防衛大「学生軟禁」問題 医官が「怒りの学内メール」騒動

防衛大「学生軟禁」問題 医官が「怒りの学内メール」騒動

国の防衛を志す若者たちを元気に就学・卒業させてあげたいものだが(時事通信フォト)

 新型コロナウイルス対応にあたって将来の幹部自衛官を養成する「防衛大学校」の内部で、様々な問題が起きていた。全寮制の防衛大では、緊急事態宣言下の4月から5月にかけて、訓練も授業も行なわれていないにもかかわらず、学生たちは敷地からの外出が許されない“軟禁状態”が続いていた。本誌・週刊ポストはストレスが溜まる状況のなか、脱柵(脱走)や自殺未遂が相次ぎ、賭博行為が発覚したことなどを報じたが(6月26日号)、騒動はまだ、収束の気配を見せない。防衛大側の姿勢に対し、ついに“内部”からも疑問の声があがり始めた。

 防衛大は4学年約2000人が敷地内の寮で学生生活を送っていて、7月末から8月下旬までは夏休み期間だ。現役学生のひとりによれば、「7月に入って学生たちはすぐに訓練で各地へ散らばり、7月28日までに全員が営内に戻った。翌29日から夏期休暇に入りました」という。

 この学生たちが夏休みに入るタイミングと前後して、学内の関係者の間で注目を集めたのが、防衛大の衛生課に所属するA医官の異動だった。

「A医官は新型コロナの流行初期に、感染はもっと広がることが懸念されるから、学生たちを学内の寮に留め置かず、親元に帰すよう進言していた。その後に緊急事態宣言が出て、学生たちが寮から一歩も出られない状態に陥り、自殺未遂や脱走が相次ぎ、自主退学者も例年に比べて著しく多くなった。結果として、A医官の進言は正しかったわけですが、組織の方針に楯突いたからなのか、8月1日付で自衛隊中央病院への異動が言い渡されたのです」(防衛大関係者)

 そのA医官は学内職員向けに「産業衛生ニュース」と題したニュースレターを発信していた。そして、異動の直前にあたる7月21日付のニュースレターでは、防衛大の幹部らを痛烈に批判する文言が記されていたのだ。A医官は〈短期的な提言〉と題した項目で、非常事態宣言時のような感染拡大が起きれば、広範囲にわたる人の移動が望ましくないので、〈学生のメンタルなどを考慮して「先手を打って柔軟に判断する」ことが重要です〉と前置きした上で、こう記している。

〈流行初期に、私は高級幹部に
・流行が今後拡大するのは必至で授業も訓練もできなくなることが予想されるため、学生を早期に親元へ帰すことを提案しましたが、「防大を閉鎖しろというのか!けしからん!」と受け入れて戴けませんでした。〉

 学生たちの軟禁状態を避けるための提言がなされていたのに、“高級幹部”がそれを一蹴したという内容の記述である。提言が採用されなかった結果、学内で大混乱が起きたのは本誌・週刊ポストが報じた通りだ。A医官のニュースレターでも〈その結果が長期の学生の拘束と週刊誌に報じられた混乱の一端であったことは想像に難くありません〉と触れられている。

 A医官は、問題は防衛大の意思決定の方法にあると言及している。

〈指揮官の判断は任務達成の必要性や政治的理由など非医学的理由も左右されるので全面的に尊重してきましたが、感染症や公衆衛生については素人だけの作業部会で安易に決めず、必要なら横病(編注:自衛隊横須賀病院のこと)など他機関の専門医にも意見を諮問していただいたほうがよいのではないかと考えます〉(同ニュースレターより)

 ただ、前述の通り、こうした提言を行なったA医官は、異動を命じられる。それについても同ニュースレターで、〈新型コロナや余りにレベルの低い衛生課の現状を改善しようと2年頑張るつもりでいましたが、学校人事権者の意向でこのような結果となりました〉と忸怩たる胸中を明かしている。

 防衛大に質問したところ、ニュースレターの存在については認めたが、高級幹部が進言を一蹴したことについては、「そのような事実は承知しておりません」(広報室)と回答。防衛大としての感染予防策は「医官である衛生課長や感染制御医の資格を持った医官の専門的意見を聴取して決定している」(同前)とした。A医官は組織の方針に背く提言をしたことが理由に異動となったのか、という問いに対しては、「人事調整については正式な手続きに基づいて行っております。個人の人事に関する回答は差し控えていただきます」(同前)とするのみだった。

 前出の現役学生は、「他の大学では行なわれているオンライン授業が、防衛大では実施されないままです。私たちは8月27日までに営内に戻る予定ですが、帰省中の学生にコロナ感染者が出ましたし、今後どういったかたちで寮での生活が続いていくのか、不安なままです……」と懸念を口にした。

 防衛大の正常化への道のりは、まだ遠そうだ。

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