「ディープフェイク動画」製作者の言い分と売買成立の現実

「ディープフェイク動画」製作者の言い分と売買成立の現実

ありえなかった映像が技術の発達により実現、まるで本物のような完成度になりつつある

 技術の進歩は、多くの人々に新しい喜びをもたらすはずだ。ところが、それを利己的な理由で悪用して利益を得るだけでなく、法の整備が追い付いていないのをいいことに、悪いことはしていないし誰も被害者はいないと屁理屈を重ねる人たちがいる。ライターの森鷹久氏が、ディープフェイク動画を取り巻く困惑するしかない状況についてレポートする。

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 ディープフェイクとは、AI(人工知能)による「ディープラーニング(深層学習)」と「フェイク(偽物)」を合わせた造語だ。この「ディープフェイク」の技術を用いれば、例えば著名な政治家や芸能人に似せた映像を用い、実際には本人がやっていない過激な言動させたように見せ世論を誘導する、といったことも可能になる。

 アメリカではすでに、大統領や有名実業家のディープフェイク映像が出回り物議を醸していたが、日本で出回っている「ディープフェイク」は、そのほとんどがアダルト物だ。とはいえ、かつて流行したアイコラ、芸能人(アイドル)の顔写真だけをセクシーな写真に貼り付けた不自然さが残るものを想像し、そんな低いクオリティのものをまともに受け取る人は誰もいない、と思うのであれば、それは認識が甘すぎる。AIに表情などを学習させることで、偽動画とは思えないほど違和感なく仕上がるようになった。その完成度は年々高まっており、今では一見するだけで偽物か本物か、全く区別がつかないような偽動画まで出回っているのである。

 昨年6月、筆者は「ディープフェイク」のアダルト映像について記事に取り上げ、これからどんどん、そうした偽映像が世の中に出回って行くだろうと書いた。その際、ディープフェイクの製作者にも話を聞き、悪びれていない様子を記している。

 今回、アイドルの顔映像と、アダルトビデオの映像を使ってディープフェイクを作成したとして、日本国内で初めて逮捕者が出た。逮捕された男3人の罪状はアイドルの「名誉毀損」と、アダルトビデオの「著作権侵害」であり、容疑者のうち1人は、制作した映像をネット上で公開するなどして一年弱の間に約80万円の収入を得ていたという。

 事件を受けての見解を伺うべく、一年前に取材に応じてくれたディープフェイク製作者に改めて話を聞くと、開口一番「私は捕まっていません」と笑い、余裕を見せた。

「結局、ディープフェイクを作ること自体が違法というわけではないのです。名誉毀損にはなってしまいましたが、AIが描いたアイドルの顔は、AIがアイドルの顔パターンを何千、何万と学習し、オリジナルで描き出したもの。いわばイラストとか肖像画と何も変わらない。イラストがダメです、という判断はできっこないでしょう」(ディープフェイク製作者)

 確かに、アイドル側は名誉毀損で訴えており、著作権などの侵害については報道でも触れられていない。とはいえ、それはAIが描き出したとはいえ実際の人間の顔を基にしているので、イラストとまったく同じという製作者の解釈はかなり強引だろう。ただ、AIが作り出したもののどこからがモデルとは別の成果物とみなすのかについては、これから解釈が定まってゆく事柄であるため、判断が先送りされているだけだ。現状、捜査関係者は「法が追いつかない」と嘆くばかりだ。

「今回、初めてディープフェイクを摘発しましたが、罪状だけ見ても、ディープフェイクを撲滅するための本質的な捜査が行われたとは言い難い。さらに、逮捕された3人は、外部からは見られない特殊なコミュニティでやり取りをしていたとも考えられ、かつ中心人物とも見られています。ただ、一番の大物とみられる製作者については、その足取りを追えていません」(捜査関係者)

 前出のディープフェイク製作者が続ける。

「名誉毀損も著作権侵害も、映像が外に出たからダメなだけで、個人で楽しむ分にはバレないからいいでしょう。需要はあるから、クローズドなコミュニティでは、誰々の顔でディープフェイクを作って欲しい、みたいなオーダーがたくさん飛び交っていますし、仮想通貨を使って金銭の授受も行われている」(ディープフェイク製作者)

 クローズドなコミュニティだから作ってやり取りしても大丈夫、ということにはならないと思われるのだが……。そこに「被害者がいる」ということをわからないか、意図的に無視しているのか、彼らのスタンスは到底世の中に受け入れられるものではない。

 別にアダルトだから、というわけではないが、需要がある限り、どんなに摘発しても地下に潜るだけ、というのが製作者の見方であり、現状を見る限り、そうなってゆくのだろう。また、筆者の調べによれば、専門知識がなければ作成不可能だったディープフェイクは、すでにフリーソフトなどで、素人でも簡単に作られるようになりつつある。そして、より本物っぽく見せる技術も向上するばかりだ。

「偽物とわかってみているだけ」「被害者はいない」と軽い気持ちで製作したり閲覧する人々は、現実に被害者はいるという事実と向き合うべきだ。AIが描き出すためのモデルにしているのは現実に存在する人間であり、どこにも存在しない架空の人物ではない。AI技術によって、今のような生成物が可能になることを現在の法律は想定していなかった。今後は傷つく被害者を減らすために法の整備はもちろん、インターネットの利便性を享受する人すべてが良識ある利用を続けることが必須だ。でなければ、自由で新技術を楽しめたネット空間に、どんどん規制がかけられる。大多数の人々の自由が奪われない未来のために、必要なことだろう。

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