「点検強盗団」の被害現場 高齢者が住む家を手当り次第に

都市部で電気やガス業者を装う「点検強盗」が増加 独居老人を手当たり次第狙う?

記事まとめ

  • 首都圏や関西で、電気やガス業者を装い自宅に押し入る"点検強盗"が増えているという
  • 相手が弱者であれば誰彼構わず襲いかかり、資産のありなし関わらず狙われる可能性も
  • 首都圏で起きた点検強盗の記録を見ると、被害者はいずれも70代以上の高齢者だった

「点検強盗団」の被害現場 高齢者が住む家を手当り次第に

「点検強盗団」の被害現場 高齢者が住む家を手当り次第に

ガス点検を装った男が押し入った住宅(時事通信フォト)

 14世紀に京都・鴨川の二条河原に掲示された「二条河原の落書」は、当時の権力者や不安定な社会への皮肉を込めた匿名の文書として歴史の教科書にも登場するが、そこに「此比都ニハヤル物」として「夜討強盗」が真っ先に挙げられている。奇しくも、都市部ではいま「点検強盗」が激増して世の中を震わせている。被害者はいずれも高齢者で、他に共通点が見当たらないが、防ぐ手立てはあるのか。ライターの森鷹久氏が、点検強盗の被害に遭った場所や人を訪ね、防犯について考えた。

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 首都圏や関西で相次ぐ「点検強盗」。

 いわゆる「オレオレ詐欺」など、被害者から金品を掠め取る特殊詐欺から、事前にターゲットの資産状況や在宅時間などを確認した上で、被害者に危害を加えて金品を強奪する「アポ電強盗」へ移り変わったのが一昨年ごろ。そして新たに登場したのが、電気やガス業者を装い自宅に押し入る「点検強盗」である。

 点検強盗のひとつひとつを確認すると、相手が弱者であれば誰彼構わず襲いかかるもので、資産を持っていようがいまいが関係なく狙われていることが分かる。そこから考えられる犯人像は、同じ高齢者リストらしきものを使用している特殊詐欺はもちろん、アポ電強盗の犯行グループとも大きく異なるとしか思えず、雑で暴力的、かと思えば幼稚で、計画性も感じられない。かつて詐欺事件の犯人が強盗に転じるなどありえなかったが、アポ電強盗、点検強盗と事態がすすむにつれ、行動がより雑に、思考はより凶暴になり、殺人さえも厭わない野獣へと成り代わってしまった、とも言える。

 粗雑で粗暴な犯罪集団に対して、自衛には何が必要なのか。そこで筆者は改めて、被害者がどのような人たちなのかを探り、連中が狙う「ターゲット」の実像を追いかけることで防犯の道を探ってみた。

アポ電の類いはなかった

 東京都A区の公営アパートに住む酒井敏夫さん(70代・仮名)は、9月23日午後3時ごろ「ガスの検針に来た」という2人組の男を部屋に招き入れた。男らは配電盤などをチェックする素ぶりを見せた後、酒井さんの口や手足を粘着テープで縛り上げ、室内を物色。殴る叩くなどの暴行はなかったが、部屋にあったおよそ30万円の現金が盗られた。同じアパートの住人女性(70代)がいう。

「今流行りのアポ電強盗かと思いましたが、酒井さんのお宅には電話がない、携帯も持っていないんです。インターホン付きカメラ? あるのは呼び鈴だけ。このアパートに住んでいるのは、そんなに裕福ではない中高年ばかり。独居老人も多い。高齢者を狙った詐欺事件が相次いでいることは知っていましたが、ここの住人には縁がないと思っていた」(住人女性)

 収入や生活状況によっても変わるが、同アパートは3万円代後半からの家賃で入居できるため、資産の乏しい年金暮らしの高齢者、生活保護受給者も多いという。オレオレ詐欺だろうがアポ電強盗だろうが、ターゲットが「金持ち」であることが前提だと広く知られているため、住人の誰もが厳しい防犯の必要性を感じていなかった。なぜ犯人が電話も持たず、30万円のタンス預金はあったとはいえ、慎ましい暮らしを続ける高齢者を狙ったのか。事件を取材した民放社会部記者がいう。

「現場はアパートの最上階で、押し入っても人目につきにくい場所。さらに、同アパートには防犯カメラなどが一切なかった。住人は『詐欺事件とは無縁だったのに』と驚いており、今では付近をパトカーがひっきりなしに巡回するほど警戒を強めています」(民放社会部記者)

 防犯カメラがなく、人目につきにくいとはいえ、それだけの理由で強盗に入るとは考え難い。そんな疑問を抱きつつ、次に訪れた現場は、同じく都内のB区。古い住宅街が広がるエリアだが、山手地区で進む再開発の影響で、富裕層が住む豪華な戸建ても目立つ。狙われた結城さん夫婦(共に80代・仮名)宅は、そんな豪華な戸建て住宅に挟まれるような立地にあり、古さは感じられるも、庭や玄関先の木々の手入れも行き届いた、清潔で、こぢんまりとした家である。訪ねると、事件を受けて急遽実家に帰っていた結城さんの息子が取材に応じた。

「アポ電の類はなかったと父親は言っています。(個人情報が漏れるような)通販をやったという記憶もない。付近では一番古い家だから狙われたのか……。思い当たる節はありません」(結城さんの息子)

 結城さん宅へ点検強盗に入った20代の男、50代の男2人はすでに逮捕されている。分かっている彼らの手口は、やはりガス点検を装い室内に侵入した後、夫婦を「騒ぐな、殺すぞ。金はどこだ」と脅した上で、両手両足を粘着テープで縛ると、バッグなどに入った6万5000円を強奪。結城さんの父親はもみ合いでケガもしている。改めて結城さん宅を確認してみると、防犯カメラはおろか、インターホンや呼び鈴の設置すらないのである。アポ電もないし、富裕層でもない高齢者だけが住む、防犯カメラもインターホンもない、というのが、前出の被害者・酒井さんと共通する部分ということになる。

管理人も防犯カメラもあるが「穴だらけ」

 B区からおよそ20キロ離れたC市の戸建て住宅にもガスではないが「点検強盗」に類似した事件が発生していた。取材する全国紙社会部記者が解説する。

「役所の人間を装い、新型コロナウイルスに関連したアンケート調査に協力してほしいとインターホン越しに呼びかけ、嘉島さだ子さん(80代・仮名)とその息子が住む一軒家に、20代の男2人が押し入りました。女性は協力を断ったようですが、男らは裏口から勝手に侵入。女性を殴りつけたり縛ったりして、キャッシュカードや現金を奪ったのです」(全国紙社会部記者)

 警察によれば、逮捕された埼玉在住の2人組の男らに面識はなく、SNS上に紹介されていた『高額アルバイト』に応募、その後は文章や画像が一定期間すると消去されるメッセージアプリ『テレグラム』を通じてやりとりをしていたという。さらに、男らは事件当日、東京・池袋駅で初めて落ち合ったというから、犯行は極めて場当たり的であった。近隣住人の証言からも、そのずさんさが浮かび上がる。

「嘉島さん宅のすぐ近くにある防犯カメラに犯人の男2人がバッチリ映っていたようで、警察の方が見覚えはないかと聞き込みに来られました。特殊詐欺とかアポ電強盗とかあって怖いねって話していた矢先の出来事。あんなに堂々と、しかも派手な私服姿で来るなんて」(近隣住人)

 若い人が出て行き、高齢者だけが住む住宅も少なくない同エリア。ちなみに嘉島さん宅へは、事前に「アポ電」らしき電話がかかってきていたことが確認されている。また、インターホンはカメラ付き、立派な自宅であり、側から見ると資産家の家にも見える。さらに嘉島さん以外に子供も同居していたのだから、前出2人の被害者の生活環境と比較すると、こちらは単純な「アポ電強盗」の可能性は残るが、高齢者だけが住んでいる、という確認がなされた形跡はない。嘉島さんは肋骨を骨折するなど、一歩間違っていれば命を落とした可能性もあったという。

 最後に訪れたのは、東京都の都心・D区にある大規模分譲マンション。築年数は古いが、最近はリノベーションされた物件に移り住む若い家族も目立つ、典型的なファミリータイプのマンションだ。

「資産があるわけでもないし、一人暮らしです。アポ電なんかかかってきた記憶はありません」

 筆者の取材にこう答えたのは、点検強盗に押入られたというこのマンションの住人・橋場幸一さん(90代・仮名)。一人暮らしで「消防の検査です」と訪ねてきた男1人を部屋に入れたところ、コンロ周りを点検するそぶりを見せた急に男から顔や胴体を殴打され、骨折の怪我を負う。粘着テープで両手を縛られ、目隠しまでされて、財布やキャッシュカードの場所、暗証番号を聞かれたという。被害額は財布に入っていた約3万円。橋場さんはその後、自力でテープをほどき、通報した。

 そのマンションは古いとはいえ大手建設会社系の管理会社が管理、日勤管理人もいるという大規模マンションである。防犯カメラはエントランス付近に2箇所、エレベーター内にもある。セキュリティ対策がまったくなされていない、というわけではなかったものの、マンション住人は「穴だらけ」だと話す。

「防犯カメラはあるが、死角が多すぎる。カメラを避けて、外階段で誰でも部屋の前まで行ける。古い住人も多く、お年寄りの一人暮らしのお宅なんかだと、呼び鈴があるだけ、玄関にはインターホンもカメラもない」(マンション住人)

 容疑者の男は事件から二週間弱で、逮捕された。

独居老人を手当たり次第、の可能性

 さて、改めて筆者が取材した4件の被害例をみると、防犯カメラの有無、資産の有無、そしてアポ電の有無など異なる部分も多い。それでも共通するのは、そこに「高齢者がいた」という点である。さらに、首都圏で同時期に起きた他の「点検強盗」の記録を見ても、被害者はいずれも70代以上の高齢者だ。

 特殊詐欺やアポ電強盗について、前期高齢者である筆者の母親は「うちは取られるものはない」と高笑いしていたが、こうなってくると話は変わる。資産がなくともアポ電がなくとも、そこに年寄りがいれば襲われる、そんな事件が頻発しているというのが、偽らざる事実なのである。

 さらに気になるのは、犯行が場当たり的に、雑に行われていることである。一般的に、アポ電などを経て強盗に入る場合は、先方に資産があるか、自宅にまとまった現金があるかを確認する。でないと割に合わないからである。しかし、今起きている一連の強盗事件はいずれも、被害額は決して多くない。SNSでの応募が犯行に加わるきっかけになっていたり、実行犯の背後には指示役がいることは間違いなさそうだが、「老人宅を狙え」という単純な指示しか出されていない可能性がある。

 また、雑で場当たり的だからこそ、犯行から時間を置かずして実行犯が次々と逮捕されているところを見ると、彼らはことごとく「使い捨て」の駒にされていることも伺える。今、全国で次々に摘発されている「持続化給付金詐欺」の被疑者らにもこれは共通するが、実行犯達はあまり考えることもないため……もしくはヤケになってなのか「すぐにバレる犯罪」に手を染めたり、染めるよう強要されている。

 詐欺や犯罪は、健全な生活、経済があるからこそ発生する。コロナ禍のような前代未聞の状況下では、詐欺師などの犯罪者もお手上げである、というようなことを、特殊詐欺に関わった経験のあるネタ元から聞いたこともあった。地面師のように一カ所から十億、百億、いやそれ以上の莫大な資金をかすめとる詐欺ではなく、少し余裕のある人から薄く広く集める特殊詐欺ならではの事情ではあろう。その彼らにとって、少し余裕がある人たちが持つ普段のうかつさ、いや、お人好しぶりを奪っている今年の状況は、得意のやり口を塞いでしまっているのだろう。

 だがいま、日常生活が少しずつ取り戻されている。観光地や繁華街に人が戻り始め、約半年も続いた辛抱だらけの生活から解放されたと、社会全体が気をゆるめている段階だ。そこを見逃さない連中がいる。犯罪者達は半年強の「遅れ」を取り戻すべく、なりふり構わず堂々と犯罪を行なっており、それが点検強盗や給付金詐欺のような形で、社会に露呈し始めている。

 被害を防ぐためには何事も「うちには関係がない」で済ませてはいけない。たとえば都市部だけの犯罪だと言われていたタイプの犯行手口が、あっという間に全国に広がった例はいくらでもある。点検強盗団が地方に拡大し、独居老人宅を手当たり次第に狙う、ということも十分に考えられる。大げさでなく「命を守る行動」がここでも求められるのだ。

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