大前研一氏「マイナンバーカードは全く使い物にならない」

大前研一氏「マイナンバーカードは全く使い物にならない」

「マイナンバーカード」が厳しい評価にさらされる理由とは(イラスト/井川泰年)

 マイナポイントの付与など様々な策を講じているが、身の回りにカードを取得したという人がなかなか増えない印象の「マイナンバーカード」。全国民が手にする予定のはずが、なぜ遅々として進まないのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、その根本的理由を問う。

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 菅義偉首相は「行政のデジタル化」を最優先課題と位置付け、各省庁に改革推進の大号令をかけている。

 わけても菅首相が躍起となっているのがマイナンバーカードの普及だ。2015年秋の導入以来、大宣伝を繰り返してきたものの、普及率はいまだに21.8%(11月1日時点)にとどまっている。そのため、所信表明演説(10月26日)で「今後2年半のうちにほぼ全国民に行き渡ることを目指し、来年3月から保険証とマイナンバーカードの一体化を始め、運転免許証のデジタル化も進めます」と普及策を強調。来年9月に設立予定の「デジタル庁」にマイナンバー関連の業務を集約して首相直轄の組織とし、「司令塔」の役割を担わせることも公表された。

 さらに、総務省は2022年度中にマイナンバーカード機能をスマートフォンに搭載することを目指すとし、平井卓也デジタル改革担当相はマイナンバーカードのセキュリティ向上のために現在の暗証番号に加えて顔認証などの生体認証を追加する「多要素化」を検討していると報じられた。

 しかし、たとえそれらの「改革」を実行したとしても、現状のマイナンバーカードのシステムは全く使い物にならないと思う。なぜなら、そもそもデータベースとしての基本的な要素を持っていないからである。

 マイナンバーの土台は、既存の住基ネット(住民基本台帳ネットワークシステム)で、氏名・生年月日・性別・住所という住民票の4情報しか入っていない。つまり、世帯や家族、縁戚関係など個人を取り巻く親族が把握できるリレーショナルデータベースになっていないのだ。したがって、それを「マイナポータル」に集めてみたところで、世帯や家族を対象とした行政サービスには使えないのである。

 しかも、住基ネットは市区町村ごとに富士通やNEC、NTTデータなどのITゼネコンが入り込んで別々のシステムを作ってきたため、国全体で足し算ができないという根本的な欠陥がある。国民は戸籍、住民票、確定申告、扶養控除、国勢調査などの個人情報を何度も役所に登録してきたが、それらはバラバラで電子的に統合されていない。

 このため、たとえば私が消費者金融で借金をする際に、氏名の読み仮名を「オオマエケンイチ」から「オオサキケンイチ」に変えれば、信用情報の照会サービスでは「別人」と判断される。法務省は戸籍について今後データベースとして活用するため氏名に読み仮名を付けることを検討しているというが、そんなことをしても世帯や家族も含めた個人情報が全部わかるリレーショナルデータベースを作らなければ、このような問題は解決できないのだ。

 そもそも、今のマイナポータルのシステムも極めて使い勝手が悪い。たとえばスマホの場合は毎回マイナンバーカードとのすり合わせ、PCの場合はICカードリーダーによる読み込みが必要だ。また、マイナンバーカードの取得やマイナポータルへの登録には複数のパスワードを設定しなければならず、パスワードを入力する際に連続して間違えるとロックされてしまい(*)、それを解除するためには役所の窓口に足を運ばねばならない。

【*/「利用者証明用電子証明書」のパスワード(暗証番号)は数字4桁で、3回連続して間違えるとロックがかかる。また、「署名用電子証明書」のパスワードは英数字6文字以上16文字以下で、5回連続で間違えるとロックされる】

 利用者にとってあまりに不便な一方で、ハッカーからすれば生体認証より格段に破りやすい。こんなシステムを今後も温存していこうという発想自体、私には理解不能だ。

 要するに、今のマイナンバーカードのシステムに“後づけ”で機能を付加していくのではなく、新たな国民データベースをゼロから構築すべきなのである。それは基本的に一つのシステムで動かせるものだから、日本全国の市区町村でバラバラに作られたシステムを統合するよりはるかに手っ取り早いし、安上がりなものになるはずだ。

 実際、すでに中国は13億人の国民を数秒で特定できる巨大な顔認証データベースを作り上げているのだから、技術的には人口が10分の1の日本にできないわけがない。しかし、ITゼネコンにしてみれば、自分たちの“食い扶持”を減らすような提案は絶対にしないだろうし、発注者である政府が国民データベースというものを理解しない限り、永遠に実現しないだろう。

【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は『日本の論点2021〜22』(プレジデント社)。ほかに小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』等、著書多数。

※週刊ポスト2020年12月25日号

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