女子大生ウーバー配達員 男性客に「スクショした」と言われて

女子大生ウーバー配達員、男性客にスクショされ「怖いけど気にしたら働けない」

記事まとめ

  • 都内でウーバーイーツの配達員をしている女子学生・マヨさんに話を聞いた
  • 客のスマホに顔写真と名前が晒されるため、「スクショした」と男性客に言われたという
  • マヨさんは「怖いですけど、そんなの気にしてたら働けないですよ」と語った

女子大生ウーバー配達員 男性客に「スクショした」と言われて

女子大生ウーバー配達員 男性客に「スクショした」と言われて

フードデリバリー「ウーバーイーツ」の看板(時事通信フォト)

 この数年、景気は回復したと言われ続けたが、こと雇用に関しては信用ならないのが実情だった。2013年1月に比べて2020年1月の正規労働者は173万人増えたが、非正規労働者はさらに322万人も増加。雇用の調整弁として、あらかじめ用意された存在が増えていただけだった。新型コロナウイルスの感染拡大によって、さっそく調整されてしまった非正規労働者から、少なくない人たちがフードデリバリーの配達員に転じ、街角で大小様々な軋轢も生じさせている。俳人で著作家の日野百草氏が、雇用調整の波に巻き込まれウーバー配達員をしている女子学生についてレポートする。

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「もしかしてウーバーの取材ですか」

 年末の都内ファストフード店前、珍しく若い女性のウーバー配達員(配達パートナー)がいたので声をかけてみたらこの反応。

「地蔵はしてませんよ? 寒いし」

 何もかも見透かされてしまった。それにしても今日はとくに寒い。女性はマヨさん(仮名・20代)、おしゃれな20インチのミニベロだがウーバーの配達に使うには大変そうだ。

「うちのアパート駐輪場がいっぱいだし盗難怖いんで、部屋に入れるとなるとこれが限界なんですよー」

 語尾を伸ばして気さくに明るく笑うマヨさん、防寒で着膨れてモッコモコな上に大きなウーバーの箱を背負っている。もしかして最近始めたのでは?
 
「そうなんですよー、でもだめです。稼ぐ人はすごいと思います」

 良くも悪くも都会の風景として定着したウーバー配達員、筆者の見る限り、女性の配達員はとても少ない。

「お地蔵さんって言えば、警察がお地蔵さんたちに聞いてまわってましたよ、揉めてる人もいました」

 警察の地蔵狩りだろう。10月ごろから筆者も見かけているし、大規模なものは池袋であった。店舗前の路上で配達のリクエストが鳴るまでじっと待つ配達員、通称「ウーバー地蔵」に職務質問をして、ときには身分証の提示などを求めている。もっとも警察は地蔵だから逮捕するわけではない。目的は外国人不法滞在者のあぶり出しだ。

 2020年10月、神戸で外国人男女が出入国管理及び難民認定法違反の不法残留容疑で逮捕された。彼らは2018年9月に技能実習ビザで入国したが、ビザが切れた後も不法に日本に滞在してウーバーイーツの配達をしていたという。この逮捕、ウーバーイーツの地蔵中の逮捕で、「ウーバーイーツの人たちが路地でたむろしている」という通報による職質がきっかけだが、以後、ウーバーイーツの地蔵を職質すれば不法滞在者を芋づる式に捕まえられるとばかり、警察の地蔵狩りが頻繁に目につくようになった。

「地蔵してる人と一緒にいるのもなんだか怖いし、縄張りみたいなのもあるみたいで地蔵はしません。寒いし」

名前と顔写真が人質ですから、不安ですね

 そんな殺伐とした生存競争激しい「個人事業主」ウーバーイーツ配達員。肉体労働に従事する女性はたくさんいるし、体力的な問題というわけでもないだろう。女性の少ないことに理由はあるのだろうか。

「やっぱり顔写真じゃないですか、注文した人に見られちゃいますから、敬遠する女の子は多いかもしれません」

 かつて、ウーバーイーツが日本にそれほど浸透しなかった時期があったのは、この「顔写真」問題もあった。海外では当たり前の実名顔出し上等文化も、匿名文化の強い日本では敬遠された。それまでの日本のデリバリーはせいぜい名前だけ、顔と名前が一致したデータを客に渡すことなどまずなかった。古くからの蕎麦屋とか寿司屋の出前なんて「とりあえず電話注文を持ってくる人」というだけで、馴染みでなければ名前なんか知らないだろう。知っていたとしても『サザエさん』に登場する「三河屋のサブちゃん」(本名・三郎)程度の認識か。ピザ屋にはネームプレートを下げているデリバリースタッフがいるが、名前なんてよほどの問題が発生しなければ気にもしないだろう。しかしウーバーイーツは配達先の人のスマホに顔写真と名前がバッチリ晒される。写真は小さいし客に表示される名前はファーストネーム(先のサブちゃんなら「三郎」)だけだが、副業禁止と定めている会社が多く、身バレに神経を使う市井の日本人にとっては抵抗あるのも無理もない。

「でも指名はないんですよ、写真とか評価で選ばれないんです。面白いなと思いました」

 そう、配達員の指名はできない。あくまで自動抽選されるマッチングアプリでしかないので配達員、店、客の三者がそれぞれ評価をつけるのがせいぜいだ。この顔写真、自己紹介や趣味を入力して配達先とのコミュニケーションや会話を充実させる役割もあるそうだが、いかにもアメリカンな仕様だ。本当にこのウーバーイーツのシステム、これまでの道路交通法上の問題や雇用上の問題も含め、現時点ではつくづく日本に合っていない。「こまけぇこたぁいいんだよ」からスタートして「便利」の一点突破で普及したところはかつてのAmazonに通じるところがある。

「写真があるとお客さんが安心するんですかね、お客さんは拒否できないのに」 客は配達員の拒否ができない。つまり、ウーバーイーツはマッチングアプリとしてのアカウント停止という最終判断は下すが、それには客と店による評価の積み重ねに委ねられている。また客は配達員の拒否は出来ないが、受け取りの拒否は可能である。もちろん配達員側も客を評価機能でそれが正しかったか否かの評価はできる。

 しかしすべてはAIによる自動判断、結局のところウーバー側がマッチングアプリとして配達員に対するアカウント停止を実行しなければ単なる数字上の積み重ねでしかないし、客は評価の低い配達員でも拒否できない。これも不正にアカウントを複数、作成するなどして配達回数を増やし、お互いに融通し合うことで「成りすまし配達」していると噂される外国人グループの出現を容易にした一因と筆者は考える。

「寒いですし、完全防寒の地味な格好にしてます。なるべく変な目に遭わないように」

 変な目、とは客とのトラブルのことだ。マヨさんは数日前、「やった女の子だ」「マヨちゃん、かわいいね」「スクショしたからね」とアパートの男性客に言われたという。もちろんその男はマヨさんの写真も名前もしっかり自分のスマホに残しただろう。怖くないのか。

「怖いですけど、そんなの気にしてたら働けないですよ」

 残念ながら、そんなの気にしていたら働けないほどに、女性が働く上での性的な被害が大なり小なり起こり得るのが日本社会だ。マヨさんは友人の例も話してくれた。

 例えば、テレアポのバイトをしている友人は年中いやらしい電話が特定の男からかかってくる。その男、もはや名物男の域に達しているという。他にもバイト先の客につきまとわれたり、出待ちされたり、家までつけまわされたり。社会的なセクハラは配達員に限らず、働く若い女性、とくに接客業やそれに類する仕事の女性につきものの悩みだ。拙ルポ「ベトナム人女子留学生がバイト先のコンビニで感じた身の危険」でも言及したが、男性労働者にも悩みはあるのは当然として、若い女性の労働者にはそこに性的なハラスメントが加わる。

「名前と顔写真が人質ですから、不安ですね」

 筆者が知る別の配達員では「○○ちゃん待ってたよ」と言われた女性もいる。限定された配達エリアで競争率が低ければ、同じ客との遭遇率が高くなる。女性が客の場合も同じ配達員との遭遇率は高くなる。配達先のオフィスやピックアップ先の店と仲良くなったという話は美談だが、対個人となると不穏な噂も多い。もちろんそんなのごく一部とはいえ、人間をなんだと思っているのか。

「でもしょうがないです。バイト先がなくなって、少しでも稼がないといけないんで」

大学で困っている人は多い。中退した人もいる

 詳しい事情は話してくれなかったし筆者も深くは聞かなかったが、マヨさんが学生さんで生活のためにお金が必要なことだけはわかった。アルバイトを雇い止めされたことも。 12月22日に厚生労働省が公表したところによると、新型コロナウイルスによる雇い止めや解雇は12月18日の段階で7万7739人に及んだ。実質的には雇い止めや解雇でも、退職勧奨や表向きの自主的な退職、意図的なシフト減などによる退職などを含めると現実にはこの実数をさらに超えているであろうことは容易に想像できる。

「私の大学でも困ってる人が多いです。中退した子もいます」

 このコロナ禍の経済的疲弊は日本の学生にも容赦なく襲いかかった。文部科学省は「新型コロナウイルスにより経済的な影響を受けている学生等への緊急対応措置「−学生の”学びの支援”緊急パッケージ(令和2年12月〜)−」として支援を実施している。在学生の場合、アルバイト代の減収に対する緊急支援として10万円(非課税世帯は20万円)を支給、無利子貸与型奨学金事業も柔軟化した上で再募集している。また就職が決まらない学生にも有利子奨学金の貸与期間延長や休学中の者への有利子奨学金の継続貸与を実施、返還期限も猶予、延長としているが、現実問題として学生が学ぶため、生きるために学費と生活費を賄うには明らかに足りないだろう。またこの期に及んでも貸与であり、給付ではない。学生も借金漬けにするのが日本の文教政策だ。

「教えるの好きだし先生になりたいから塾の個別に戻りたいんですけど、あれはまったくお金にはなりませんからね。いま社員さんも余ってるから学生講師なんかいらないんです」

 なるほど、マヨさんは塾講師の経験があるのか。でも彼女の言う通り、コロナ禍の統廃合で社員講師やプロ契約の講師すら切られているのが現状だ。まして集団授業でなく学生さんの個別講師では、何コマか入れたとしてもまともな収入にはならないだろう。

「だから短期の派遣とかウーバーでしのいで、来年には新しいアルバイトを見つけます」

 そう言って微笑むマヨさんと別れた。この経験はきっと教師になったときに生かされるだろう。それまでに忌々しいコロナ禍が消え失せてくれていたらと願わずにはいられない。氷河期世代は我々だけでたくさんだ。

 総務省の労働力調査では2020年7月の女性雇用者数は前年同月比で81万人(!)減った。小売や外食の非正規従事者が多く、接客、対人系のエッセンシャルワークが大半という就業形態に直撃した形だ。12月25日発表の11月労働力調査でも非正規雇用全体で62万人が減ったが、そのうち女性は37万人と、依然として女性の減少幅が大きい。女性の一人暮らしやシングルマザーなどの世帯主はもちろんだが、日本の女性非正規の多くは夫の家計を補填するために就業している。つまり女性非正規の減少は一般家庭の収入減にも直結している。マヨさんの家はどうか知らないが、息子や娘の学費のためにパートに出ている母親だって多い。そもそも同調査では就業者数そのものが55万人減で、8ヶ月も減少が続いていると分析されている(!)。もはや2021年以降の雇用なんて誰にも約束されていない。

 マヨさんのことを「学生なんか親掛かりだしどうでもいい」と思う向きもあるだろうが、そんなコロナ禍に疲弊した市井の意見がどんな業種、どんな雇用形態に対しても露呈している。「公務員だからどうでもいい」「年金者なんかどうでもいい」「正社員だからどうでもいい」「非正規なんかどうでもいい」――。いよいよ第三波にまみれた日本、コロナ元年を越したこの2021年、命をとるか経済をとるかの選択に、「誰を助けるか」の選別が加わろうとしている。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。寄草『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)、著書『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)など。

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