に『#落選運動』と『#ボート・スワッピング』と入れる。『#』を入れるとその話題に興味のある人が集まってくる仕組みになっています。ただし投票の自由があるため、あくまで口約束で投票の強制はできません」

 図は、太郎、次郎、花子の3人が互いに投票行動を交換し、それぞれが落選させたい議員をかわりに落選させる「三角トレード」のやり方だ。交換所はネットやSNSに何か所できてもいいし、参加者が増えるほど、多くの選挙区で議員を落選させるチャンスが増える。

 ただし、落選運動にもいくつか注意点がある。まず特定候補への事実無根の誹謗中傷はやってはいけない(刑法違反)。「〇〇候補を落選させるために、××候補に投票しよう」と特定議員への投票を呼びかけるのは選挙運動と見なされ、公選法の対象になる。SNSでの運動は自由度が高いが、メールやHP、ブログを利用する場合、選挙期間中(公示から投票日まで)は公選法のネット選挙運動のルールが適用されることになる。

※週刊ポスト2020年8月28日号

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