コロナ時代の人気店 行列の「待ち時間」をどう推定すべきか

コロナ時代の人気店 行列の「待ち時間」をどう推定すべきか

ソーシャルディスタンスを保つコロナ時代は行列も自然と長くなる

 新型コロナ再拡大の影響で、今夏はお盆の混雑も見られなかったが、東京都が警戒レベルを引き下げ、Go Toトラベルの対象に加わる見込みとなったため、再び人の移動が活発になる。そこで、気になるのが飲食店の混雑ぶりや、街のあちこちにできる行列だ。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が、ウィズコロナ時代の混雑と行列について考察する。

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 今年はコロナの影響で、ゴールデンウィークやお盆の混雑が見られなかったが、9月に入って感染拡大が少し落ち着いてきた。そこで政府は10月1日から東京をGo Toトラベルの対象に追加する準備を進めつつ、9月下旬にかけての感染状況を踏まえて最終判断する方針を示している。また、Go Toトラベルの地域共通クーポンの配布をはじめ、Go Toイート、Go Toイベント、Go To商店街といった消費喚起のキャンペーンも続々と予定されている。

 そうなると気になるのが、飲食店などの混雑や様々なイベントで発生する行列だ。ここでは「再び以前のような混雑は起こるのか?」「長蛇の列に並んだ時には、待ち時間をどう見積もったらよいか?」について、少し考えてみたい。

飲食店の混雑率は6割程度に落ち着く?

 まず、飲食店の混雑率から考えてみよう。7月に感染が再拡大していたころ、メディアでしきりに取り上げられたのが、“夜の街”関連の感染だった。接待を伴う飲食店での感染が拡大して、その防止策が求められた。各店舗で衛生・消毒や「3密対策」が進められたこともあって、東京都では9月6日に夜の街関連の新規感染者がゼロとなった。約3か月ぶりのことだ。

 飲食店はどうしても、ある程度の人混みが避けられないが、混雑率はどのように決まっていくのか──。この問題に関して、ゲーム理論で「エルファロル・バー問題」と呼ばれる研究がある。

 エルファロルというのは、アメリカのニューメキシコ州サンタ・フェにある人気のバーの名前だ。小さなバーのため、座席数の6割までの入りであれば、客はみな心地よく感じるが、それ以上の混み具合になると、みな不快感を持ってしまう。

 もちろん、客はその店がどれぐらい混むか、店にやって来るまでわからない。また、他の客がどのくらい来店するかもわからない。この場合、店の混み具合はどの程度に落ち着くだろうか。客の身になって考えてみよう。

 来店して心地よく感じた客は、また来たいと思うだろう。一方、混雑で不快に感じた客は、次の来店をしばらく見送ろうと考えるかもしれない。すなわち、混み具合が定員の6割までだったときの客は、次回もすぐに来たいと思い、6割以上だったときの客は、しばらく来たくないと考えるはずだ。

 もし客がみな、前回体験した心地よさや不快感だけを頼りに、まったく同じ来店行動をとるとしたら、この店の混み具合は、毎日、乱高下することになる。たとえば、

「前回心地よく感じた人は、必ず翌日来店する」
「不快だと感じた人は、必ず1週間空けたうえで来店する」

 といった法則に従うとすると、混み具合は激しく上昇したり下落したりする。しかし、客が確率的に行動するとしたら、どうなるだろうか。

 前回心地よく感じた人は、翌日、高い確率で来店する。不快に感じた人は、翌日、低い確率でしか来店しない。このように、確率的に前提を置いてみると、店の混み具合は徐々に座席数の6割に収れんしていく。実際に、実証実験を行ったところ、そのような結果が出たという。

 ただし、これはあくまでアメリカの、とあるバーの話だ。コロナ禍以前、日本の飲食店では、客の入り具合が人気のバロメーターとなっていた。人気の高い店ほど、いつも満席となっていて、入り口には入店待ちの人が溢れ返っている光景があった。

 しかし、ウィズコロナ時代となって、客が3密の回避を意識するようになると、様相は大きく変わってくる。店内が閑散としてはいないが、かといって密でもない。そうした適度な混み具合が、心地よく感じられるようになる。そうなれば、このエルファロル・バー問題と同様、さまざまな飲食店の混雑率は、やがて6割程度に落ち着くようになるかもしれない。

ソーシャルディスタンスで行列の長さが何倍にも

 次に、人々が旅先やイベントで出会う行列について考えてみよう。そもそも日本人は並ぶことが好きなようだ。遊園地のアトラクション、駅の窓口やトラベルカウンター、フードコートの飲食店の注文レジなど、至る所で行列ができる。人気のある店で、3密を避けるために入場制限が行われれば、その入口で行列ができることも考えられる。

 ワクワクする楽しいことのために行列に並ぶのは、たいして苦痛ではないだろう。人気のラーメン店で長い行列に並んだ末に味わう一杯は、格別の味がするかもしれない。

 とはいえ、行列に並んでいると、「あと何分、待たなくてはならないのか?」と考えるのが普通だ。待ち時間を知りたいという思いは、行列の中で待つ人につきものだ。

 あるイベントの入場口で、長蛇の列に並んだとしよう。こういうときに、待ち時間を見積もる方法として、「リトルの法則」が役に立つ。これは、アメリカのマサチューセッツ工科大学のジョン・リトル教授が発表した法則だ。

 まず、自分が行列に並んでから、1分間で何人が自分の後ろに並んだかを数える。そして、自分の前に並んでいる人数を見積もり、その見積もり人数を、1分間に自分の後ろに並んだ人数で「割り算」してみる。その答えが待ち時間の推定結果というわけだ。

 たとえば、遊園地で観覧車に乗ろうとして乗り場前に行ったとする。乗り場前には、つづら折りの行列ができていて、20人ほどで5列、すなわち約100人が並んでいたとする。
そこで、自分が列に並んでから1分の間に、後ろに5人が並んだ。すると、100人を5人で割り算して、この行列の待ち時間は「20分」と推定できる。

 この法則を用いる場合、推定時間が当たるための条件として、行列の長さが同じまま変わらないことが必要となる。すなわち、1分間に行列の先頭で用を済ませる人数と、1分間に行列の後ろに並ぶ人数が同じで、行列の長さが伸びも縮みもしないことが条件となる。

 コロナ禍は、行列の長さにも影響している。ウィズコロナ時代には、前の人との間隔を少し広めにとって並ぶソーシャルディスタンスが意識されるようになった。行列に並ぶ人数が同じでも、行列の長さは当然長くなる。

 たとえば、先日、東京駅構内にある人気の和菓子屋では、レジに並ぶ客の行列が、地下街にとぐろを巻くように、長蛇の列をなしている様子がみられた。前の人と一定の距離をとっているために、行列が長くなっているのだ。また、多くの客で混み合う書店でも、レジに向かう果てしない行列ができていたという。そんな行列に並ぶときこそ、リトルの法則の出番といえるだろう。

コロナ禍で店側の考え方も変わる

 コロナ禍によって、客の意識の変化だけではなく、店側の考え方も変わってくるはずだ。

 以前のように、店が混雑して、入り口やレジに行列ができていることで、人気ぶりをアピールするというやり方は、過去の話となりつつある。店の心地よい混み具合と、行列の適度な待ち時間──。これらを追求する姿こそ、ウィズコロナ時代のニューノーマルといえるだろう。

 連休中に旅行をしたり、街に出かけたりするときには、さまざまな店が混雑や行列に対してどのような手を打っているか、注目してみるのもよいかもしれない。

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