やってる感出していただけの安倍政権 コロナで負の遺産噴出

やってる感出していただけの安倍政権 コロナで負の遺産噴出

安倍政権が遺したものをどう見る?(イラスト/井川泰年)

 7年あまり続いた安倍政権はいかなる「負の遺産」を残したのだろうか──。安倍政権発足時から一貫してその政策を批判してきた、経営コンサルタントの大前研一氏が指摘する。

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 安倍晋三前首相の辞任表明後、報道各社の世論調査で安倍内閣の支持率が軒並み急上昇するという不思議な現象が起きた。長期政権への慰労なのか? 難病・潰瘍性大腸炎への同情なのか? はたまた、いわゆる“同調圧力”なのか?

 最近『同調圧力』(鴻上尚史・佐藤直樹著/講談社現代新書)という本が話題だが、今は安倍前首相を批判するのはおかしいと決めつけるような風潮=同調圧力もある。しかし、私は安倍政権発足時から一貫して安倍首相の政策を批判してきた。通算8年8か月の歴代最長政権が終わった今、安倍政治の問題点と、今後それが引き起こす後遺症をきちんと検証する必要がある。

 安倍政権が残した「負の遺産」のうちの一つは、これまでも指摘したアベノミクスの失敗だ。アベノミクスの成果は400万人超の雇用創出と歴史的な低失業率、株高、景気拡大などと言われているが、雇用の増加と低失業率は団塊の世代が大量リタイアした後の人手不足と非正規雇用の拡大によるもので、正規の日本型安定雇用が大きく増えたわけではない。

 また、株高は日本銀行やGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)による「PKO(買い支え)」と、安倍前首相と黒田東彦日銀総裁のアベクロバズーカで国債を乱発する一方で、日銀が金融機関や生命保険会社などが保有していた国債を450兆円も買い上げ、そのカネが株に回っていたからだ。

 そして景気回復も「異次元の金融緩和」を続けて市場にカネをジャブジャブと供給する事実上のMMT(*現代貨幣理論。ある条件下で政府は国債をいくらでも発行してよいという考え方)政策による見せかけであり、実際、景気拡大局面が5年11か月続いたといっても、それはほとんど横ばいの地を這うような「ミミズ景気」でしかなかった。

 そうした負の遺産が、新型コロナ禍を機に一気に噴き出してくる。まず、かつて指摘したように、今後はホテル・旅館や飲食店などが次々につぶれ、失業の山になる。今後はテレワークや業務のDX(*デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術で人々の生活をより良くしたり、既存のビジネス構造を破壊したりして新たな価値を生み出すイノベーション)化で正規社員の仕事も大幅に削減され、失業率が急上昇してくるだろう。

 株高も砂上の楼閣だ。大半の日本企業は業績が上がっていないが、にもかかわらず株高になっているということは、要するに株バブルだ。これがはじけたら、日銀とGPIFが保有しているETF(上場投資信託)や株が内部爆発してしまう。本来、株が危なくなったら投資資金は不動産にシフトするが、すでにオフィスビルの空室率は全国的に上昇中で、東京都心の中古マンション価格も下落している。だから、REIT(不動産投資信託)もテレワーク時代に需要が拡大する物流センター以外は暴落している。

 つまり、アベノミクスは副作用が強いカンフル剤や鎮痛剤のようなものであり、効き目が切れたら、激しい後遺症に見舞われるのだ。

 振り返ってみれば、安倍政権は次々と看板を掛け替えて国民の目先を変えながら「やってる感」を出していただけで、結局、何もできなかった。その安倍前首相に官房長官として歴代最長の7年8か月も仕えたのが菅義偉首相だ。次号では菅政権の課題を考える。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。

※週刊ポスト2020年10月9日号

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