USJを復活させた凄腕マーケターが語る「テーマパーク再生術」

USJを復活させた凄腕マーケターが語る「テーマパーク再生術」

「株式会社 刀」代表取締役CEOの森岡毅氏

 森岡毅氏が“凄腕マーケター”として名を馳せたのは、低迷していた大阪のテーマパーク「USJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)」を驚異的なV字回復に導いてからだ。

 USJは約20年前の2001年に開園。森岡氏は2010年にUSJ入りしたが、その前年は年間入場者数が700万人台前半まで落ち込んでいた。ところが2011年から入場者数は増加に転じ、2014年に「ウィザーディング・ワールド・オブ・ハリー・ポッター」の新プロジェクトが完成するや大ブレイク。入場者数は森岡氏が在籍した6年半の間でほぼ倍増の1460万人まで伸びた。

 森岡氏はその後2017年に独立し、マーケティング会社の「刀」を設立。目下、刀が取り組んでいるビジネスの1つが、2021年春に開園を控える西武園ゆうえんち(埼玉県・所沢市)のリニューアルプロジェクトである。

 園内には1960年代をイメージした“あの頃の日本”の町並みを高いクオリティで再現、圧巻のライブパフォーマンスと壮大なインタラクションに巻き込まれ、「心あたたまる幸福感」に満たされる場所に生まれ変わるという。

 USJと同じテーマパーク、そして実に70年の歴史を刻んできた西武園ゆうえんちを、森岡氏や刀の精鋭メンバーがどう再生させるのかに注目が集まっている。そこで、当サイトは森岡氏に単独インタビューを敢行。自信のほどを聞いてみた──。

西武園ゆうえんちの新たな「顔」づくり

「西武園ゆうえんちは1950年に開園しています。当時は、遊園地の存在そのものがまだ珍しかった時代でした。歴史があるだけに、一般の方から懐かしさや古い遊園地というイメージこそ持たれていますが、それ以上に語るべき特徴、つまり遊園地としての『顔』が見えなくなっていたんですね。

 あそこに行ったらどんな体験が得られるのか、人々が想起できない。そうなると、消費者が持つ選択肢のサイコロの中に西武園ゆうえんちはなかなか入ってきません。まったく特徴のない人の顔が記憶できないのと同じで、西武園ゆうえんちを知ってはいても、具体的に想起できる顔がないがゆえに、認知が貯まっていかないわけです。そこが最大の課題でした。

 西武園ゆうえんちの新しい顔を作る際、これまで70年の長きにわたって運営してきたわけですから、従来のベクトルの延長線上に解を見つけないといけません。企業や事業を復活させるには、その企業が持つDNA、原点に立ち返ることが重要だからです。

 では、西武園ゆうえんちのDNAとは何なのか。よくよく考えた結果、懐かしさや古さ、昔ながらの遊園地という消費者が持っているイメージを、どううまく逆手に取れるか、古いことがいいことだという文脈をどうやって作り出すか、に辿り着きました。そのほうが斬新で面白いと。さらにリニューアル投資も少なくて済みます。この構想で西武園ゆうえんちを復活させようと考えました。

 西武鉄道を中核とするグループですので、さすがと言うべきか、西武園ゆうえんち内の施設のメンテナンスはとてもきっちりとやられていますし、植栽の手入れも行き届いています。ただ、変わりゆく世相に合わせた企画が足りなかったのです。ですから、園内はレトロでいいものがいい状態で残っている。これを最大限に活かさない手はありません。

 私の子供世代ともなると、“昭和”という時代性は、もうファンタジーの世界です。だからこそ、若い世代にとって昭和レトロなものは新鮮で面白く映る。一方、昭和をよく知っている世代にとっては懐かしく感じるわけで、老若男女を囲い込める、唯一無二の存在になるようなコンセプトを描いてみようと考えました。

 西武園ゆうえんちのある所沢というロケーションは、東京都心部からはやや距離があり、そこを埋めようとか抗おうと考えるのではなく、西武園ゆうえんちを通じて、所沢に彩が加わり、所沢という街の魅力が上がって素敵になればいい。そうすれば東京を含め、広域から人が出かけるようになる。それが所沢の地元の方の誇りになり、自慢にもなります。そういう状態をどう作るかというプロジェクトでもあるのです」

「消費者」を理解するために狩猟免許を取得

 森岡氏は兵庫県出身で大学も神戸と、神戸エリアには思い入れがあるが、地元でも、すでにテーマパークの再生を手がけている。それがネスタリゾート神戸(2016年7月オープン)だ。兵庫県三木市にあるこのリゾート、前身は年金福祉事業団が全国に大規模保養施設を整備した1つの、グリーンピア三木である。

 首都圏では東京ディズニーリゾートの存在が圧倒的なように、関西でもUSJの存在感が際立っており、近畿圏にある他のテーマパークを再生させるのは容易なことではない。そんな中、グリーンピア三木の再生の依頼を受けた森岡氏は、地元ということもあって意気に感じたという。ネスタリゾート神戸は、どんな森岡メソッドで誕生したのか──。

「小さくとも輝けば素敵な彩になるという意味で、ネスタリゾート神戸も、西武園ゆうえんちと同じ視点で支援しています。兵庫県にはこれというテーマパークがなく、しかも三木市にある当地は山の中で何もありません。この環境下で人を呼び込む必然をどう作るか。

 消費者がブランドの選択肢を選ぶ際、たとえばクルマが好きな人であればブランドの選択肢は増えますが、あまり好きでなければ減ります。プレファレンスといって、これはブランドに対する消費者の相対的な好意度を指しますが、そこが理解できれば、消費者から選ばれる必然は作れるのです。

 では、選ばれるためのブランドの本質とは何か。人間の“本能”にどれだけ刺さっているかで決まるというのが私の仮説です。

 売れている商品やサービスは、何かしら人間の本能に刺さっており、そこを分析する鍵は、『凡人』と『狂人』にあると考えています。“凡人”はマーケットのど真ん中にいる、いわば非常に平均的な人たちです。一方、そのマーケットの中で極端なことをしている人を私は敢えて“狂人”と呼んでいますが、“狂人”は本能が露骨に表れるので分かりやすい面があります。

 本能の構造自体は“凡人”も“狂人”も同じですが、欲求の量と強さが違う。たとえば、狩猟をする人は肉が食べたいのではなく、原始的な環境に身を置いて“食べるものを手に入れることができる自分”という精神的欲求を満たしているわけです。消費者を理解するためには、私も“狂人”にならないといけない。ネスタリゾート神戸は山の中にあり、山における“狂人”といえば猟師でしょう。そこで私は猟師の免許を取得しました。

 普段、便利な文明社会にいると自分の存在価値がわからなくなったり、あるいは家庭でも居場所がないと思っている世のお父さん方は少なくありません。文明社会の中で溜まり切ったストレスの澱を一気にリセットするには、大自然の原始的な世界にどっぷりと浸かり、本能が剥き出しになる体験をすれば解消されるはずです。

“凡人”と“狂人”を結ぶ直線上で刺激ある企画を作れば、消費者の“本能”に刺さります。そして、ネスタリゾート神戸の『顔』のイメージが明確になることで、そのイメージがどんどん消費者の脳内に蓄積されるのです。

 ネスタリゾート神戸は、いまでは約40のアクティビティが楽しめる、グランピング施設も備えた、本能が揺さぶられるほどの大興奮が味わえる“大自然の冒険テーマパーク”です。結果、急速に入場者数も増えていき、開園1年で売上げがそれまでの3倍ぐらいになりました。直近も、今年9月の売上げが前年同月比で133%、10月は187%まで伸びています。このコロナ禍にもかかわらずです」

究極の夢は「沖縄に鉄道を敷く」こと

 森岡氏にとって、手がけるテーマパークの集大成となりそうなのが、USJ時代から構想を温めながら、在籍時には実現が叶わなかった、沖縄北部での一大テーマパークプロジェクトである。開園は2020年代中盤を想定。当地での環境アセスメントの結果次第でパーク内のアトラクションは変わってきそうだが、沖縄でのテーマパークに並々ならぬ情熱を注ぐ理由とは何なのか、聞いてみた──。

「沖縄の地には、無限大の可能性を感じています。なにせ沖縄から飛行機で3時間圏内に3億人近い人口がいます。アジア圏は富裕層もどんどん増えており、マーケットとしても物凄く大きい。

 また、3時間圏内というのも絶妙なところで、この時間を超える移動となると、敬遠する人が一気に増えてくるのです。レジャーに出かける際の時間的な分岐点が3時間。USJも、東京から行くとなると、かろうじて3時間圏内です。

 沖縄のプロジェクトは、環境アセスメントが終了してからでないと事業の全容はまだ固まりませんが、当地の豊かな森林を保全して作るテーマパークにする計画です。

 大自然での本能を揺さぶられる体験という点に照らすと、ネスタリゾート神戸に比べて、沖縄では海を越えて広域から人を呼び込まなければいけない分、ネスタよりももう少し濃い、いわば“狂人”により近い世界観を出していくことになると思います。いずれにしても、国内の方はもちろん、アジア全域から『ここは行っておかないと』と言っていただけるものを作ります。

 当地での私の究極の夢は『いつか沖縄に鉄軌道を引きたい』ということです。もともとは沖縄鉄道があり、那覇市内にはモノレールが走ってはいますが、沖縄北部と南部は鉄道が通っていません。鉄道でつなぐことができれば人や物の往来が飛躍的に高まり、沖縄北部の貧困問題解決にも資するものになると確信しています。

【プロフィール】
森岡毅(もりおか・つよし)/1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、P&G入社。ブランドマネージャーとして日本ヴィダルサスーンの黄金期を築いた後、2004年にP&G世界本社に転籍。ウエラジャパン副代表を経て2010年にUSJ入社。CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、執行役員、マーケティング本部長を経ながらUSJ再建に尽力。2017年に「株式会社 刀」を設立し、森岡流マーケティング手法“森岡メソッド”を多くの企業に移植している。著書は『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』ほか多数。12月14日に『誰もが人を動かせる!あなたの人生を変えるリーダーシップ革命』(日経BP社)を発売。

●取材・文/河野圭祐(経済ジャーナリスト)
●撮影/内海裕之

関連記事(外部サイト)