高齢者宅を狙う「点検強盗」急増 「アポ電強盗」との違いは

高齢者宅を狙う「点検強盗」急増 「アポ電強盗」との違いは

事前に告知がないガス点検は実施されていない(イメージ)

 2019年初頭から何度もニュースの見出しに登場し急速に広まった「アポ電」という言葉は、まるでアポイントメント=会う約束をとりつけるように、確認の電話をしてから詐欺や強盗と繋げて使われるようになってしまった。世間に「アポ電」が犯罪と結びつきやすくなったいま、高齢者宅に「ガス点検」を装った点検強盗が相次いでいる。きっとこれも「アポ電」があるのだろうと思われたが、現実に起きた事件を確かめると、少し様子が違う。ライターの森鷹久氏が、点検強盗と昨年までのアポ電強盗の違いについてレポートする。

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 ガス点検を装った強盗、いわゆる「点検強盗」事件が、関東や大阪などで10件以上相次ぎ、テレビでは報道番組だけでなくワイドショーなどでも連日取り上げられている。紐で縛り上げられた、テープで口を塞がれたなど、被害者の生々しい証言が放送されたりもしているが、テレビや新聞などではどうも「アポ電強盗」に関連づけた解説がなされているようである。取材を続ける大手紙社会部記者が言う。

「今回起きている事件は、そのほとんどが高齢者の住処を狙ったもの。いわゆるアポ電の強盗の一種と見られます。以前なら、アポ電によって家主の不在時間を探ったりということもできたはず。コロナの影響で、家を尋ねれば人がいる場合がほとんど、ということを前提とした犯行です」(社会部記者)

 それでは、事前に自宅に現金があるか確認する「アポ電」はあったのか。

 関西や関東で「点検強盗」にあった被害者宅は、筆者の取材によれば、いずれも資産家というわけではなかった。団地暮らしや年金暮らしの老人もいて、家人の留守を狙う空き巣中ならまだしも、家人との対峙も辞さない覚悟を持った強盗が狙う対象にするには、どうも不自然なのだ。更に言えば、被害者の中には、アポ電には必須の「固定電話」を引いていないという家庭もあったのだから、点検強盗はアポ電強盗とは一線を画した新たな「犯罪」としか思えないのである。

 確かに、高齢者の家を狙い撃ちにしていることから、何らかの「名簿」をもとに押しかけていることはうかがえる。従来の「アポ電」を伴う詐欺や強盗も、その人の名前、住所、電話番号、そして資産状況などがまとまった名簿のなかから、自宅にまとまった現金を置いている人をリサーチしてから、ターゲットに向かっていた。ところが、今回の点検強盗については、苦労をして奪うほどの金があるかどうか、ろくに確かめていない様子なのだ。

 空き巣ではなく人と格闘してでも金品を奪いたいのであれば、大金でなければ意味が無い。また、銀行ではなく自宅にいま、確実にまとまった現金がなければ手間をかけた甲斐がない。そのため、入手した名簿をもとに家の固定電話に「アポ電」を入れ、今どのくらいの現金があるのかを聞き出しておくのが常だった。ところが、今回の点検強盗には、あらかじめ確認する行動が見当たらないのだ。そのため、従来の「アポ電」犯罪と同じものだとすることに違和感が拭えない。

 在阪テレビ局ディレクターが、最近のこの種の犯罪の変化について語る。

「関西の点検強盗で捕まった容疑者が、SNSを通じて仕事として強盗を請け負ったと供述しています。そこだけ聞くと、特殊詐欺の受け子や出し子、アポ電強盗に関与した人間と同じプロセスを経ているようにも見えますが、決定的に違うところがある。前者はまだ、人を騙したり、強盗に入る準備をしていました。点検強盗は、ターゲットを縛りあげる、テープで口をふさぐなど、強盗や傷害の指示を具体的に出している。一見計画性があるようで、素人がやれば場当たり的になりやすい……。かつてのものと比べ、かなり雑になっている印象です」(在阪テレビ局ディレクター)

 筆者はこれまで、特殊詐欺の受け子や出し子といった「末端」が、一般人がSNSなどを通じてリクルートされている実態を取材し、記事にした。「アポ電強盗」が発生した時には、人を騙す手間を省き、本来、詐欺師が嫌う人を傷つける、より強硬的な手段が講じられるかもしれない可能性を事前に示唆していた事情通のコメントを出した。それは「特殊詐欺」から詐欺の部分が取り払われ、金のあるところを手っ取り早く襲い、より弱い者が狙われるということを指していた。

 しかし、いま起きている点検強盗は、こちらの予想を上回る粗雑さと冷酷さをはらんでいる。もはやアポ電による確認もなく、金持ちをターゲットともせず、自分より力が弱い高齢者をまとめた名簿をもとに強奪していることが伺えるからだ。ただただ、老人などの弱者に照準が絞られている。実際、最近起きている事件の全てのターゲットが高齢者で、独居老人か、高齢の夫婦である。そして、実行される犯罪が粗雑になるほど、組織的に仕組まれているはずの全貌は見えづらくなっている。

「かつて『指示役』といえば、根元(首謀者)に近い存在でした」

 こう証言するのは、筆者の取材に協力してくれた特殊詐欺グループの元メンバー・X氏(40代)。

 もともと、受け子や出し子といった末端まで、詐欺事件などは立案した人間が「信頼を置ける」と思う、地元の友人や後輩といった身内や身近な人間をリクルートしたものだ。しかし、末端が検挙されることが多くなると、リーダー格の情報が捜査当局に知られやすくなる。そのため末端の者は斬り捨てやすいようSNSなどで集られるようになった。こうなると、切り捨て要員の質は下がり、思慮の浅い若者だけでなく女子中高生や老人などが、小銭欲しさに末端役を買って出た。

 かつての末端役はいま、どうしているのかと言えば、彼らは「指示役」に昇進したのである。

「今までのS(詐欺の隠語)といえば、指示役と実行役がいて、受け子や出し子といった実行役が逮捕されると、彼らと面識がある指示役までは警察にバレるけど、全体の金の管理をしたり絵図を描いたりする、その上はパクられ(逮捕され)ないって感じでした。ただ最近の実行役は質が悪く、パクられたら、なんでも全部喋る。だからもう実行役の信用はあきらめて、その上で止まるようにする。口の硬い実行役は指示役になり、かつての指示役は、指示役を操る中間管理職みたいなもの」(X氏)

 これは、今までの指揮系統に、もう一枚クッションを噛ませ、組織の複雑化を狙ったものと見られる。ややこしくすることで、たとえ事件の実行役が捕まり、芋づるで指示役までが捕まったとしても、犯罪グループの全貌をつかませない。

「当局が厳しい圧力をかけ続けた結果、逮捕されやすい、一番汚いことをやる末端の仕事が、より程度の低い人にアウトソージングされるようになった。犯行側にとっては、使い捨てできるメンツが増えたメリットもあるが、質がとにかく悪く、仕事の失敗率が格段に上がっているから、なんともいえないでしょう」(X氏)

 金持ちでなくでもいい、弱い奴がいたら奪い取るのみ。「点検強盗犯」という犯罪のありさまは、アポ電強盗よりさらに単純に、凶暴になった。もはや相手に取り入ろうとか、騙そうといった面倒なことをせず、いきなり殴りかかるのである。筆者が「……となるかもしれない」と予測するような記事を書いたことはあったが、正直に白状すると、まさか現実になることはないだろうと思っていた。「最悪の事態」としての妄想だった。そんな最悪の妄想が、現実となってしまった。

 状況は今も変化し続けている。これからさらにおぞましい悲劇が起きるのか、もう見当すらつかないというのが本音である。

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