
菅義偉首相の会見について、首相の守るための官邸と記者との『裏取引』があると指摘
2020年12月15日 12時06分 NEWSポストセブン
2020年12月15日 12時06分 NEWSポストセブン
2020年12月15日 07時05分 NEWSポストセブン
12月4日の菅首相は記者の質問に対し、内容を予期していたように手元の答弁メモを読んでいたが…
12月4日、菅義偉・首相が就任以来2か月半ぶりに記者会見を開いた。今回の総理会見は臨時国会の閉会を受けて開かれる恒例のものだ。
総理会見は官邸記者クラブ(内閣記者会)が主催する。クラブに加盟する新聞社やテレビ局の記者は優先的に参加できるが、フリーの記者は官邸に登録(審査あり)したうえで、会見のたびに参加申し込みが必要だ。その中から抽選に当たってようやく出席が認められる。
ところが、官邸報道室から『記者会見ゲリラ戦記』などの著書があるフリーランスライターの畠山理仁氏によると、案内のメールが届いたのは当日の朝9時半。申し込み締め切りは午前11時半、わずか2時間前だった。
フリーの記者は内閣記者会の記者と違って官邸や国会内に常駐しているわけではない。当日、ギリギリで案内が来ても、他の取材日程を入れていることは少なくない。
案内が遅れたのは、厳しい質問が予想されるフリー記者の参加を会見から“締め出し”たかったからではないか──そう見ることもできるだろう。
菅首相にすれば、うるさ型のフリー記者の質問さえ封じ込めておけば、大メディアは怖くない。
総理会見では、官邸記者クラブの幹事社2社(加盟社の持ち回り)の記者が重要事項について3点ほど代表して質問する。その後、他の加盟社の記者が数人、次にネットや海外メディア、フリー記者などが指名され、首相と自由な質疑応答が行なわれる建前だ。
だが、12月4日の菅首相は、新聞・テレビの記者たちの質問に対し、あたかも内容を予期していたように手元に用意した答弁メモを読み続けた。なぜ、菅首相は質問内容を知っていたのか。畠山氏が語る。
「官邸報道室は幹事社以外の他の新聞・テレビの記者に対しても、『いま興味を持っていることをうかがいたい』と言って事前に質問取りに回っています。答えなくてもいいのでしょうが、そうすると会見で手を上げても指名してもらえない。だから司会の内閣広報官のもとにはあらかじめ各社の質問をまとめた資料があり、それをもとに指名していくとされています。どんな質問がなされるかわかるので、総理は用意された答弁メモを読むだけでいい。フリーの記者には事前の質問取りはありません」
官邸報道室も事実上認める言い方をした。
「幹事社の質問は事前に書面でいただく慣例になっていますが、幹事社以外に質問取りはしない。ただし、職員の普段からの活動として、記者会の方の関心事をお聞きしている。それを基に報道室で答弁書を作成することはないが、その関心事を内閣府には報告している」
これでは記者クラブの記者が事前に質問を官邸側に教え、総理を守ってやる“裏取引”ではないか。新聞・テレビの記者から菅首相の痛いところを突く厳しい質問が出るはずがない。
しかも、NHKは総理会見を総合テレビで生中継するが、前半の新聞・テレビの記者との質疑応答だけで、途中から画面がスタジオでの解説に切り替わるケースがほとんどだ。フリー記者の質問を報じないのである。
「どんな質問が出るかわからないから、官邸に配慮して全国放送しないように感じる」(畠山氏)という声があるが、NHKは、「各地域のニュースが始まる時間帯も踏まえながら総合的に判断しています。中継でお伝えしきれなかった部分については、インターネットで全てお伝えしています」(広報局)と説明した。
今回、フリー記者で質問したのは政治ジャーナリスト・安積明子氏だ。コロナで女性の自殺者数が増えていることを指摘し、菅首相に今後も会見を国会の節目でしか開かないのかを質した。安積氏の質問もNHK中継で放送されなかった。
「指名されないだろうと思っていたので、びっくりしました。会見後にクラブの記者さんから、『事前通告あったんですか』と尋ねられました。というのも、私が質問した女性の自殺については総理の答弁ファイルに入っていなかったようで、秘書官がざわめいたそうです。菅さんはメモがないからアドリブで答えたようですが、女性の自殺数についての言及はなく、質問と回答がかみ合っていませんでした」(安積氏)
国民には見えない会見の舞台裏だ。
※週刊ポスト2020年12月25日号