山口達也逮捕 社会はアルコール依存症とどう向き合うべきか

山口達也逮捕 社会はアルコール依存症とどう向き合うべきか

復帰はさらに難しくなってしまった

 追突事故をきっかけに議論百出の事態となった。コラムニストのオバタカズユキ氏が考察した。(文中敬称略)

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 飲み始めると酔いつぶれるまで深酒をし、目が覚めるとまた酒を飲んでしまい、そのせいで社会生活も家庭生活もうまくいかなくなっているのに、それでも酒がやめられない。そういう状態に陥った人を一昔前は「アル中」と呼んでいた。最近では医療用語の「アルコール依存症」を用いることが一般的になっている。

 自分の知り合い、仕事仲間や友人、親戚などの顔をできるだけたくさん思い浮かべてみよう。その中にアルコール依存症者や依存の疑いのある人はいないだろうか。

 私の知り合いでは、これまで3人がアルコール依存症で亡くなっている。うち2人は、肝臓や心臓などの内臓疾患が直接原因で、もう1人は自殺だった。そこまでいかなくても、アルコール依存症の疑いのある知り合いなら、さらに4、5人いる。彼ら彼女らはなぜか仕事のできる人ばかりで、酒での失敗を繰り返しながらどうにかやっているが、いつまでそれが続くかは微妙だ。

 日本でアルコール依存症として治療を受けている患者数は5万人前後。だが、治療につながっていないアルコール依存症者は100万人以上いるそうだ。かなり身近でよくある病気だといえるし、重度になると命にかかわる病気であるから、その対策は国民的課題だとしても大げさではないはずだ。日本は飲酒に寛容な国なので、なおさらである。

 しかし、この病気に対する理解はまだ浅い。依存症になる人は、ほど良いところで酒をやめられない、だらしのない人間だとする見方がいまでも根強い。つまり意思の弱さが問題であるという精神論だ。精神論が通じない病気に罹患しているからこそ、アルコール依存症という病名がつけられ、治療は医療保険対象となっているわけだけれども、その理解は発展途上にある。

 先日、元TOKIOの山口達也が、酒気帯び運転で現行犯逮捕された。山口は2年前にも泥酔状態で女子高生へのわいせつ事件を起こし、それが原因で芸能界から事実上の引退となっていた。そこにまた今回の事件。負傷者が出なかったことは幸いだが、堕ちた元大物アイドルのさらなる転落に、テレビのワイドショーをはじめとするマスコミは大いに沸いた。そこではやはり、精神論から山口を叩くやり方が主流だった。

 だが、それは果たして視聴者が求めている報じ方だったのだろうか。違うような気がする。少なくともネット上の反応とは、だいぶ温度差があったのだ。

 私の見た限り、ツイッターでもっとも拡散された関連ツイートは、〈山口達也さんをDASH島に監禁して酒飲ませないようにするとか言ってる人いるけど酒作ってしまいそう〉というちょっとしたジョークである。からかってはいるが、山口叩きとは違う。もうちょっとあたたかな目線を感じさせる。

 転落していく者に必要以上のスポットライトを当て、精神論から彼を断罪するようなマスコミの報道や論者の声に対して、違和感を覚えたと訴える人も少なくない。例えば、以下のツイートのように。

〈山口達也の批判すげえけど叩くとこ間違ってる気がする。たしかに飲酒運転は悪いけど報道の仕方が悪意の塊。人の不幸は蜜の味と言わんばかり。汚い大人やで!〉

〈山口達也さんて一般人の方ですよね。何をマスコミは騒いでるの?一般人の酒気帯び運転にマスコミがこれだけよってたかるんだね。他の酒気帯び運転容疑の奴にも同じようによってたかるということで良い?何が言いたいかって、マスコミ業界って、アタマ狂ってる人達が働く場所なのかなと思ってさ〉

〈山口達也を痛烈に叩きまくっている人たちって、ただの一度も過ちを犯したことのない人なんだろうか? 亡き義母から「相手に石を投げるのは、石を投げられた痛みを知らない人」と言われたの忘れられないな。 「痛みを知らない」=「何の過ちを犯したこともない聖人君主」ではないんだけどね〉

 マスコミVSネットという対立図式はいまに始まった話ではないが、いわば過剰報道に対して一言いいたくなった人はネット上にたくさんいた。直接書き込みはしない、サイレントマジョリティーの中にも大勢いたはずだ。

 アルコール依存症という病気に対する見方もそう。病気だからといって、犯した罪は罪。法的な罰は相応に受けるべきだが、それ以上に罰してはいけないし、治療にどうつなげるかという点が大事、と私は思う。同様の思いをつぶやいた人たちも、予想以上に多かった。

〈マジでアルコール依存症だと言われてる山口達也に対して「自己管理がなってない」「こんな人だと思わなかった」とか言ってる人達、依存症について何も知らないんだなぁと思いますね。もはや自己責任の域は超えてるので他人が然るべきとこと繋がないと無理だぞ、あれは〉

〈山口達也さん。もしかなり進んだアルコール依存症だとしたら、気合いや根性では制御できないレベル。断酒会へ欠かさず通い、「今日1日飲まなかった」という日々を死ぬまで重ねていく。正直先が見えない。でもやるしかない。甘えとかそんな問題じゃない〉

〈個人的にはむしろ山口達也さんみたいな人こそ『アルコール依存症からリハビリする芸能人』として人目につく場所で仕事をした方がお酒を遠ざけやすいと思うんですけどね。失業と孤独が依存症への道なのに、彼を袋叩きにして仕事を奪っても孤独の中で回復するとは思えない。『制裁欲』を向けても仕方ない〉

 全体の中の一部であるとはいえ、きちんとアルコール依存症という病気を理解し、その解決のために我々はどういう態度をとるべきなのかを問う、私も賛同できる声がけっこうある。

 また、今回は、ユーチューブの世界でも、頷ける話を配信した人を複数見つけることができた。まずは、逆張りスタンスからの暴論を得意とする炎上系ユーチューバーのシバターが、こんな話をしていたので、書き起こしたハイライト部分を紹介したい。

〈アルコール中毒というのは病気なんだ。もう、周りの声とか努力でどうにかなるもんじゃない。だって、そうだろ。病気の人にいくら説教したって治らないだろ。(中略)カウンセリング受けて、ちゃんと入院して、そして、お酒を辞めるプログラムを受けよう。お前は病気だから、自分は自分の努力でお酒をやめられると思うかもしれないけど、自分の努力ではダメなんだ。それが病気だから。そして、アルコール中毒っていうのは立派な病気なんだよ。だから山口、お前はまず、やったことの罪をちゃんと償って、その後にちゃんとアルコール中毒という病気を治そう。それが全部終わったら、俺がお前にまたなんか別の仕事を探してやるよ。(中略)山口、まずは頑張って病気を治そう〉

 あの暴論シバターがストレートにこのような正論を語るとは驚いた。コメント欄にもそんなシバターを支持する声が多かった。

 ビジネスや宇宙などだけでなく、医療方面にも通じているホリエモンこと堀江貴文は、次のように語っていた。

〈本当にアルコール依存症の方は、アルコールさえ飲まなければ温厚で仕事もできる、ちゃんとした人だった、その人も。おそらく山口達也さんもそうなんだと思いますけど、まわりに彼を献身的に支えてくれる人がいない限り、彼はかなりの確率で刑務所入りしてしまう、もう本当に一歩手前にいると思いますんで、周りの方々、彼がそんな刑務所に入ったりとかしないように、支援したいと思うんだったら、是非支えてあげてほしいなと思います。刑務所には行ってほしくないですけど、アルコール依存症から脱してください〉

 私の知り合いでアルコール依存症の疑いのある人はなぜか仕事のできる人ばかり、と前記したが、より交友関係が広いであろうホリエモンの場合も同じらしい。それだけ仕事の負荷が大きくストレスの多い人が依存症になりやすい、という一つの傾向だろうか。

 チャンネル登録者数はさほど多くはないものの、発言者としてまだ力のある乙武洋匡の話はこうだ(読みやすいよう、若干手を入れています)。

〈詳しい専門家の方に聞くと、批判とか厳罰っていうよりも、やっぱりその孤独にさせないこと、そして治療していくこと、これが依存症の方には何より大事なんだということを、私も見聞きしたことがあります。もし身の回りの方にね、そういう依存症の方がいたり、そういう疑いのある方がいれば、批判をしたり、「お前何やってんだ」って叱責するよりも、寄り添ってあげて、きちんと専門家にかかることを勧めてあげたり、本人がそうことを言いやすい環境を作ってあげたり、そういうことが大事になってくるんではないかなというふうに思います。実際に山口さんが依存症かどうかはわかりませんけれども、報道が彼を叩くことに流れるんではなくて、依存症の可能性がある方はしっかりと専門機関に相談したほうがいいよねということが、社会の共有認識として広まっていけばいいなと思います〉

 乙武発言の内容は、我々の社会がアルコール依存症にどう対するかの基本だ。私が付け加えるべきは特にない。まったく同感である。

 少し前にジャニーズ事務所から独立した手越祐也が、「手越村」という実験的農業の構想に山口達也を招きたいと発言して話題になっている。また、城島茂、松岡昌宏、国分太一らが立ち上げた株式会社TOKIOに山口を呼び、芸能活動に復帰させる道を、まだ諦めていない、とも報じられている。世間は、意外に寛容で、包容力があるではないか。

 山口達也の逮捕は残念な出来事であったものの、こうして前向きな数々の声を読んだり聞いたりすると、彼の不祥事はアルコール依存症理解の道を一歩前進させた面もあったのだなという気持ちになる。こんどこそ本格的な治療とつながり、あらたな山口達也として復活する姿をいつか見せてほしいと思う。

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