中学受験、するorしない?元小学校教諭に聞く「親」の心得

中学受験、するorしない?元小学校教諭に聞く「親」の心得

中学受験、「する」か「しない」か…教育現場でのようすをきいた(画像はイメージ)

 中学校受験は親子のチャレンジだとされています。高校受験、大学受験とは少し違った側面があるのが中学受験です。その中学受験について、元小学校教諭の立場から考えてみたいと思います。

 私は、神奈川県の私鉄沿線にある小学校で教員をしていました。その学校は駅前にあること、東京、横浜のどちらにも短時間で出やすいことなどから、多くの児童が中学受験をしていました。その学校では、半分くらいの児童が受験をしていました。そういったなかで、6年生の学級担任をしていてたびたび感じたことなどをまとめたいと思います。

中学受験、するorしない

 まずは、「中学受験をする方がよいのか、しない方がよいのか」ということについてです。これは「その子どもの性格による」と思います。

 私立学校は、学校による特色があります。公立学校と比べ比較にならないほど、各学校に特色があります。宗教がベースにある学校、国際教育に熱心な学校、理数系に力を入れている学校、スポーツに力を入れている学校などです。少し違った観点では、教師が細かい部分まで関わる学校や、生徒の自主性を重んじる学校などもあります。

 私立学校にはさまざまな特色があるので、その特色にうまく合う子どもは日々、のびのびと成長できます。逆に、合わない学校に入ってしまった場合は、良い学び、“良い育ち”の機会に恵まれず、貴重な時間を有効に使うことができなくなるという危険性もあります。

 私が関わっていた子どもたちのなかにも、私立中学に入学したけれども結局その学校が合わず、中2から地元の公立中学へ転校した、というケースが複数ありました。また、通学が非常に重荷になるケースもありました。公立中学は自宅の近隣であることがほとんどである一方、私立中学は電車やバスなどで通学することが多いのです。この通学に要する時間や、通学ラッシュなどが大きな負担になり、学校に通えなくなってしまった、というケースもありました。

都内「中学受験」の事実…私立中学進学者は2割だけ

 では、実際にどのくらいの小学生が「中学受験」という選択をしているのでしょうか。ここでは、2017年10月26日に公開された東京都教育委員会による「平成29年度 公立学校統計調査報告書 公立学校卒業者(平成28年度)の進路状況調査編」を参考に、都内における私立中学への進学者や、私立中学への進学率を見てみましょう(注)。

表:東京都 平成28年度公立小学校卒業者の進路状況<卒業者計・都内中学校等への進学者>
表:東京都 平成28年度公立小学校卒業者の進路状況<卒業者計>
 東京都教委発表の平成29年度公立学校統計調査報告書(平成28年度の進学状況)によると、平成28年度の小学生卒業者は91,979人であるのに対し、私立中学校に進学した子どもは15,626人。この人数は、東京都の小学校卒業生全体の19.6%にあたります。

 詳しく見ていくと、区部では24.2%、市部では11.9%、郡部では4.6%となっています。区部においては、中央区がもっとも高く47.7%、ついで文京区の47.0%、港区の42.3%となっています。逆に、江戸川区は12.4%、足立区は12.7%、墨田区は14.7%が私立中学に進んでおり、区部のなかでは公立中学に進む割合が高いエリアであることがわかります。

表:東京都 平成28年度公立小学校卒業者の進路状況<区市郡部ごと>
 市部においては、武蔵野市がもっとも高く29.9%、ついで調布市の21.7%、三鷹市の18.7%となっています。公立中学への進学が高く、私立中学への進学割合が低い市部は、あきる野市5.2%、武蔵村山市5.4%、清瀬市の6.2%となっています。

 男女別で見ると、男子は17.6%、女子は19.7%となっています。女子の方が少し高いですね。年度別で見ると、男子は平成25年度16.8%、平成26年度17.3%、平成27年度17.6%。女子は、平成25年度18.7%、平成26年度18.9%、平成27年度19.6%と、いずれもこの数年で少しずつ増加していることがわかります。

小学校教育現場のホンネ

 次に中学受験に関して、小学校の学級担任から見た学級のようすについて紹介します。

 中学受験する子どもに対して、受験しない子どもが、偏見を持つようなことはあまりないと思います。担任も同様で、受験するかどうかについては、あまり意識はしていないと思います。試験の当日(東京・神奈川の中学受験解禁日にあたる2月1日など)も、学校にいるみんなで「試験を受けている人が受かったら良いね」というように、明るい話題をしていることが多いと思います。

 ただし、試験前に長く休むことに関しては少し違ってきます。試験の前にずっと小学校を休んでしまうことは、私はあまりお勧めしません。子ども(本人、周りの子ども)の中に「悪い」「ずるい」という思いがあるように感じます。

 確かに「追い込みの勉強の時間が確保できる」「インフルエンザなどの病気にかかるリスクを減らすことができる」などのメリットがあるのだと思いますが、受験生本人や、クラスの子どもたちのなかに、モヤモヤとしたものが残ってしまいます。そして、入試期間が終了し、長く小学校を休んでいた子どもが学校に戻ってきた際、周りの子どもと距離感ができてしまうこともあります。前述した「悪い」「ずるい」というイメージが、それぞれの立場に少し、おかしな空気感を作ってしまうのです。

受験する親子へメッセージ…元教諭として

 中学受験に関して、親がすべきことは「中学受験だけで人生が決まる訳ではない」ということを再認識することです。あまりに夢中になるあまり、"一流校"と言われている学校に受からないと、自分の子どもの人生はこの先うまくいかないのではないかと思ってしまったり、成績を上げたり、模試の点数を良くするために何でもしてしまったり、ということは避けるべきです。

 子どもの成長において、学力という要素はとても大事なものです。しかし、入試で測ることのできる学力だけが唯一のメジャーではありません。親のプレッシャーが強すぎることで、子どもの育ちが歪んでしまう可能性があることもまた、事実ではないでしょうか。

 それと、「最悪を想定する」ことも大切です。塾などのパンフレットには、たくさんの成功例が載っています。「低い偏差値だったものが、奇跡的に難関校に合格した」というようなものです。残念ながら、そういったものは、少数だと理解することが大事でしょう。

 中学受験における「最悪」とは、「どこにも受からない」というものです。受験は水物です。実際にそういった状況になることは、誰にでもあり得ます。だからこそ大事になるのは、子どもへの普段からの声掛けです。

 私が見てきたケースで、中学受験に“全滅”し、その後、公立中学校に行ったけれども、不登校になってしまったという子どもがいました。その家庭では、保護者が私立中学を受験する理由として、地元の公立中学に関して「あんな所には行くべきじゃない」と子どもに言っていたそうです。しかし、その子どもは、受験に失敗し「あんな所」に行くことになってしまいました。その子どもは小学校の中学年ごろから遊び時間を減らして、塾に通っていたそうです。その数年間の成果が「あんな所に行くこと」になってしまったのです。

 精神的にバランスが取れなくなってしまったのだと思います。保護者のなかには、「できれば地元の公立中学校に通わせたくないから私立中学校を受験させる」という考えの人もあると思います。ただし、それをどのように子どもに伝えるのかということはとても大事なことだと思います。

 人生において大きな意味を持つ「中学受験」です。子どもにとって、“大きな育ち”のきっかけになればと願います。

※編集部注:「私立中学進学者」「私立中学進学割合」は、小学校の全卒業生から都内の国公立中学に進学した児童を除いた数とした。インターナショナルスクールへの進学や転居などによる他県の公立中学に進学した数も含まれるが、きわめて少数であることから、除外せずに扱う。なお、児童の実際の受験回数を表すものでははい。

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