小池都知事肝いり「安心の虹のステッカー」は信用できるのか

小池都知事肝いり「安心の虹のステッカー」は信用できるのか

「感染防止徹底宣言ステッカー」について会見する小池百合子都知事(時事通信フォト)

 東京都がすすめる、用紙の上半分に七色の虹がデザインされた「感染防止徹底宣言ステッカー」。小池百合子東京都知事が会見で「100万枚を目指していきたい」「東京中を、安心の虹のステッカーで埋め尽くす」と述べていたように、普及は順調で、ほとんどの飲食店などの各種店舗、映画館や劇場などの入口に掲示されるようになった。このステッカーにはそれほどの威力があるのか。ライターの森鷹久氏が、声を潜めて虹のステッカーだけで簡単に信用してはならないとつぶやく飲食店で働く人たちの声を届ける。

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 真っ昼間から大勢の客で賑わう東京都目黒区内の飲食店。まだ陽も高いのに、アルコールで顔を真っ赤にしている客も目立つ。なぜ昼酒ができるのかと事情を聞けば「コロナで暇だから」とのこと。そんな大盛況の店内に、虹のモチーフが施された紙が一枚、ヒラヒラとはためいている。

「感染対策ステッカー? ああ……経営者が持ってきたから貼ってあるだけで、よくわかりません」

 店の従業員が興味もなさそうに答えてくれたこの紙、東京都が新型コロナウイルス感染防止対策として、事業者に掲示を呼びかけている「感染防止徹底宣言ステッカー」なるものである。感染防止対策に取り組んでいるということを示す手段として東京都が使用を呼びかけている「ステッカー」なのだが、効果のほどはどうなのか。大手紙都政担当記者はいう。

「国との対立を鮮明化させている小池都知事肝いりの『都独自』の政策で、事業者は都のHPにある『感染拡大防止チェックシート』に記入し、このステッカーをダウンロードし印刷、店に掲示できるという仕組み。ステッカーがある店は対策をとっているから安全、ということをアピールするためのものですが、正直、感染防止対策を行なっていない店でも簡単に取得ができるため、本当に意味があるのかと疑問視されていました」(大手紙都政担当記者)

 間も無く、ステッカーを掲示していた東京都江戸川区のフィリピンパブにおいて、新型コロナウイルス感染者のクラスターが発生した。区役所によれば、該当店舗はきちんと対策をとっていたと確認していたそうだが、マスコミも世間も「ステッカーに意味はあるのか」と騒ぎ出す始末である。「チェックシート」に倣い、感染防止対策を行いつつステッカーを張り出している東京都港区の居酒屋店店主・中間義和さん(仮名・50代)がため息交じりに話す。

「対策チェックといっても手洗いやマスク着用の徹底、密を避け、ソーシャルディスタンスを取り、清掃消毒、利用者や従業員の体調管理を行いましょうという、ごく一般的なもの。大皿料理を避ける、回し飲みを避ける、相席を避ける、などといった飲食店に特化した対策もあります。最初は『お、対策されてんじゃん』なんて言いながら店にやってくるお客さんもいましたが…」(中間さん)

 中間さんの店では、従業員は全員マスクとフェイスシールドを着用の上、レジ係はゴム手袋をはめ、客席には一人ずつ独立したアクリル製の衝立を設置。空気清浄機も導入し、とにかくやれる限りのことは全てやったと胸を張る。しかし……。

「他店はどうかと見て回ると、なんら対策もしていない店が堂々とステッカーを張り出していました。ステッカーを張り出していたとある店では、おしぼりを要求したところ『ない』と。消毒液はあるか聞くとそれも『ない』と。感染防止対策をしているのかと聞くと、商売の邪魔だと追い出されそうになったんです」(中間さん)

 東京都豊島区の飲食店では、さらに杜撰な方法によって「感染拡大防止徹底宣言ステッカー」が張り出されていた。同店の店長・原田亮一さん(仮名・30代)が声を潜める。

「先日、オーナーからこれを貼り出せと言われて手渡されたのがこのステッカー、というより紙ですね。虹色のモチーフと感染拡大防止中の文字、その下にうちの店の名前が入っています」(原田さん)

 原田さんの店は、スナックやガールズバー、カフェレストランなど数店を運営するオーナーの傘下にある。オーナーが店々をまわり、店長やスタッフに『掲示するように』と配っていたのが、件の「ステッカー」であった。ただ、原田さんに対策をした覚えはないという。

「いやあ、正直消毒液とか高いですよ。うちはスタッフも客も若いし、大丈夫なんじゃないかって。コロナって、若い奴がかかっても平気だと聞きましたし、老人の客はいないんで関係ないかなって。ステッカーは一応貼っていますけど、だれも気にしていません」(原田さん)

 なんら対策を取っていなくとも、むしろ現場のことをほぼ何も把握していない人であっても、簡単にステッカーの申請、掲示ができてしまうという、正直、穴しかない施策に見えるとしか言いようがない。さらに呆れる実態が聞こえてきた。

「知り合いのバーにも同じステッカーが貼ってありましたが、店の名前の部分が手書きでした。ホンモノは店名がしっかり印刷されているはずですからおかしいなと。聞くと、店名部分が空白のステッカーをカラーコピーしたものが配られたとかで、各々の店の名前を書いて店頭に張り出しているそうです」(原田さん)

 都の職員による見回りもあり、事によっては休業要請に対する協力金の支払いにも影響してくる、ともされているが、このように「やりたい放題」なのが現状のようだ。前出の中間さんが再度訴える。

「店を訪れる客も、この『ステッカー』を見るや否や、鼻で笑っていくようになりました。(対策を)やってない店とやっている店が同列に見られるのは本当に心外で、都にはしっかり見回りをしたり、制度を厳しくしてくれと言っていますが…」(原田さん)

 真面目にやっているものがバカを見る、という政策は、コロナ禍においてもう何度も見てきた光景である。マスクをせずに外出する人、密を積極的に作る人、都道府県をまたぐ不要不急の行動をとる人…、こうした人々の存在の陰には、多くの「真面目にやっている人」が存在する。前者の存在があるから、やっている人で不幸にもウイルスに感染してしまった時「対策をしていなかったのではないか」などと非難される事態になっている。

「ステッカー」の件に限らずではあるが、行政や国は、感染防止対策をやっている人とやっていない人に分けようとしたり、市民、国民の性善説的な感覚に丸投げするようなを政策が目立つ。まるで「私たちは言ったのに国民や市民がやってくれなかった」とでも言いたげな、無責任な姿勢である。「リーダーの不在」を痛感せざるを得ない日々が、あとどれくらい続くのか。

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