日産とホンダの開発力を結集するとどんなクルマができるのか

日産とホンダの開発力を結集するとどんなクルマができるのか

日産の体験型エンターテインメント施設「ニッサンパビリオン」のオープニングセレモニーに登壇した社長兼CEOの内田誠氏(写真左/時事通信フォト)

 なぜか海外メディアによって、突如報じられた日産自動車とホンダの「経営統合説」。昨年、経産省が水面下で打診し、両社ともに拒絶したとの内容だ。真相はいまだ藪の中だが、「クルマづくりに関しては、それほど相性が悪いとは思えない」と指摘するのは、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏だ。果たして「日産+ホンダ」の開発力を結集させると、どんなクルマができるのか。

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 世界の自動車業界でさまざまな提携、合併が巻き起こるなか、一部でささやかれていたのが、日産自動車とホンダの四輪部門の経営統合説である。

 荒唐無稽な話かと思いきや、イギリスの経済紙フィナンシャルタイムズが昨年、経済産業省が両社に打診を行っていたという記事を配信。後追い記事を出したメディアも複数あったので、火のないところに煙は立たないというくらいの話はあったとみていい。

 そのフィナンシャルタイムズの記事によれば、提案が行われたのは2019年末。両社とも役員会に諮る前に経産省の持ちかけを拒否したという。

 うまくいかなかったのは至極当然のことだ。発行済み株式の4割以上を握るルノー傘下にある日産と、明確な大株主不在の独立色の強いホンダではそもそも経営統合の相手として相性が良くない。得意な市場がモロかぶりしているのも難点で、経営統合しても両ブランドを残すかぎり、得意なアメリカや中国で身内同士でパイを奪い合うことになるだけだ。

 企業規模の調整も大変だ。ホンダの四輪部門+同部門の金融と日産の売上高はほぼ同じと考えられ、足すと24兆円前後になるだろう。一方でホンダ四輪+日産の従業員巣は30万人ほどに達する。33兆円で35万人を養っているトヨタに比べて人員過剰であることは明らかで、大規模なリストラは避けられない。

 つまり、日産とホンダ四輪の経営統合話は経産省がコロナ以前から深刻な状況に陥っていた両社をくっつけ、日本のモノづくりを守ったという実績作りを通じて業界への影響力を強めたかったという程度のもので、実現性のきわめて低い机上の空論だったと言えるだろう。

日産の中大型車づくりに役立つホンダの技術

 だが、そんな世知辛い話を脇に置き、日産とホンダのクルマ作りが融合したらどうなるかということを考えると、これは結構面白そうだ。

 両社とも軽自動車からラージクラス、スーパースポーツまでをカバーするフルラインナップメーカーという体裁を取っている。だが、開発費用がかさむ現代のクルマ作りの実情に鑑みれば、それぞれグローバル500万台という規模でフルラインをやってきたこと自体に無理があった。

 実際のクルマ作りを見てみると、日産とホンダは得意とするところがまったく異なる。日産は中・大型車が得意でサイズが小さくなるほどクルマ作りの特色が薄れる。逆にホンダは小さいクラスについてはきわめて良い技術を持っているが、大きくなるにつれてクルマ作りがつたなくなっていく。

 仮に経営統合してひとつの会社になったとすると、「アコード」のように車名自体がブランド化している売れ筋モデルを除き、ホンダは軽〜小型車、日産は中〜大型車と、ビジネスを分けることができるようになる。しかも、それぞれ得意としてきた技術を持ち寄ることができるとなると、クルマのレベルもぐっと上がるだろう。

 例えばである。日産はインフィニティという高級車ブランドを持っている。日本で「スカイライン」として販売されている「インフィニティQ50」に乗ると、2013年という登場時期の古さにもかかわらず、欧州プレミアムセグメントの同格モデルにひけを取らない素晴らしい走りと快適性を持っている。

 ブランド力不足で苦しい戦いを強いられているが、それでもアメリカではデビュー時期が近いトヨタの同格モデル「レクサスIS」より販売台数は上だ。日産はデザインや質感を別にすれば、そういう高級車作りは伝統的に上手いのだ。

 ところが、世界的にCO2規制が強められている昨今、高級車分野は単に速いクルマを作りましたでは済まされなくなっている。にもかかわらず、日産は純EV以外、高級車の低CO2化を劇的に進めるソリューションを持っていない。

 そこで出番が期待できるのが、ホンダのシリーズハイブリッドシステム「e:HEV」である。

 筆者は今夏、排気量2リットルエンジンをセットアップしたe:HEVを積む中型セダン「アコード」で4000kmあまり旅をしてみたが、e:HEVの性能たるや素晴らしいの一言。絶対的な加速力の高さ、加速の滑らかさ、レスポンスの良さ、エンジン音の静かさ等々、大排気量V6へのノスタルジーを完全に吹き飛ばすような感じだった。それでいて燃費はトータルで20km/Lを軽く超えるのである。

 日産の中大型車づくりに関する知見とホンダの電動化技術を足せば、両社が独自技術にこだわってバラバラに作っている今よりはるかに良いクルマができ、しかも低CO2化という社会の要請にも的確に応えられるようになるだろう。

フルライン見直しで活きる相互補完

 逆に、小さいクルマはホンダの得意とするところ。以前、本サイトでレポートをお届けしたが、軽自動車の「N-BOX」はエキセントリックな仕掛けやデザインを持たず、背高ワゴンの中では最も無難な作りなのだが、乗り心地や静粛性などクルマとしての出来は正直、ライバルへの営業妨害と言えるくらい良かった。

 日産も頑張って初の自社開発軽「デイズ」「ルークス」を発売しており、それらにも良い部分はあるのだが、トータルバランスではとても勝てるものではない。経営統合すれば日産ブランドで無理をして軽をオリジナルで開発する必要はなくなり、本来の得意分野である中大型車づくりに専念できるのだ。その上のサブコンパクトクラスについても同様のことが言える。

 世界で今日売れ筋商品と化しているSUVはどうか。それほど大きくないサイズのクロスオーバーについてはアメリカで日産「ローグ」、ホンダ「CR-V」が両方ともセールス好調なので、一本化せず日産、ホンダの両ブランドで同じクラスをデザイン、仕様違いでラインナップするのもいいだろう。基盤技術として三菱自動車のSUVのノウハウも使える日産側だが、そこに中大型乗用車と同様、ホンダのe:HEVを入れれば商品力に格段に厚みが出るだろう。

 今、日産とホンダ四輪事業はともに苦境に立たされている。それを切り抜けるために日産は高付加価値な中大型車に、ホンダは低価格な中小型車に活路を見出そうとしている。それぞれ、危機に瀕して自分の得意分野は何かということを散々考えた末に出した戦略なのだろうが、奇しくもフルライン戦略の見直しの方向性が相互補完的になっているのは面白い。

 また、両社ともこれまで自動運転、電動化、コネクティビティなど、身の丈に合わないくらいの将来技術を独自開発してきた経緯もあって、技術資産はそれぞれかなりのものを持っている。

プライドを捨てて歩み寄る好機?

 一方で企業風土を見ると両社とも官僚的な気風が非常に強く、プライドとテリトリー意識のかたまりという感がある。その2社が統合したところで新たな社内抗争が生まれるだけに終わる可能性はきわめて濃厚だ。

 だが、世はコロナショックで大変な状況。プライドを捨てて歩み寄るには絶好のタイミングであることも確かだ。また、人間も同じことなのだが、いかにも上手くいきそうな組み合わせが良いとばかりは限らない。いかにも喧嘩しそうな間柄がかえって良かったということはビジネス界ではよくあることだ。

 クルマ作りに関してはそれほど相性が悪いとも思えないので、経営統合とまでは行かずとも、試しに技術交流をちょっと超えたレベルで協力関係を模索してみるくらいのことはやってみても面白いのではないか。

 同じプラットフォームでBMWが「Z4」、トヨタが「スープラ」を作る時代である。そのうち日産のスポーツカー、次期「フェアレディZ」のコンポーネンツを流用したホンダ「S2000 II」が出てきたりして!?

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