新型コロナで病院経営に危機 厚労省の再編統合指針に疑問も

新型コロナで病院経営に危機 厚労省の再編統合指針に疑問も

病院がなくなるのは本当に困るが…

 4月10日、衆院厚労委員会で、野党議員が厚労省の進める公立・公的病院再編統合について質問をぶつけていた。ジャーナリストの山田稔氏が指摘する。

「新型コロナの感染者が急増して病床不足が深刻化し、東京都や大阪府がホテルなどに打診して、病床確保に向けた動きが続いている時期でした。厚労省が再編統合などの検討を促す病院には感染症指定医療機関も含まれる。そのことを問われたのですが、加藤勝信厚労相は、国の方針に変わりがないことを示したのです」

 昨年9月に厚労省が公表したのが、「再編統合病院リスト」である。

「厚労省は全国424の公立・公的病院について、『再編統合の議論が必要』と位置づけて、実名を公表しました。今年1月には再検証の結果、対象病院が約440になるとしました。全国1652の公立・公的病院のうち、人口100万人以上の区域に位置する病院をのぞいた1455病院の診療実績を分析し、再編統合の議論を促しているのです」(山田氏)

 対象となる病院の判断基準は、「診療実績が特に少ない」と「類似の機能を持つ病院が近接している」の2点だ。

あの有名病院が!?

 厚労省が挙げた約440の病院は地方に多いが、病床数の多い大都市の大病院も含まれる。リストには国立病院機構東名古屋病院(愛知)や国立病院機構千葉東病院(千葉)、東京都立神経病院(東京)などの名前がある。

 一方で東北や北海道といった地方の大病院もある。医療経済ジャーナリストの室井一辰氏が指摘する。

「これまで公的病院には、へき地医療や採算の取れない診療科を設置して地域の医療インフラを整える目的があり、赤字でも自治体からの税金で運営されてきました。しかし人口減で税収が伸び悩み、現状の医療体制を維持することが限界になりつつある現在、再編統合の流れが強くなっています」

 病院の現状を理解するには、経営状況を知ることも大切だ。総務省の調査では、平成30年度に全国の地方公共団体が経営する病院事業の56%が純損失を出し、累積欠損金は約1兆9000億円に上る。

 そこでリストには、60病院の自己資本比率を併記した。

「自己資本比率は、病院の経営状態を表わす指標のひとつといえます。この比率が低いと借金の割合が高いということになりますが、一般企業と違って病院はキャッシュフローが潤沢のため、債務超過でも銀行が融資するケースが多く、直ちに経営危機とは言えません。

 ただし今後、新型コロナの影響でさらに患者が減るとキャッシュフローも減り、経営が傾いてしまう可能性があります」(室井氏)

 患者としても、通っている病院の財務状態を知っておくのは重要になってくるというわけだ。山田氏もコロナの影響を心配する。

「新型コロナの患者を受け入れた病院の約7割が公立・公的病院です。この先、またコロナや未知の感染症が出てきたときに、再編統合で病院が減少していたら、患者の増加に対応できるのか懸念されます」

 厚労省は、原則として今年9月末までに約440病院が再編統合の方向性を示すことを求めていたが、新型コロナの感染拡大によっていったん期限を取り下げた。だが25年度を目標に再編統合を進める方針は変わっていない。山田氏が疑問を投げかける。

「公立・公的病院は地域に溶け込んだ、住民に不可欠の社会インフラです。今回のコロナ禍でも多くの患者を受け入れ、医療従事者が献身的な医療をしています。国の地域医療構想には感染症対応の視点が欠落しており、再編統合に向けた全国一律の指標のあり方には疑問があります。今回のコロナ対応の実績を検証したうえで多角的に分析し、一律的な病床削減方針を見直すべきです。

 一方で自治体や病院側も、高齢化が進行する社会に向けて、前向きな改革ビジョンを自ら打ち出す必要があります」

 闇雲に病院を減らすのではなく、高齢化社会に適応した、地域住民ファーストの医療体制を再構築することが望まれる。

※週刊ポスト2020年8月28日号

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