「医療従事者としての誇りを持て」と叱咤され続けた看護師の疑心暗鬼

新型コロナで、実際の医療現場はすでに「医療崩壊」 コロナ病棟で働く看護師が告白

記事まとめ

  • 「医療崩壊の可能性」が叫ばれて久しいが、現場からは、すでに「崩壊している」との声
  • ある看護師は、「医療従事者の誇りを持て」と事あるごとに院長から言われたという
  • 濃厚接触者となったが、病院は、休むことを認めてくれなかったそう

「医療従事者としての誇りを持て」と叱咤され続けた看護師の疑心暗鬼

「医療従事者としての誇りを持て」と叱咤され続けた看護師の疑心暗鬼

「大阪コロナ重症センター」で研修する看護師ら(イメージ、時事通信フォト)

 パンデミック(世界的大流行)から約一年が過ぎようといういま、新型コロナウイルスの治療に携わる人々をめぐる状況は現在、どうなっているのか。2020年の緊急事態宣言時には、皆で医療従事者へ感謝の気持ちをあらわそうという気運が高まり支援への関心も高かったが、2度目の今、対策はすすんでいるのか。ライターの森鷹久氏が、医療従事者の誇りと重圧に押しつぶされそうになっている現場の声をレポートする。

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 新型コロナウイルスの感染拡大による「医療崩壊の可能性」が叫ばれて久しい。だが、実際の医療現場で働く人たちの多くが、すでに「崩壊している」と感じているのが実情だ。にも関わらず、「医療従事者なのだから」という自負と周囲からのプレッシャーに挟まれ、危険な現場から身動きがとれず、感染しながらも働かざるを得ないという関係者が少なくない。

「昨年、旭川の病院でクラスターが発生した時、マスコミも国も大騒ぎしましたよね。その後、収束したそうですが、地方の病院では今、同じようなことが起きているのに誰も見向きもしてくれません」

 こう話すのは、西日本にある総合病院勤務の看護師・横田麻里さん(仮名・30代)。外科病棟に勤務していたが、病院がコロナ患者を受け入れ始めたところ、院内でクラスターが発生。看護師不足に陥り、感染症対策の知識が浅い横田さんも「コロナ病棟」に半ば無理矢理異動させられた。

「病院なので、それなりの感染対策は取っていたと思います。しかし、昨年の秋頃からコロナ患者数が急増し、入院患者にも重症者が目立ち始めると、急に目が回るような忙しさになりました。休みは週一、日勤だと朝7時から夜の9時まで病院にいて、食事も取れない。みんな疲弊し、少し体調が悪くとも出勤しないといけない、そんな空気だったんです」(横田さん)

 病院長は事あるごとに「医療従事者の誇りを持て」と、若い医師や看護師たちにはっぱをかけたが、この重圧が悲劇を招く。

「熱があるのに言い出せないまま出勤していた看護師から感染者が出ました。そして、この看護師からと思われるクラスターが病院内で発生し、病院としての機能が麻痺してしまったんです。私も濃厚接触者となり検査を受けましたが陰性、それでも念のために勤務は控えてほしいと保健所や自治体から言われました。でも病院は、休むことを認めてくれなかった」(横田さん)

 院内では、スタッフだけで10人以上の感染が発覚。コロナ病棟以外に勤務する看護師の感染も認められ、病院全体がコロナの脅威に晒されていたはずだったという。だが、感染者数が10名以上であるのに対し、濃厚接触者とされたのは、横田さんを含む数名の看護師と、同じく数名の医師のみ。横田さんには小さな子供もいて、検査後3日間だけ自宅での経過観察を許されたが、すぐに現場に引き戻された。

「院長直々に『情けなくないのか』と叱られ、看護師の上司からは『貰うもん(給料)もらってるんだから』とやはり嫌味を言われました。感染したスタッフには、減給を匂わせたり、無給の休暇をとるよう強いられたという人もいます。数人はそのまま辞めましたが、残った元感染者のスタッフは、検査結果が陰性になると即、現場に戻りました」(横田さん)

 同僚に聞いたところによると、クラスターが発生して以降も、病院内の数カ所を業者が消毒しただけで、それ以外は通常通りに運営されていたという。ただ、その時点で従事できるスタッフは全体の半分ほどまでに減っていた。残ったスタッフたちは近くの民宿に宿泊するなどし、休みはほぼなし、睡眠時間が1日3時間ほどという過酷な状況下で働き、なんとか「病院崩壊」させぬよう、乗り切ったのだという。

「院長はこれを美談にして、あちこち触れ回っていますが、実態は全然違います。元々、感染症に特化した病院でもないのに、年末から年明けに続々と患者を受け入れるようになった理由は『補助金』のためではないか、スタッフ全員がそう思っています」(横田さん)

 二度目の緊急事態宣言以降、コロナ患者を受け入れた病院には、重症者病床一床あたり1都3県なら最大1950万円、コロナ感染者病床一床あたり900万円。それ以外の道府県でも最大1800万円と750万円が支給されると厚労省が発表している。この額は年末にも増額が発表されていたが、さらに増やされた。医療関係者がかねてより政府に訴えていた「医療従事者への支援」の一環である。

「院長や夫人、経営者たちは、今いる看護師にわずか十数万円の一時金だけ握らせて、倒れるまで働かせようとしている。実際にはやめていく人もいて人不足のため、こっそりコロナ患者のいない病院の看護師の引き抜きも行っています。私の看護学校時代の同級生は、夏までの契約で、私たちの倍以上の給料を提示されたと話しています」(横田さん)

 病院を維持するためには人件費以外にもお金がかかるものだし、コロナ対応のために収支のバランスが狂ったであろうことも理解している。だが、同期に持ちかけられた好待遇の内容を聞いて、病院の首脳陣たちを疑いたくなるのは無理もない話だろう。

 もし、経営陣が働く人たちのことを後回しにしているのだとしたら。医療従事者への支援のはずなのに、この支援金を目的にコロナ患者を次々受け入れてしまえば、本末転倒な結果になることは明らかだ。医療支援と言いながら多額の税金を捻出したところで、現場の最前線で働く人々に恩恵がもたらされないのであれば、なんの意味もない。貧困の独裁国に多額の援助をしたところ、困窮に喘ぐ国民には行き届かず、独裁者とその周囲だけが潤っただけ、といった例と同じだろう。病院ももちろん「経営」が大事ではあるが「人は石垣」というように、いくら立派な見かけの病院でも、そこから人がいなくなっては成り立たない。

 当然、横田さんが勤務するような病院は多くないだろうし、そう願いたい。だが、こうした声がある以上、政府や自治体も、今一度積極的に現場を調査し、医療従事者の直接的なバックアップを図って欲しい。病院も金銭的、人員的に逼迫している状況ではあると思うが、一時の延命のために、日本の宝である医療従事者を失うことも許されないのだ。

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