“変われぬ政治”示した総裁選 記者の緊張感も感じられない

“変われぬ政治”示した総裁選 記者の緊張感も感じられない

3候補の共同記者会見からは熱意や活気が感じられない(写真/時事通信社)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが、気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、9月8日に開かれた石破茂元幹事長、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長3候補の共同記者会見について。

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 覇気がないというか、活気を欠いているというか、地味というか。9月8日に開かれた自民党総裁選の候補者3人による共同記者会見は、よく言えば淡々と落ち着いていたけれど、悪くいえば熱気が感じられなかった。果たして、これからの政権に期待していいものかどうか判断に迷う。

 菅義偉官房長官が優勢とされ、「次期自民党総裁は菅氏で決まり」と思われている今回の選挙戦。安倍政権を「継承」する候補者か、「転換」へと舵を切る候補者かで分け、その政策や手法を論じるメディアもある。だが、路線はほぼ継承へと決まっている。安倍首相を神輿として担いできた議員たちや派閥は、今まで通りで良いという「現状維持バイアス」に陥っているようだ。

 そのため、多くの自民党議員が求めた党員投票は行わず、両院議員総会を開き、国会議員と都道府県連の代表による投票によって総裁が決まることになった。党員投票が実施されれば、全国の党員に人気がある石破茂元幹事長が選出される可能性が出てくるからだろう。安倍政権を継承させたい議員らにとって、転換派の石破氏は目の上のたんこぶ。これまでの7年8か月の成果(?)が、もしかすると色んな意味でひっくり返るかもしれないのだから、阻止しようと躍起になるのも無理はない。

 人は、慣れ親しんだ物事や環境などを変えるのが苦手だ。新しいものの方が優れている、新しいやり方をすればプラスへ動くかもしれないという期待はあったとしても、そこに不安や面倒を感じれば二の足を踏んでしまう。まして、手に入れたものを失うかもしれないと思えば現状にしがみつきたくなるものだ。森友・加計問題が中途半端に終わっても、新型コロナウイルス対策が失策続きでも、韓国や中国との関係が悪化していても、今の自民党は変わることをマイナスだと感じているようだ。彼らの中にある現状維持バイアスはかなり強固らしい。

 結果を想定し、「菅氏が総裁になる」という目で会見を見ると、違うものが見えてくる。石破氏が目力鋭くなかなかの発言をしても、岸田文雄政調会長が安倍政権の成果を継承するが如く涼しげに演説しても、訴えようとする気迫はどこか弱い。

 ぎゅうぎゅう詰めに座席を埋める応援陣営の議員たちの姿もなければ、争うように質問する記者たちの姿もない。会場全体の高揚感や応援議員たちによる圧力、質疑応答での緊張感も感じられない。コロナの感染拡大防止対策で、応援陣営の参加議員は最大20人まで、入室が認められた記者たちも1社につき1人に制限されていたとはいえ、「予定調和」の総裁選に関心は薄そうだった。現状維持を望むなら、下手に盛り上がるより、この方が都合がよいとも言える。

 共同記者会見で菅氏は、コロナ対策や経済の立て直しなどに関する最初の質問にこう答えた。「実際、これから政権を運営する、トップに立つわけでありますから」。菅氏の勝利は、本人も認める自民党周知の事実というわけだ。「私自身が総裁になったら」「総理大臣の立場になったら」、菅氏はこれからの政権についてこうも話したが、石破氏も岸田氏も、こんな“たられば”の表現は使わなかった。

 新しい政権が誕生しても現状維持が続くらしい。コロナ渦が国民の努力で収束することを心から願うばかりだ。

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