無借金経営がリスクになる時代 返済実績なければ貸し渋りも

無借金経営がリスクになる時代 返済実績なければ貸し渋りも

キヤノンは“無借金”から“借金経営”へ(御手洗冨士夫会長。時事通信フォト)

 新型コロナウイルスは、企業経営に深刻なダメージを与えている。資金繰りに苦しむ会社が頼るのは、金融機関からの融資──すなわち「借金」だ。

 特に大きな話題となったのが、ANAホールディングス(以下、ANA)の巨額借り入れだ。日本政策投資銀行など5行から、約4000億円の追加融資を受けることが固まった。

 その一方で、優良企業の条件としてよく挙げられるのが“無借金経営”だが、この時代はそうとも言い切れない。「借金をしないこと」がリスクにつながる怖れもあるのだ。経済ジャーナリスト・福田俊之氏が指摘する。

「平時の無借金経営は評価されるが、いざ有事となると、借り入れ実績がないことが仇になる。普段から融資を受けて返済する実績を積み、メインバンクと付き合って信用を作っておいたほうが、何かのきっかけで資金繰りが悪化したとき、助けてもらえる可能性が高いのです。2008年のリーマンショックでは、多くの無借金経営の黒字企業が、金融機関の貸し渋りで融資を受けられず、手元資金が枯渇して倒産しました」

 返済の実績がないと、返済能力が未知数のため、金融機関は融資を断わることがあるのだ。かつてキヤノンは無借金経営で有名だったが、現在は“借金経営”に転じている。

「2020年1〜3月期の連結決算は純利益が前年同期比30%減。『短期借入金』を増やし、研究開発費や設備投資などの支出は抑制していると言われています。ただ、新規事業全体では増収増益となっているので今後に注目です」(同前)

 借金には別のメリットもある。金融ジャーナリストの小泉深氏が語る。

「法人税は会社の利益に税率をかけて算出する。そのため、負債を多くして利益を減らすことで、税額を減らすことができます。むしろ借金をしていない企業はその分税金を多く払っている、つまり“株主の取り分を減らしている”とも言えるのです」

 コロナ禍という“有事”においては、無借金にこだわる理由はなく、借金することが“起死回生の一手”になることもある。

「仮に高い技術力を持つ企業でも、コロナが収束するまで資金繰りを維持できなければ淘汰されていくでしょう。今は借り入れを増やして、手元資金を積み増すほうが賢いと言える。ANAの場合も賃金カットや不採算路線の見直しなどでコストカットをしながら、借金でどれだけ財務基盤を強化できるかがカギになるでしょう」(前出・福田氏)

“良い借金”になるか、“悪い借金”になるかは、借りてからの経営手腕にかかってくる。

※週刊ポスト2020年11月6・13日号

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