地震発生時のTVカメラマンにネット民が賞賛 同業者たちの弁

地震発生時のTVカメラマンにネット民が賞賛 同業者たちの弁

業務用のENGカメラは本体が約4キロ、バッテリーなども含めると約8キロほどのものが多い(イメージ)

 ネット民に人気が高い仕事っぷりというのは、どこか職人肌を感じさせるものが多い。その琴線に触れたのか、地震発生時の放送局カメラマンの動きが、大きな賞賛を集めた。ネットではとかく嫌われがちなマスコミだが、その業務は職人的な事柄の積み重ねと、仕事そのものへの矜持によって支えられている。ライターの森鷹久氏が、ネット受けが悪いと自覚する彼らが抱いた密かな喜びと誇りについて、レポートする。

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 2月20日深夜、福島県沖を震源とするマグニチュード7.3の地震が発生。福島県浜通りや宮城県南部では震度6強の激しい揺れを観測するなど、東日本大震災から間も無く10年というタイミングの地震に、被災地域の人だけでなく日本国民の多くの脳裏に「悪夢」がよぎったはずだ。

 そんな中、近頃はネット上を中心に「嫌われっぱなし」なあの人たちを賞賛するSNS上の情報が、とあるサイトにまとめられ話題になっていた。在京テレビ局の現役カメラマンが思わず口元を緩ませた。

「宮城県のとあるテレビ局の報道フロアの地震時の様子が、テレビで繰り返し報じられました。そこには地震が起きた瞬間、カメラマンと思しき人がダッシュで部屋を出て行ったかと思うと、すぐにENG(業務用カメラ)を担いで戻ってきたところが映っていた。正直、報道の人間にとってはごく普通のことですが、プロ魂を感じると、みなさんに賞賛してもらえたのは嬉しかったです」(在京キー局カメラマン)

 テレビ局、特に報道となると「マスゴミなんか信じられない」「偏向報道をするな」と猛烈なバッシングを受けることが多くなっている。先のカメラマンは、街でカメラを構えていたところ「コロナを煽る報道をするな」と、通行人から唾を吐きかけられたこともあるほど。だからこそ、ネットで見かけた久々のポジティブな反応を見て、素直に嬉しさを感じたという。

 あの地震が起きたとき、報道に携わる人たちは、いったいどんな夜を過ごしていたのか。民放テレビ局の男性記者(30代)は、あの夜はすっかりリラックスしており、あとは寝るだけのはずだった。

「今回の地震が起きた時、家で風呂上がりにビールを飲んでいたところでした。グラッと揺れが来た瞬間、緊急地震速報と同じ速さで上司から電話があり『来れるか?』でした。濡れ髪もそのまま、まだ酔っ払ったままスーツに着替え、タクシーで出社しました」(民放局の男性記者)

 子供と妻と遊園地に出かけていた時も、大きな事件が起こり、妻子を残し、一人現場に駆けつけことがあった。寝ていようが酔っ払っていようが、遊んでいようが、仕事となれば急にスイッチが入るのだ。肉体的にキツくないか? という筆者の率直な質問には、さらりと次のように答える。

「人より好奇心が強いところがあるから、この仕事を志望したところもあるので、事件事故災害のときに、まったく野次馬な気持ちがないとは言いません。そういう意味では、人の不幸で飯を食っている、と非難されるのもわかります。でも、仕事としてこういった事柄に接するとき、実際には人の不幸を喜んでいるのではなく、大変な事が起きている現場、理不尽に巻き込まれた人々のことを、しっかり伝える時が来たと集中力が高まるのが自分でも分かるんです」(民放局の男性記者)

 この民放記者、実は局の正社員ではなく、局関連の制作会社のスタッフ。だから、肩を並べて働く正社員記者に比べれば、年収はおよそ半分。決して高給取りではなく、選ばれた人間として世間を高いところから見物をしているわけでもない。仕事について持っている誇りや責任感から、働いているのだ。

 とにかく報道の現場は激務だ。自分たちの都合でスケジュールが組めるものではないので、生活の時間も不規則になりやすい。毎日、人を訪ね、話を聞き、それをまとめることの繰り返しのため、仕事のほとんどは地味で単調にさえ感じることもある。そのため、記者やカメラマンに憧れてテレビ局に就職したものの、現場のキツさに心が折れ、去っていく人間の方が多いことでも知られる。それでもなお、報道にこだわる人たちは、真実を知ってそれを伝えたいという純粋な気持ちが強いからだ。そう話すのは、大手紙の社会部女性記者。

「東日本大震災で福島第一原発の水蒸気爆発が起きた時、被災地に行きたがらなかったり、東京本社から西に逃げた記者もいました。中にはその後、何食わぬ顔で会社に戻った人もいて、うわべでは普通に接していますが、本音では軽蔑しています。確かに、動物として危険から逃げることは正しいかもしれませんが、報道に携わるものとしては失格じゃないでしょうか。危険が迫ったとしても感情的になるのではなく、その危険について正確に伝え、正しく怖れるための情報を伝え続けるのが、私たちの仕事だと思っています」(大手紙社会部記者)

 この女性記者も、冒頭のカメラマンが褒められているネット民たちの声をスマホで見たらしく、そのことを思い出すと「嬉しい」と笑顔を見せた。しかし、すぐに背筋を伸ばし、現実に広がるシビアな「今」について、考えていることを吐露する。「マスコミが叩かれているのも嫌われているのもわかるし、右だ左だと世論が騒がしくなり分断が深まり、ジャーナリズムが成立しづらくなってきているという危機感もあります。我が社もネット上では『政治的に〇〇だ』と言われ叩かれています。たとえどんな思想であっても、報道に携わる人間なら、取材記者でも整理記者でもカメラマンでも、この世の中が少しでも良くなってほしい、自分も含めた全員が生きやすい世の中になってほしいと少しは思い、そのために仕事で貢献したいと願っているはずです」(大手紙女性記者)

 女性記者は言い終わると「上級国民が何言ってんだって嫌われますかね」と下を向くが、人にニュースを伝えたい気持ちがある限り、この女性記者は報道の仕事を続けるだろう。

「ネットにこそ正しい情報がある」と言われ、マスコミの流す情報が信じられないと感じる人も増えた。一方で「ネットde真実」などと揶揄されるように、今なお「一次情報」のほとんどは大手既存メディアから発信されているという仕組みは変わっていないし、今後もしばらくは変わりそうにない。マスコミは信じられない、と思うのは仕方がない。しかし、報道に携わる職人として、日々、その技術を磨いている人たちの努力の成果をないがしろにはできないだろう。

 そこで、あの地震が起きたときの動画に映るカメラマンについて、嬉しそうに説明してくれた在京テレビ局の現役カメラマンが言った言葉の先を続けよう。ネットで賞賛されたことは同業として嬉しいけれど、一言、言いたいことがあるらしい。

「(報道)カメラマンなら誰もが同じことを感じていたはずですが、まずカメラが手元にないというのがあり得ません。東日本大震災以降は、カメラマンの待機場所には必ずカメラを置いています。だから、揺れたらすぐにカメラを手にして構えて撮る。また、ヘルメットも被っていない。被災地域はもちろん、今は全国のテレビ局で毎年地震訓練をやっているのに、まだまだですね」

 たとえ褒められても、もっとより良い方法があったのではないかと点検し、反省して次へ生かす。正確な情報を多くの人に伝えるための技術を磨く努力を重ねている人たちは、ネットで嫌われている世界にも数多くいて、そのおかげで私たちは一次情報からのニュースを得られるのだということは忘れないでおきたい。

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