PayPayポイント不正入手事件 「携帯番号4万件」のカラクリ

PayPayポイント不正入手事件 「携帯番号4万件」のカラクリ

普及のための新規登録キャンペーンが悪用された(時事通信フォト)

 新しいサービス普及のための「新規登録キャンペーン」に目をつけ、虚偽の情報をもとに不正な取引を繰り返して濡れ手に粟を得る人たちがいる。スマホアプリやネットオークションが舞台になっているため新しい犯罪のように見えるが、実は過去の詐欺事件などと同じ犯罪ネットワークに関わっているらしい。ライターの森鷹久氏が、大規模な新規登録キャンペーン悪用によって明るみに出た、新形態の犯罪のタイプについてレポートする。

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 電子決済サービス『PayPay(ペイペイ)』のポイント2千万円分を入手し、不正に現金化したとして、電子計算機使用詐欺の疑いで埼玉県警が男女3人を逮捕した。会社役員男性と内縁の妻、その息子と実質的な家族で組んだ犯罪チームが実行した犯行内容は、実に驚くべきものだったと大手紙社会部記者が解説する。

「ペイペイに新規登録するとキャンペーンで付与される500円分のクーポンを、約4万件の携帯電話番号を使って入手。それを別のオークションサイトで自作自演の取引を繰り返して2千万円の現金に換え、高級車レクサスなどを購入していたと見られます。一家は認証代行業者であるとも発表されており、4万回の登録をどうやってやったのかなど、捜査が進められています」(社会部記者)

 一回の新規登録で500円、それを4万回やって2千万円を得る、とは気が遠くなるような回数だが、そもそもなぜ4万件分の携帯電話番号を持っていたのか。さらに、逮捕された家族らの職業「認証代行業」とはいったいどんな仕事なのか、疑問が尽きない。

「スマホで決済アプリなどを使用するとき、本人認証が必要になります。自身の携帯番号を入力すると携帯宛にショートメッセージでパスコードが送られてきて、それをアプリなどに打ち込めば本人認証が完了する、といった方法が最もポピュラーです。認証代行とは、その本人確認のために行われる手続きを代行することです」(社会部記者)

 そもそも「本人」を認証するためのプロセスなので、認証代行そのものが怪しい行いだ。要は「あなたになりすまして、認証を代行してあげます」ということで「刑法第161条の2(電磁記録の不正作出、及び供用)」で禁じている行為に当たる可能性もある。だが、違法行為として検挙される可能性があるにも関わらず、こうした「代行業者」はツイッターなどのSNS上にわんさかいる。

「SNSやフリマアプリなど、認証が必要なサービスについて、1件あたり数千円程度で認証の代行を請け負うという書き込みが多く見受けられ、警察も監視に乗り出しています。こんな業者、当たり前だけどまともじゃありませんし、使う方も、SNSやフリマアプリを詐欺に使うなど、ろくなことはしません」(社会部記者)

 筆者の取材によれば、今回使われた「約4万件の電話番号」というのは、厳密に言えば携帯電話が4万台も積まれている状態ではなく、4万枚のSIMカードである。通信事業者と契約すると、SIMカードには加入者を特定するID番号が記録される。それを通信端末に差し込めば、電話や通信機器として利用できるようになる。しかし、逮捕された3人が持っていた4万枚のカードをいちいち通信端末に抜き差ししていては、時間がいくらあっても足りない。

 したがって、彼らのような事業者は、4万枚のSIMカードは数百枚から数千枚ずつ差込が可能な器具に差し込み、それぞれがあたかも「スマホ」のように使える状態にし、あとは機械的に認証作業を行うのである。そんな大量のSIMカードをどこから入手したのか。首都圏で複数の携帯電話販売店を運営する町田尚人さん(仮名・50代)が声を潜める。

「通常、個人で契約できるのはだいたい5回線程度と決まっています。生活に困り携帯番号を転売し、犯罪に利用されるなどの事例が相次いだためです。しかし、法人契約ではその上限がありません。反社会勢力が休眠会社を乗っ取るなどし、社員が数百人いるように装って携帯電話回線を数百件分契約すればよいだけ」(町田さん)

 であれば、販売店側の管理がそれだけ杜撰なのか、と責任を問われる可能性もあるはずだが……。

「もちろん、販売店だって気をつけていますし、個人の新規契約と違って、法人契約では携帯キャリアからの報奨金が出ないなど、販売店のうまみもない。そこで暗躍するのは、ブラックな販売店。反社から弱みを握られた販売店や、そもそも反社が立ち上げた販売店を通じて、相当な数の携帯番号が流出しています」(町田さん)

 特に最近では、コロナ禍で仕事や授業がなくなり、かといって帰国もできないという在日外国人たちが、目先の生活費のためにこうした犯罪に巻き込まれたり、加担している例も目立つ。来日歴の浅く、日本では何が禁じられているのか事情がよく分からない外国人を狙う反社の日本人も存在するのだ。

 今回のような認証代行業者が新規登録に使用したSIMカードは、そこで役目を終えるわけではない。一度認証に使われた番号は、同じアプリやサービスでは二度と新規登録には使えないため、他のサービスの認証に回される。認証作業を一通りくぐり、認証では使い道がなくなったSIMカードは、そのまま別の場所へ転売される。

 その別な場所とは、いわゆる「道具屋」と呼ばれるところで、主に特殊詐欺に利用される携帯電話や名簿などの「道具」を販売する非合法業者だ。持ち主が定かでない携帯電話を「飛ばし携帯」と呼ぶ。そんな出所があやしい携帯電話番号であっても、それ一つあれば、今では電子マネーをためておく口座代わりの「財布」を持てたり、電子マネーの現金化、そして詐欺にまで利用できる。まだまだ使い道が残っているというわけだ。そして詐欺に使えばすぐに警察当局に把握され該当の番号は利用できなくなるから、そこでそのSIMカードはすべての役目を終える。

 今回、4万件もの新規登録無料ポイントを悪用して逮捕された家族は、こうした不正入手ルートに現れた新たな「経由点」のひとつだ。かつて、不正入手された携帯電話(番号)は、単純に「道具」として利用されるため、販売店から経由地をめぐることなく道具屋に流れていた。だが、今では道具屋の手前の段階で認証代行業者を名乗るグループに渡るようになった。ポイントやクーポンを荒稼ぎできるという「うまみ」が発見されたため、その利益を掠め取る役目を、この家族が担っていたというわけだ。

 構図が見えることによって、分かってくることがある。3人家族が手を染めたのは、規模が大きめの家内制手工業ならぬ、家内制電子詐欺などという素朴な犯罪ではないということだ。日常的に犯罪と接するネットワークに存在する道具を活用し、今までにはないような驚くべき手法で金品を詐取する。もはや、一般人が小銭欲しさにやってしまった、と言うレベルを超え、様々な金銭取得の手段を持つ一つの犯罪組織が形成されてしまっているのだ。

 日進月歩で進化する様々な技術と、それに伴い、お呼びでないのに勝手に進化を続ける不正や犯罪。技術革新によって人々の利便性が上がるはずが、セコい悪事を大規模に働く者たちのために利便性に制限がかかり、人々の暮らしが窮屈なものになっている。そういった意味で、こうしたサイバー犯罪は、人類全体に被害を与えているに等しいのである。

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