日本中が絶望にある今の状況を「歓迎」する人の声

新型コロナウイルスで日本中が絶望にある状況を喜ぶ人も 「すごく心地よかった」

記事まとめ

  • 新型コロナウイルスが社会に暗い影を落としているが、これを「歓迎」する人もいるよう
  • 清掃会社で働く47歳は、これまで「絶望しかありませんでした」と語った
  • コロナで自分以外の人たちが一斉に不幸になっている様子が「心地よかった」と話した

日本中が絶望にある今の状況を「歓迎」する人の声

日本中が絶望にある今の状況を「歓迎」する人の声

緊急事態宣言を受け、首都圏在来線の終電繰り上げ。仕事や生活が大きな影響を受けている(時事通信フォト)

 他人の不幸は蜜の味、とはよく言うが、この新型コロナウイルスによって仕事、生活、人生、ひいては社会が予想しない方向へ向かおうとしていることを、大歓迎で楽しいとさえ感じる人たちがいる。ライターの森鷹久氏が、なぜ彼らが「喜び」を感じているのか聞いた。

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 新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、全国の失業者が8万人を超えたことが厚生労働省の発表で分かった。この数は、今後も増大する可能性が高く、コロナに感染するかもしれないという恐怖以上に、社会に暗い影を落としている。

 しかし、日本国中が絶望にある今の状況を「歓迎」するという人々もいる。

「幸せだった人、順風満帆の人生を送ってきた人たちが、コロナで辛い目にあっているという姿を見るのが、正直快感というか。これまで頑張ってきた人達が苦しみ、頑張ってもどうにもならず、頑張ることを辞めた私は、以前と変わらない生活を続けられている。みんなはマイナスだが、私は現状維持。その差こそ、初めて感じた『喜び』です」

 埼玉県在住の小川栄吾さん(仮名・47歳)は、就職氷河期ど真ん中に大学を卒業。第一志望だった保険会社、商社の採用からはことごとく漏れ、現場作業員などのアルバイトを経て、知人の紹介で全く希望していなかった清掃会社に入社したという経歴を持つ。

「都内の大きなビルに常駐し、ひたすら館内の清掃を行います。自分と同じくらいの年齢のサラリーマンが、ビシッとスーツ姿で、かわいい女性社員を引き連れて歩いていたり、商業施設で買い物をする若者を見ていると……俺は何なんだって、絶望しかありませんでしたよ」(小川さん)

 就職に失敗し、30代を過ぎてもまともな仕事にすら就けない友人と比較すれば自分はマシだと思えた。だが、いつまでも「自信」を持てない小川さんは、仕事のことを聞かれるのが嫌で、友人との飲み会や会合からも足が遠ざかった。当然、出会いといえる機会もほとんどなくなった。

「職場ではそれなりに昇進し、清掃作業監督者などの資格も取得しましたが、長くいればいるほど、この業界から足を洗えないし、潰しが利かなくなる。かといって転職しようにもその気力はない。そんな感じでズルズルきました」(小川さん)

 コロナ騒動直前の一昨年頃には、多忙ではあるが先の見えない仕事と、自身の将来を悲観し続けたことで精神的にダウンした。別に住む場所や食べ物に困っているわけではなかったが、周囲と比較した時、結婚もしておらず子供もいない自分がひどく惨めに思えたのである。

「同級生は、すでに課長になっているような年代。私も会社では部下をまとめる立場でしたが、将来性が圧倒的にない。世の中が好景気だろうが不景気だろうが仕事の増減もなく、私のように家庭もなく、中途半端な年齢の社員はリストラの対象だとも言われていて、鬱状態に陥りました」(小川さん)

 ところが、世の中がコロナ禍に見舞われると、小川さんの心境は一転。心のモヤモヤが晴れたという。どういうことか。

「飲食店を何件も経営していた友人が会社を潰したり、一流大学を出て一流会社に勤めていた同級生がSNSにコロナを悲観する書き込みをしていたりしました。それまで、SNSも友人の自慢話ばかりで見てもいいことはありませんでしたが、彼らが苦しいと訴える書き込みを見ると安心できました。ニュースもコロナコロナ、失業者が増えた自殺が増えたという報道を見て、自分以外の人たちが一斉に不幸になっている様子が、すごく心地よかった」(小川さん)

 大手企業や商業施設が軒並み休業に追い込まれる中でも、小川さんの仕事が減ることはほとんどなかった。

「将来、何か大きく開ける希望はないですが、絶対に無くならない仕事だと気がつきました。2回目の緊急事態宣言で、いよいよ会社の経営が傾きそうだ、なんて言っている同級生を見ると、この状態がずっと続いてほしいとすら思います。努力しても夢は叶わず、努力しなければ世の中は自分より高いところに上がっていく。ここにきて、世の中が勝手に自分の方に落ちてきたというか。『グレート・リセット』ではないでしょうか」(小川さん)

 持続性がある社会を目指して、もっと公平な未来を目指して現状を見直す「グレート・リセット」が、2021年世界経済フォーラムの年次総会、ダボス会議のテーマだ。そのテーマには、企業は株主のためだけでなく、社会も含めたあらゆる利害関係者のために活動すべきという考え方の転換も含まれているのだが、小川さんが言わんとするのはいわゆる「ガラガラポン」の意味での「リセット」。頑張った人もそうでない人も、全てが「一からやり直し」の状態になることを歓迎し、より自分が卑屈にならずにいられる世界を待ち望んでいるのである。 もう一人、元は中堅証券会社の敏腕営業マンだったという千葉県在住の・細田守さん(仮名・40代)も、コロナ禍に喘ぐ世間を見て、心を落ち着けている一人。だが、小川さんとは少し理由が異なる。

「証券マンの仕事にも最初はやりがいを感じていましたが、2009年ごろの不況をきっかけに、疑問が湧き出しました。売れないから、お年寄りなどを狙って訪問営業に行く、怪しそうな提案を、ほとんど押し売りに近い形で売りつけるような営業が横行。国をあげて、庶民に投資が呼びかけられていましたが、損するパターンがほとんど。金持ちでなければ買えないような安定した物件は、高過ぎて庶民は買えない。金持ちだけがもっと金持ちになっていく、貧乏人の資産は吸い上げられ続ける図式を知っていて、儲からないと分かっている商品を売り続ける私たちの仕事は詐欺まがいではないかと感じるようになりました」(細田さん)

 入社から約10年で会社をやめると、5年ほど前から専業投資家に。それまでやっていた投資信託に加えて、デイトレードやFXによって生計を立てるようになった。コロナ禍に陥ると、所有していた株は一時的に値を下げたが、その後大手企業株を中心に株価は右肩上がりに回復。社会が機能不全に陥っているにも関わらず、実態のない期待値だけが蔓り、金が金を呼びこむ仕組みがあるため世界の富裕層はますます豊かになっており、金にまつわる理不尽を世間が目の当たりにしている。

「会社にいたときに感じていた違和感が、コロナでより鮮明になりました。コロナで死にそうな人がいる一方で、濡れ手に粟と資産を増やし続けている人がいる。人の健康よりも感情よりも、やっぱりお金。金が全て。コロナに喘ぐ中堅企業などの株は下がっていますが、大手の株は上がり続けている。私も資産を増やしています。こんなにわかりやすい構図はない。社会の分断を感じますが、儲けて勝ち組の側にいれば、不幸な人たちのことを考える必要はない。永遠にコロナ禍が続くわけではありませんが、世間がパンクする寸前までは続いてほしいなと」(細田さん)

「自分は歪んでいる」と自認はしているが、偽らざる「喜び」を語ってくれた二人。不幸や分断が続けば、二人を支える環境も土台から崩れ去る危険性はあるが、今はそこまで考えられない、とも口を揃える。他人の不幸を自身の喜びに変換すること自体、不健全であることには変わりなく、こういった人々が多数を占めてしまえば、人間社会はあっという間に先詰まりなのだ。

 コロナ禍においては、厳しい環境を生き抜くためから、二人のように「冷笑的」な生き方を選ばざるを得ないという人々も増加しているように感じる。これは「リセット」などではなく、ただただ加速を続けている「分断」そのものだ。コロナ後の世界は明るいと信じて止まない人も多いが、そこに待っているのは「分断」という結末なのかもしれない。

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