「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った

Uber Eats配達員「一生働くとは思わなかった」 日本のウーバーのシステムに指摘も

記事まとめ

  • Uber Eatsはコロナの自粛生活でいっきに利用者を広げ、配達員が目に見えて増えている
  • Uber配達員は18歳以上で上限はなく100歳でも働けるといい、ある配達員は70代だった
  • 子供を前乗せした電動アシスト自転車のママさんがUber配達員をしている例もあるという

「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った

「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った

待機するウーバーイーツの配達員ら(時事通信フォト)

 配車アプリ「Uber(ウーバー)」のフードデリバリーサービス「Uber Eats(ウーバーイーツ)」といえば、出前をしていない店の料理を配達してもらえるサービスとしてじわじわ人気を広げ、新型コロナウイルスによる自粛生活でいっきに利用者を広げた。と同時に、すき間時間の仕事として広がり始めていたウーバー配達員が、街じゅうを走っているのではと思うほど目に見えて増えた。俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、都内のウーバー配達員たちについてレポートする。

 * * *
「ウーバーね、ほとんど稼ぎにはなんないね」

 都下の駅前にあるマクドナルド、こんな多摩の田舎でもウーバーの配達員(正式には配達パートナーと呼ばれる)は待っている。「ウーバーさまー、○○番のウーバーさまー」というシュールな声が店内から聞こえてくる。配達員は商品を受け取り、歩道に停めた50ccのスクーターに戻る。その傍らには「Uber Eats」と書かれた大きな黒バッグ。配達員は商品をバッグに詰めて背負い込む。とある取材の途中に見かけた、今や何も珍しくもない都市の一風景だ。しかし私は配達員を見て驚いた。マスク姿のお爺ちゃんだ。

「でも年齢関係ないし面倒くさい人間関係もない、稼ぎにはならないけど気楽だよ」

 配達後、もう一度マクドナルドに戻ってきたところで話を聞いた。お爺ちゃんはマクドナルドとその近くの牛丼屋、そして個人のネパールカレー屋と韓国料理屋を中心に配達しているという。炎天下の路上、しかしここにいれば注文すぐ配達できるというわけだ。

「シルバーに登録してたんだけど全然仕事ないからウーバーにしたの。コロナでウーバー稼げるって聞いたから」

 市のシルバー人材センターで駅前の自転車監視や草刈りをやっていたが、自転車は業者と市の契約で半自動化され、市道や施設の草刈りはコロナで集まれないからと人数を減らされているそうだ。もっともコロナ以前からシルバーの仕事は減っていて、一昔前と違い入会したから仕事があるとは限らない。私もこのシルバー人材センターの問題は、かつて闇の部分も含めて取材したことがあるのでよくわかる。

「聞いてたほど稼げないけど、この歳じゃどこも雇ってくれないからね。でもこんなお爺ちゃんでも、ウーバーは働けるからね」

家は持ち家だけど、まあ足りないよね

 彼は70代(実年齢を教えてくれたが年代表記とする)だという。去年死んだ私の父と同じ年代だ。男性の平均寿命は81.41歳(2019年・厚生労働省)なので、数字上の話だと働ける時間の残りは少ない。ちなみにウーバーの配達員は18歳以上というだけで上限はない。100歳でも働ける。

「うん、一生働くとは思わなかったね。まあ、いろいろだよ」

 多くを語ってはくれなかったが、国民年金だけでは食べていけないということは話してくれた。彼の国民年金は月5万円ほど、「平成30年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(厚生労働省)によれば平均月額は5万6千円なので、大半は40年間支払った場合の満額65,141円をもらえていないことがわかる。もっとも満額でもそれだけでまともに生活できるかと言ったら否だろう。

「二人で合わせて10万円くらいかな、家は持ち家だけど、税金とか保険とか生活費とか、まあ足りないよね、だからウーバー」

 スマホに目を通すお爺ちゃん、スクーターもスマホもボロボロで年季が入っている。一昔前のバイク便のライダーのようでどこかかっこよくもある。奥さんの年金があるからまだ貯金の切り崩しとウーバーのバイトでなんとかなっているが、独身で無貯金の国民年金者など将来どうなるのだろう。30代・40代の無貯金者は23.1%にも登る(2019年・SMBCコンシューマーファイナンス調べ)。親の遺産が転がり込む人もいるだろうが、実際このほとんどは貯金ゼロの年金者となるだろう。高齢だろうが病気だろうが「一生働く」ことが現実となりつつある。

「コロナ怖いし持病もあるけどしょうがないよね、それでもウーバーはありがたいよ」

 狭心症でステントを何本も心臓に入れているという。この8月の暑さで70代の老人が一日中マスク姿、自転車よりましとはいえ原チャリで1日中炎天下を走り回るのは心配だ。

「そんときはそんとき、食ってかなきゃね」

 また商品を受け取り走り去る。いろいろ言われるウーバーだが、こうして幸か不幸か必要としている人がいるということか。

商店街を疾走する子連れウーバー

 別の取材の帰路で見かけたウーバー配達員はさらに衝撃的だった。なんと子どもを前乗せした電動アシスト自転車のママさんである。なかなかの全力こぎで商店街を疾走している。子連れウーバー、なんだか「子連れ狼」みたいだが、ウーバーに同乗者有無の規定はない。それでも高齢配達員同様なかなか見かけない光景だ。私も駆け足で後を追う。一度見失ったが、商店街の焼肉屋に彼女の自転車が停まっていた。子どもは2歳くらいだろうか、慣れているのか健気におとなしく前乗りのまま待っている。

 弁当を持ってママさんが出てきた。これから配達のようだ。仕事の邪魔はできないので話を聞くのは控えることにした。それにしてもこの炎天下、子連れでウーバー配達員とは恐れ入った。マスクごしの怪訝な一瞥を私に投げてママさんは走り去る。彼女のことも心配だが子どものことが気にかかる。ウーバージャパンは配達パートナーに関して「個人事業主であり、労災保険の適用外」だと抗弁してきたが、世間の批判と度重なる事故、配達員からの不満を受けて2019年10月1日から「傷害補償制度」を導入した。しかしこの補償制度はスマホで配達リクエストを受諾してから配達完了、もしくはキャンセルまでの話で、それ以外の移動時間や待機時間には適用されない。つまりママさんは自宅からの行き帰りで保険は適用されないし、配達員でない子どもは業務中であっても適用されない。また個人事業主でも建設業の一人親方や個人タクシー、バイク便などの独立ドライバーなどは労災保険の特別加入制度(2020年8月時点で建設業一人親方は約7万5千人加入、労災月報)で補償されているが、厚生労働省はウーバー配達員を想定していない。個人の保険で賄うにしても、業務上の事故だけに難航するだろう。生活が厳しいのかもしれないし、安易に考えているのかもしれないが、子どもの人生を狂わせるリスクを負うほどの仕事なのか。

 ウーバー配達員はすっかり街の風景の一部となった。しかしそれは幸福な景色なのだろうか。ウーバーは利用者からすれば少々高くとも便利だろう。使わざるを得ない人もいる。しかし、あまりに問題が多すぎるしその問題が大きすぎる。

 思い返せばこの8月だけでも、何度も危険な走りをするウーバー配達員に遭遇した。私が久しぶりに大型バイクでのんびり走っていると、125cc未満は進入禁止のバイパスを「Uber Eats」の鞄を背負った半ヘル男が90ccのスクーターで抜き去って行った。また、都下の某繁華街の喫煙所は外食チェーンが軒を連ねているのもあって配達パートナーの溜まり場となっている。原付は一方通行もお構いなしの逆走(この十字路は一部一通になっている)、自転車は信号なんか守らない。ときに車、ときに歩行者と都合のいい走り方で信号無視を繰り返す。きちんと交通ルールを守ってしっかり稼いでいる配達パートナーもいると反論するかもしれないが、いつもは労働者側に立つ私もウーバーだけはどうか、実際、都内に限れば私の広範囲の取材の途中で見かけた数を鑑みても、ルール無用の配達員が多すぎる。これでは、同じように悪質配達員を見かけているのであろうネット民を中心としたウーバー批判ももっともである。

 お爺ちゃんも、ママさんもそれぞれに事情がある。そういう人たちが働ける場というのも必要だろう。ましてこのコロナ禍、国も自治体も期待できない現状では自分の生活は自分で守るしかない。それでも日本におけるウーバーのシステムはあまりに未整備、命を預けられる仕事とは思えない。

若い連中はみんなウーバーになっちゃうんじゃない?

 厚生労働省がハローワークなどを通じて行った調査によれば、8月31日の時点で見込みも含めて5万人超が解雇や雇い止めとなった。9月1日の総務省の発表では完全失業者数は197万人で6ヶ月連続増、これから年末に向けてさらに倒産も失業も増えるだろう。数字に現れていない自営業者の収入減なども問題だ。「Uber Eats」のバッグ(実はこの鞄を使わなくてもいいのだが)姿は老若男女問わず増え続けるだろう。Amazonでバッグを買ってウーバーに個人情報を登録すれば、配達パートナーとして働けて、とりあえずのお金は手に入る。高齢でも、小さな子持ちでも、疾患を持っていても、ギグワーカー(単発少額の請負労働者)がどうなろうと「自己責任」がウーバー・テクノロジー社の考えだ。それが日本にも定着しようとしている。そして悲しいかな、コロナ禍と保険費用の負担増により、私見だが昨年末に行われた配達の報酬引き下げは今後もあり得ると見る。

「いろいろわかるけど、お爺ちゃん雇ってくれるとこなんてないもん、勘弁してよ」

 マクドナルド、ウーバーお爺ちゃんは今日も待っている。もっと話を聞かせてもらおうと思ったが、さすがに嫌がられてしまった。ごめんなさい。

「でも俺はいいよ、そんなにあくせく稼ぐわけじゃない。若い連中は大変だ。みんなウーバーになっちゃうんじゃないの?」

 将来的に日本人の大半はギグワーカーになるということか。残念ながらお爺ちゃんの予測はだいたい合っていると思う。このコロナ禍、世界の流れは変えようもないし、日本人も翻弄されてゆくしかないのだろう。もちろん私も覚悟するしかない。ちなみに「ウーバーで○十万円稼げる!」なんてサイトは信用しないように。全部ではないが零細WEB業者がアフィリエイト目的にやっている。そういう運営者のたちの悪さを私は知っている。

 ともあれそんなウーバーのような働き方が存続することは致し方ないとして、一部配達員のマナー違反による道交法上の整備はもちろん、配達員が少しでも人間らしく生きられる労働条件として、さらなる安全上の補償が必要なのは当然のことだろう。ウーバーイーツの労働組合は8月13日、厚生労働省に労災保険の適用拡大を求めた。本稿で先に言及した労災問題である。ウーバーのような新しい労働の流れを止めることはできない。ならばせめて人間らしい、労働者として正しい扱いを求める。それは当たり前の権利であり、「ウーバーに落ちぶれたのは自業自得」だの「ウーバーは態度が悪いからひどい目に遭って当然」などと他人事を決め込んで嘲笑するならナチス政権下のマルティン・ニーメラー牧師の「彼らが最初共産主義者を攻撃したとき」そのままに、一般国民たる私たちの将来、老後も同じく地獄となるだろう。回り回って「しかしそのときにはすでに手遅れであった」と嘆くのはいつも一般国民である。そしてそれは私たちのことである。

 ここまでルポを交えてウーバーのあらゆる問題を取り上げてきたが、これらは会社、配達員、そして客それぞれの問題というだけではない。未曾有のコロナ禍にあって、新たな労働文化に否応なく適応せざるを得ない私たち、それをどうしていくかという日本人全体の問題である。

●ひの・ひゃくそう/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草。近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。

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