止められない「会食したがる政治家」 脳科学者らが分析したその理由
2021年02月18日 07時05分 NEWSポストセブン

「8人ステーキ会食」をした自民党の二階幹事長(時事通信フォト)
何度ダメ出しされても政治家が会食をやめない。新型コロナの第3波が到来しつつあった昨年12月中旬、菅義偉首相(72才)と自民党の二階俊博幹事長(82才)が「8人ステーキ会食」を楽しみ、緊急事態宣言が出た1月8日以降も石破茂氏(64才)の「9人ふぐ会食」、松本純氏(70才)らの「3人銀座クラブ会食」が続いた。さらには2月17日、白須賀貴樹氏(45才)も「高級ラウンジ通い」が明らかになり、自民党を離党した。
批判された二階幹事長は、こう堂々と反論した。
「会食目的ではなく、意見交換が目的。全く無駄なことをしているわけではない」
「会食も仕事だから黙ってろ」と言わんばかりの言いぐさに、世間の怒りが爆発した。
「ウチの夫も二階さんと同じことを言うけど、なんでお酒を飲みながらご飯を食べることが仕事なの?」(50代主婦)
「じゃあ、毎日朝から会社に行って昼間は何やってるのよ!」(40代パート)
どうしても会食したがる人たちがサッパリ理解できない、という声が多い。
「人間にとって会食は栄養補給だけでなく、コミュニケーションの手段でもあります。それは人類の進化と深くかかわっているんです」
そう指摘するのは、国立民族学博物館名誉教授の石毛直道さんだ。
「成長した動物は子に食事を与える場合を除き、基本的に個体単位で食事を探して摂取します。しかし、人間だけは違う。人間は2足歩行を始めた数百万年前から、誰かと一緒に食事をしてきました。
人間にとって家族や友人、職場の仲間などと会食することは、集団への帰属意識の確認や、相手との絆を深める本能的な行動なのです。昔から『同じ釜の飯を食った仲間』というのは、そうした本能を端的に表しています」
コミュニケーションをより円滑にするために人間が発明した手段──それが「お酒」である。
「昔から、お酒は“飲むと気持ちのよいもの”です。お酒を飲んでほろ酔いになると普段無口な人でも気軽に話ができるようになり、コミュニケーションが円滑になって集団の絆が深まります。
日本には同じ杯を回し飲みする風習がありますが、世界でも乾杯して一斉に杯をあおる文化が幅広くみられる。食事と酒をともにすることで親しさが生み出されることは、世界共通の行為です」(石毛さん)
紀元前1万年頃の人類史上最古とされるトルコの大規模遺跡「ギョベクリ・テペ」。そこで酒造に使用したと思われる巨大な石器が発掘された。巨大な神殿をつくる際、働き手が一致団結するために酒宴を催していたと考えられる。
また紀元前のエジプトには、「食べる、飲む、話す」などを一文字で表す象形文字が存在した。当時から、人間にとって「食事と酒と会話」はワンセットだった。原初の時代、人類はすでに“会食をしたがって”いたようだ。
それから長い時間を経た現代はストレス過多時代。アルコールがさらに重宝されるようになったのもうなずける。
80才を超えて脳が硬直化
今度は脳機能の観点から探ってみよう。脳科学者の塩田久嗣さんの話。
「アルコールが回ると脳の理性を司る前頭葉の働きが抑制されて、言動が感情的になります。人間は昼間の生活や仕事においてはさまざまな制約があり、なるべく感情を出さないようにしますが、夜の会食でお酒が入ると『本音』が出やすくなるのです。
現代はストレスが多い時代ですが、人間は言いたいことを言うとストレスが発散され、その結果、脳内の報酬系と呼ばれる部位が活性化して気持ちよくなります。するとその気持ちよさを求めて、飲み会に行くようになります」
そうした行為が長期間続くと、本気で会食をやめられなくなる。
「ある行為を長く続けると、脳内の帯状回という部分が活性化されて、その行為を反復することが習慣になります。例えば会食で帯状回が活性化するようになると、その習慣を自ら変えることが難しくなる。薬物依存やアルコール依存と同じです。強制的にやめさせれば脳の働き方が変わりますが、やろうと思えばやれる状況で会食をがまんすることはかなり困難です。
しかもその習慣が何十年も続くと、脳の構造が習慣に合わせて硬直化されていきます。二階さんのように80才を超えたかたが長年の習慣を変えることはほぼ不可能だと思われます」(塩田さん)
東京大学ゲノム人類学研究室教授の太田博樹さんは、政治家の会食について、「時代感覚のなさが要因では」と語る。
「日本人を含む東アジアの人類集団にはお酒に弱い遺伝子タイプが一定程度存在します。にもかかわらず、日本人男性が夜の会食を好むのは、文化的な習慣の影響と考えられます。特にデジタル化が遅れると、オンラインでやるような仕事も会食を伴わないとできないケースも出てくるでしょう。政治家が会食するのは政治の世界のデジタル化が遅れているからであり、お酒の責任にしたら、お酒がかわいそうです」
確かに「会食も仕事」と口にする若い世代はあまり見なくなった。
男性はお酒なしでは打ち解けられない
二階幹事長や松本氏の行動には多くの女性が嫌悪感を抱いた。そうした男女差はどこから生じるのだろうか。「その理由も脳の機能から説明できます」と指摘するのは塩田さん。
「『女性脳』はコミュニケーションを司る部位が大きく、女性は日常生活でも常にコミュニケーションを図っているのでストレスが軽減されて、孤独感が少ない。
一方の『男性脳』はコミュニケーションを司る部位が女性より小さく、日常生活でストレスを解消できず、お酒を飲みながらのコミュニケーションを求めます。逆に言えば、お酒で理性のストッパーを外さないと他者とコミュニケーションできない男性が多い」(塩田さん)
一般的に男女が属する社会の構造が違うことも、男女差を生む要因の1つだという。
「日本の男性は幼い頃から寡黙に育つことが多いうえ、サラリーマンは社内ではなるべく私語をしないなど暗黙のルールがあり、本心をさらして語り合うのは飲み会だけというケースが目立ちます。
一方の女性は少女期から友達同士でおしゃべりをたくさんして、仲間内でうわさ話や悪口なども本音で言い合います。中高年になっても井戸端会議などで本音を話す習慣がついているので、自然とストレスを発散できます」(塩田さん)
コミュニケーション手段も女性の方が豊富だ。
「女性は長電話やSNSなどで会話を楽しむことができ、男性よりコミュニケーションツールが圧倒的に豊富です。そのためコミュニケーション不足によるストレスが少なく、会食する場合も夜ではなく、昼間のランチで間に合うのです」(塩田さん)
実際、会食と幸福度の関係を調べた英オックスフォード大学の研究では、初対面の人と会うとき、男性が夜の食事を好むのに対して、女性はランチを好む傾向が強かった。
「男性は社会的活動にかかわることが多いので、会議や商談などで一緒になった人との親しさを強調する手段として飲酒を伴う会食に頼る傾向があります」(石毛さん)
要するに、男は夜の会食抜きでは何もできないというわけか。会食は本当に本能でやめられないのか──いま、人類の“進化”が問われているのかもしれない。
※女性セブン2021年3月4日号