犯罪収益を狙う強盗メンバーまでSNSで安易に募集される実態

犯罪収益を狙う強盗メンバーまでSNSで安易に募集される実態

強盗犯がやってきたマンション一階には交番があった(イメージ)

 犯罪グループが人の犯罪収益を狙う、強盗をしかける、いわば「身内叩き」とも言える出来事は、珍しいことのように感じるかもしれないが、実はたびたび起きている。なぜニュースで見聞きしないのかといえば、被害者が蓄財していたことを警察に、税務署に、世間に知られたくないため声を上げないからだ。それを狙ったつもりが犯罪収益ではなかったり、被害者にこだわりがなかったために露見し、明るみに出る事件がある。そこから見える、身内叩きにも広がるSNSを利用した安易なアウトソーシングについて、ライターの森鷹久氏がレポートする。

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 東京・目黒区の高級タワーマンションで発生した強盗事件。発生直後、民放の某ニュース番組を見ていたという映像制作会社勤務・高橋真司さん(仮名・40代)は目を疑った。

「強盗にあった被害者という若い女性がニュースに出ていたのですが、とても派手な見た目で、どうも見覚えがあった。名前はなく『被害者』と紹介されていましたが、間違いなく彼女だ!と」(高橋さん)

 高橋さんが驚いたのは無理もない。被害者女性は、かつて地上波テレビの深夜番組にもレギュラー出演もしていた人気セクシー女優だったのだ。事件を取材したテレビ局記者がいう。

「なぜ被害者が、しかも顔出しで取材に応じているのだと騒ぎになりましたが、セクシー女優だと聞いて、各社の記者は一瞬たじろぎました。昼の、しかもお堅いニュース番組に出してもいいのか、ということで…」(テレビ局記者)

 結局全ての社が彼女への取材を行い放送したが、社によって「セクシー女優」とか「被害にあった女性」など肩書きはバラバラだった。

 さて、前置きが長くなってしまったが、本題はここではない。実はこの被害者、2億円を超える所得隠しを東京国税局に指摘され、1億7000万円の追徴課税を支払っていたとニュースになった過去があるのだ。前出記者が続ける。

「彼女に脱税の過去があることも、取材するべきか迷ったポイントではありました。しかし、取材を進めていくうちに、その過去があったからこそ彼女が狙われた、という見立てが立ち、事件の本筋に関わることではないかということで、各社オンエアに踏み切ったのです」(テレビ局記者)

 すでにこの事件に関わったとして、少年ら3人が逮捕されている。いずれもSNSを通じて集められ「指示役」の言う通りに強盗を実行していた。少年3人は標的の職業、そして脱税の過去があったことも知っていた。全て指示役から持たされた情報であるとみられる。捜査関係者が言う。

「最初は、相次いでいる点検強盗かと思いましたが、どうも違う。被害者のヤサ(住所)、被害者が金を持っていることのどちらをも知る、それなりに近しい第三者が指示役が主犯、もしくはそういった人間が指示役に情報を提供しているのでしょう。被害者も罪を犯しているのだから、タタキ(強盗)にあっても、警察には言わないはずという魂胆です」(捜査関係者)

 逮捕された3人が今回被害者から強奪した600万円は、もちろん脱税によって蓄えられた金ではない。強盗はなかったことにされるはずと考えた指示役が「見誤った」という他ない事件の顛末だ。このように、被害者がすすんで「無かったこと」にするはずだから、強盗しても大丈夫だと考えて実行したのに露見して逮捕される事件は、過去にも発生している、というのは大手紙社会部記者。

「かつて数百億円を出資者から騙し取り逮捕された、元大物詐欺師の男が住む都内の家に、九州方面から上京してきた若い男女が強盗に押し入りました。被害者男性は詐欺で逮捕され数年間を刑務所で過ごしたあと、出所後も中国人を相手にした詐欺ビジネスで荒稼ぎをしている、と言われていたのです」(大手紙記者)

 ちなみに、強盗が入ったこの男の家、東京は下町の繁華街に佇む雑居ビルだった。ボロではないが新しいわけでもなく、資産ウン百億の男の居宅とは思えない外観で、彼はそこで暮らしていることを極力、人に知られないようにしていた。

「強盗団は男の属性も知っており、数百億の金があるだろうと脅したが、結局十万円ちょっとが入った財布しかなく、仕方なくそれだけを奪って逃げたんです。犯人はすぐに逮捕され、背後に指示役がいることはわかりましたが、男が隠しているはずの住所まで知っていたところを見ると、近しい関係者の可能性も高いです」(大手紙記者)

 目黒区の高級タワマンで強盗を働いた犯人グループの「指示役」も、元大物詐欺師が住む雑居ビルへ押し入ったグループも、同じように、やましい手段で蓄財しているから奪っても被害者が露見させないはずだと頭に描いていたに違いない。犯罪プランについては似ている2グループだが、実は決定的に異なる部分がある。 他人の犯罪収益を強奪しようとする人は、案外、少なくない。たとえば、非合法活動によって金を得る者たちのグループで「身内を撃つ」、仲間の金を強引に奪うといった揉め事はよく起きている。ただし、撃つ行為、強盗の実行犯を、SNSなどで募った素人にやらせるというパターンは、かつては見られなかった。

 それというのも、犯罪収益を標的に強盗を仕掛けるというのは、警察に逮捕されるかもしれないという話とはまた別の危険にさらされるからだ。非合法手段で得られた金を奪われた側は、それを取り返そうと躍起になるとき、当然、普通ではない手段で強引に奪い返し、報復に出てくる可能性が高い。その局面では暴力団など、ある意味では「プロの現場」に巻き込まれることも想定される。それほど危険な「仕事」なのだから、たとえ卑怯な手段でも信頼できるメンバーで挑むのが普通だったのに、目黒のタワマン強盗事件をみると、実に安易にアウトソーシングしていることがわかる。捜査関係者が言う。

「そこに金さえあれば、相手がだれであろうと、どんな手段を使ってでも奪ってやろうという連中が、反社の世界ではご法度な”身内をたたく”行為に出始めた。自分でやるのならまだしも、思慮の浅い素人を使うあたり、本当に姑息で虫唾が走るほど卑怯。想像もできないような悲劇が起きる日は近いのではないか」(捜査関係者)

 犯罪収益を別の犯罪グループが強奪することまでSNSを経由した安価で安易な外注に頼るのが当たり前になったら、どんな未来がやってくるのか。ただ金に困っただけの少年が、興味本位からSNSを通じ、いつの間にか暴力団抗争における「ヒットマン」に転じる、といったこともあり得るのかもしれない。

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