安倍氏退陣表明前からすでに権力交代も、自民内部では抗争激化

安倍氏退陣表明前からすでに権力交代も、自民内部では抗争激化

虎視眈々と…?(時事通信フォト)

 安倍晋三・首相の体調悪化が表面化する前から、政権内部ではひそかに権力の交代が進んでいた。「総理の側用人」と呼ばれた今井尚哉・首相補佐官を頂点とする官邸官僚が力を失い、「影の総理」菅義偉・官房長官が再浮上したからだ。

 政府のコロナ対応が二転三転する混乱の原因はそこにあったといえる。

 安倍氏が慶応大学病院で検査を受け、「健康不安説」が広がる最中の8月20日夜、菅氏と二階俊博・幹事長が会談した。検査といっても首相が入院したわけではなく、会談前日には官邸で公務に復帰していることは2人も当然承知している。

 首相が辞任する前に、ポスト安倍を巡ってタッグを組む菅氏と二階氏が政局をにらんだ会合を持ったのだから“謀叛”と見られかねない大胆な行動といっていい。しかし、2人はもう首相を怖れていなかった。毎日新聞専門記者兼論説委員の伊藤智永氏はこう語る。

「安倍政権はすでに事実上の“菅政権”になっていた。つい最近までは、首相補佐官の今井氏らが総理の権威を笠に着て実権を振るう“側用人政治”と呼ばれたが、官邸官僚はアベノマスク配布や持続化給付金業務の電通への委託といったコロナ対策を打ち出して失敗し、総理との関係もギクシャクしていた」

 代わって指揮を執っているのが菅官房長官だ。

「菅氏は感染拡大下でGo Toトラベルキャンペーンを推進してきた。暖房と冷房をいっぺんにかけるような政策は、『医療崩壊しない限り、社会経済活動は止めない』という方針だからです。新規感染者数が過去最高を更新しても、政府は緊急事態宣言を発令しない。それも総理ではなく菅氏が判断していた」(伊藤氏)

 政権の権力構造はコロナ禍で大きく変わっていたというのだ。二階派幹部がシナリオをこう語る。

「安倍総理が退陣すれば総裁選になる。ワンポイントリリーフで首相再登板を目指す麻生太郎副総理が麻生派、岸田派、そして安倍総理の出身派閥の細田派と組めば、菅─二階連合では数で勝てない。それなら、安倍総理をできるだけ延命させて、官邸は菅さん、党は二階さんが権力を掌握し、ポスト安倍に備えて麻生さんの力を削いだ方がいい」

レガシーが何もない

 そうした2人の計略は安倍氏の辞任で大きく狂った。安倍氏から政権禅譲してもらうつもりだった麻生氏や岸田文雄政調会長らの反発を招き、自民党内抗争が激化するのは間違いない。この計略は一旦変更されることとなるが、自民党内での動きは激しくなっている。

 すでに麻生氏は「安倍さんから後事を託された」(側近)と動き出し、憲法改正に慎重だった岸田氏は講演(8月25日)で「もし私が政権を担うことになったとしても、憲法改正にしっかり取り組む」と態度をコロリと変えてなりふり構わぬ安倍支持層の取り込みに乗り出した。ポスト安倍に野心を抱く河野太郎防衛相、石破茂元幹事長らも黙ってはいないだろう。

 安倍氏は大叔父である佐藤栄作首相の連続在任記録を抜いたものの、佐藤首相の沖縄返還のような歴史に残る政権のレガシー(遺産)を残していない。安倍氏のお膝元である細田派の長老からもこんな声がある。

「安倍首相が『私の内閣で実現する』と約束した憲法改正、北方領土返還、拉致被害者の帰国はいずれも見通しさえ立っていない。

 経済政策では日本再興を掲げたが、アベノミクスによる景気拡大は2年前に終わり、過去最長のいざなみ景気(小泉政権)を抜けずに政権の終盤はコロナで日本経済は瀕死の状態になってしまった。その上、せめて花道にしようと1年延期した東京五輪も、開催は危うい状況だ。安倍さんにすれば、レガシーが何も残せないのでは辞めようにも辞めることができないと思っていたんじゃないか」

※週刊ポスト2020年9月11日号

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