菅首相が「国民の誤解」と言ってのけた二階氏との「ステーキ忘年会」はGo To停止を詫びる「手打ち」だったのか

菅首相が「国民の誤解」と言ってのけた二階氏との「ステーキ忘年会」はGo To停止を詫びる「手打ち」だったのか

ステーキ会談に対する国民の批判を「誤解」と言ってのけた菅首相(時事通信フォト)

 菅義偉・首相は「勝負の3週間」で大敗を喫した。新型コロナの感染拡大が止まらず、感染者数が過去最多を更新し続けているのにGo Toキャンペーンを続け、支持率が急落すると慌てて一時停止を打ち出し、今度は自民党内で反発を招いている。「勝負」などと格好つけてみたものの、何もしなかったことのツケが回った。しかし、このツケを払うのは国民だ。ジャーナリスト・武冨薫氏が国民の命と生活を犠牲にする政権の内幕をリポートする。

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「勝負の3週間」が始まった11月25日、菅首相は国会でこう語ってGo Toキャンペーンの見直しを否定していた。

「政府の役割は国民の命と暮らしを守ることだが、暮らしを守らないと命も守れなくなる。地方のホテル、旅館、バス、タクシー、食材提供業者、土産店など全国に900万人おり、Go Toトラベルで何とか雇用を維持してきている」(衆院予算委員会集中審議)

 その後も首相は、感染症対策の国際的権威である尾身茂氏(新型コロナウイルス感染症対策分科会会長)が再三Go Toの再考を求め、中川俊男・日本医師会会長が医療崩壊の危機を訴えても、「トラベルが感染拡大の原因であるとのエビデンスは存在しない」と頑なにGo Toを中止しようとしなかった。そればかりか、コロナ対策の補正予算でGo Toトラベルの期間延長に1兆円を計上して逆にキャンペーンを拡大する方針さえ打ち出した。そんな金があるなら医療体制の充実や医療従事者への手当に回すべきだというのが大半の国民の気持ちだろう。

 ところが、「勝負の3週間」が終わる2日前の12月14日、菅首相はいきなり方針を大転換する。夕方の新型コロナウイルス感染症対策本部の会議で「年末年始の全国一斉Go To停止」を表明したのである。

 推進派が仰天したのも無理はない。この日の午後まで、菅首相はGo To停止のそぶりは全く見せていなかったのである。首相は官邸で宮坂昌之・大阪大免疫学フロンティア研究センター招聘教授と昼食をともにした。免疫学の第一人者で、「日本人はこれまで風邪のコロナに何度もかかり、交差免疫により新型コロナの感染や重症化を抑えている」という説を唱えていることで知られる。Go Toキャンペーンについても、〈過度な自粛は経済的な閉塞につながるなど弊害が少なくありません。旅行という行動自体では、コロナの感染は増えません。旅先で羽目を外すから感染を広げてしまうのです。「Go To」の実施で感染が再拡大するのは想定されていたこと。それでも感染症対策を十分行った上で、経済対策もやっていかざるを得ない〉(『週刊朝日』、12月11日号のインタビュー)と語っている人物だ。

 さらに会食後、首相はコロナ治療の最前線となっている新宿区の国立国際医療研究センターを視察。視察後の会見で分科会の尾身会長が大阪、札幌でのGo To一部停止に「ステージ3」相当の東京、名古屋を加えるように求めていることについて聞かれると、

「まだ決まっていません。ただ、分科会からは、ステージ3に相当するところには、そうしたことも必要だと提言を受けております」

 と語っただけだ。その数時間後に方針を大転換した動機は、その日発表されたNHKの世論調査で内閣支持率が42%に急落、前月から一気に14ポイントも落ち込んだことだったという。Go Toトラベルについても「いったん停止すべき」という意見が79%に達していた。官邸はこれに衝撃を受けた。

「支持率42%というのは安倍政権末期に近い数字。ハネムーン期間といわれる総理就任100日間も終わっていないのに、NHK調査でここまで下がるとは予想していなかった。このニュースで総理の周辺がにわかに慌ただしくなって、夕方の感染症対策本部の会議で重大発表するという話が官邸内に伝わって緊張した」(官邸スタッフ)

 Go To停止を発表すると、菅首相はこの日2回目の記者会見を開き、こう語った。

「今日、(新規感染者が)3000人を超えるなかにあって、年末年始というのは、集中的に対策を講じられる時期だというふうに思いました。そうした中で、Go Toトラベルを全国一旦は停止すべきであるという決断をいたしました。年末年始には、医療機関の体制も、どうしても縮小せざるを得ない、そんな状況になります。是非、国民の皆様におかれましては、年末年始、静かにお過ごしいただいて、このコロナ感染というものを何としても食い止める。そうしたことに御協力いただきたい、そういう思いのなかで自ら判断しました」

 そんな行き当たりばったりの対応だから、当然ほころびが出る。首相の“心変わり”に、今度は自民党の最高実力者で首相の後見人である二階俊博・幹事長の周辺が騒ぎ出す。

「総理は何考えているんだ」

 二階派幹部は菅首相への怒りを隠さない。少し背景の説明が必要だろう。二階氏は全国約5500社の旅行代理店を束ねる社団法人「全国旅行業協会」会長を長年務め、「観光業界のドン」と呼ばれる。2015年には国会議員や旅行業者など3000人の大訪問団を率いて訪中、2018年には観光関連団体幹部を率いてロシアを訪問するなど、インバウンドによる観光振興の旗を振ってきた。

 その二階氏と菅氏は、もともとGo Toで“盟約”を結んでいた。菅氏は安倍内閣の官房長官時代、コロナ対策の主導権を握るために二階氏と手を組み、経済再生策の切り札としたのがGo Toキャンペーンだ。当初は安倍氏が信頼を置いていた経産省がコロナ対策のとりまとめ役だったが、「持続化給付金」をめぐる丸投げ問題で批判されると、Go Toトラベルは二階氏の影響力が強い国土交通省、観光庁の所管とし、そこから菅氏と二階氏のタッグはキャンペーンを強力に推進してきた。安倍内閣の閣議決定では、Go Toなどの経済対策は「感染症の拡大が収束し、国民の不安が払拭された後」に実施する方針だったのに、感染第2波のさなかにあった7月にキャンペーンは見切り発車された。

 そして9月の自民党総裁選では、二階氏の支援を受けた菅氏が圧勝する。つまり、Go Toは菅氏にとって、「総理の椅子の代金」のようなものだったのだ。だから感染拡大を無視して続けてきたというのが政界の多数派の見方だ。だからこそ、首相の“心変わり”に二階派幹部が怒っているのだろう。こう続けた。

「二階さんは修羅場を何度もくぐり抜けてきた老練な政治家だから、菅さんの苦境はわかる。だが、年末年始のかき入れ時に全国で停止されると観光関連業者が苦境に陥るのは明らかだ。業界の救済策も決めないまま、子供みたいな稚拙なやり方でいきなり停止を発表したことで、旅行者も観光業界もパニックになった。これまで二階さんは菅さんの政治手腕を評価してきたが、今回のことで信用できなくなった。

 二階さんにとって観光業界の900万人は大事に育ててきた政治基盤だ。しかも、来年は総選挙もある。総理が観光業界の雇用と暮らしを切り捨てるということは、二階さんを切り捨てるのと同じ意味になる」

 貧すれば鈍す。菅首相はGo To停止を発表した日の夜、“関係修復”のために二階氏らとステーキ会食をしたが、政府が国民に求めている「5人以上の会食を控える」に反する多人数だったことから、さらに批判を招いて支持率は危険水域に落ちる。菅氏は会食について「国民の誤解を招いた」と語ったが、もし誤解があるとすれば、なぜ急にキャンペーンを中止したか、なぜ二階氏とステーキを食べなければならなかったか、その隠された永田町の事情についてだろう。

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