総務官僚の「接待問題」に学ぶ、都合の悪い追及を受けたときのトボケ方

総務官僚の「接待問題」に学ぶ、都合の悪い追及を受けたときのトボケ方

衆院総務委員会で答弁する参考人の山田真貴子内閣広報官(時事通信フォト)

 嘆息したり愚痴ったり批判するだけではもったいない。学びはどんな状況にもある。日々大人力について研究するコラムニストの石原壮一郎氏が考察した。

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 ほとんどの人は、7万円を超える食事をおごってもらえる可能性はありません。おごる機会もないでしょう。しかし、ほとんどの人はただ酒が大好きです。そして、ただ酒を飲ませた相手には、何らかの「見返り」を求めずにはいられません。

 このところ、菅義偉首相の長男が深くかかわっているとされる「接待問題」が、世の中や国会を揺るがしています。首相を含めて当事者の言い訳を聞いていると、呆れるやら情けないやらですが、腹を立てても腹はふくらみません。せっかくなので、今後の人生に何か役に立ちそうな要素を探ってみましょう。

 まぶしいほどにスポットが当たっている山田真貴子内閣広報官や、絵に描いたようなトカゲのしっぽ扱いをされている総務官僚のみなさん、そして前に出てきて説明するのが苦手な恥ずかしがり屋さんの菅首相は、さすが高い社会的地位にいらっしゃるだけあって、私たちに大事なことを教えてくれています。

 それは「都合の悪い追及を受けたときに、どうトボケればいいか」というノウハウ。高額な接待を受ける心配はないにせよ、利害関係者に居酒屋でおごってもらったり、友人の会社に便宜をはかったりなど、誰しも「大きな声では言えない行為」をしてしまう可能性はあります。「不適切な関係」を配偶者に責められる事態だって、ないとは言い切れません。

「接待問題」が教えてくれたのは、動かぬ証拠が出てくるまでは「記憶にない」と言い張れ、ということ。そして、証拠が出てきてからも、一気にすべてを認める必要はありません。「音声は自分かもしれないけど、突っ込んだ仕事の話はしていない」「菅首相の息子がいた気もするけど、よく覚えていない」など、トボケられる部分はあくまでトボケます。

 厳しい追及を受けたとしても、そこでひるんで白旗を上げてしまうようではまだまだ素人(何の?)。一ミリでも自分の罪が軽くなるように、言葉を慎重に選びます。今回の件で「これは、いつか使えるかも」と思わせてくれたのは、次の5つのフレーズ。

その1「今となっては あったのだろうと受け止めております」(総務省・秋本芳徳情報流通行政局長=当時)
その2「完全に別人格ですからね」(菅義偉首相)
その3「私の長男が関係して、結果として公務員倫理法に違反する行為をすることになった。このことについては心からおわび申し上げたいへん申し訳なく思います」(菅義偉首相)
その4「それは本当に心の緩みでございまして」(山田真貴子内閣広報官)
その5「自分の身を省みて、できる限り自らを改善していきたい」(山田真貴子内閣広報官)

 その1は、それまで「記憶にない」とトボケていたけど、証拠が出てきて認めざるを得なくなった場面での発言。微妙に人ごとっぽい言い方をすることで、ウソをついていたこととの整合性を必死で取ろうとしています。

 その2は、この件が報道され始めた頃の菅首相のスタンス。たしかに通常は、息子がしでかしたことで親が責められる筋合いはありません。しかし、息子がかつて総務省にいたり東北新社で働いたりしていることは、明らかに菅首相と深い関わりがあります。

 観念したのか、菅首相は途中からその3のスタンスに変更しました。「結果として」や「このことについては」という余分なひと言(省略しても意味は同じです)を入れずにいられないところに、本当は謝りたくなんてないという心情がにじみ出ています。

 その4は、なぜおごられたのかを聞かれたときの回答。仮に「その分、相手にメリットがあるんだから、おごってもらって当然でしょ」と思っていたとしても、「心の緩み」のせいにしてしまえば、どす黒い構図やセコイ気持ちを隠すことができます。

 その後、進退について聞かれたものの、その5のフレーズで辞める気はないことを表現しました。抽象的な言葉が並ぶばかりで、具体的に何をどうするかはわかりません。ということは、とくに何もしなくてもウソにはならないことになります。

 さあ、いざ自分がピンチに追い込まれた場面では、こうしたフレーズを積極的に繰り出しましょう。社長に「お前、本当にリベートなんて受け取ったのか。なんでそんなことしたんだ!」と責められたら、「今となっては あったのだろうと受け止めております」や「それは本当に心の緩みでございまして」と返せばたぶん大丈夫。

 配偶者に不貞行為がバレたときは、「結果としてそういう行為をすることになりました。このことについてはたいへん申し訳なく思います」と謝りましょう。勇気があれば「下半身は完全に別人格ですからね」と開き直る手もあります。

 ……すみません。明らかに火に油を注ぐだけですね。エリートのみなさんが実践している方法なのに、何がいけないのか。日常生活では通用しそうにないのに、なぜ国会や政治の場ではそれなりに通用してしまうのでしょう。学んだり考えたりしなければいけないのは、じつはそっちの問題のほうかもしれません。

 今となっては、結果として、実用性に欠ける記事になってしまいました。このことについては、本当に心の緩みでございまして、たいへん申し訳ありません。かくなる上は、自分の身を省みて、できる限り自らを改善していけたらと思っております。何を省みてどこを改善すればいいかはよくわかりませんけど、そういうことでお許しください。

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