ミツバチが失踪、魚が激減・・・“ネオニコ”ヒトへの影響は?EUでは規制の動きも【報道特集】

ミツバチが失踪、魚が激減・・・“ネオニコ”ヒトへの影響は?EUでは規制の動きも【報道特集】

ミツバチが失踪、魚が激減・・・“ネオニコ”ヒトへの影響は?EUでは規制の動きも【報道特集】

ミツバチが消えた原因ともいわれる農薬、ネオニコチノイド系の殺虫剤。実は、魚や鳥、そしてヒトにも影響を与える可能性があるとの懸念が浮上している。一足先にEUでは規制の動きが進むなか、リスクをどう評価すればいいのか。専門家を取材した。

■「魚が激減」その原因は・・・

海水と淡水が混じる汽水湖としては日本で3番目に大きい宍道湖。ずっと謎とされてきた生態系の変化があった。

皆川玲奈キャスター

「シジミ漁で有名な島根県宍道湖です。今から30年ほど前、この湖ではワカサギやウナギが大きく減りました」

1993年を境にワカサギが捕れなくなり、今も減ったままだという。当時、ワカサギ漁をしていた漁師たちは、突然の変化だったと話す。

漁師

「極端に平成6年(1994年)になくなった。ゼロみたいになってしまった。昔の夢が忘れられないけど諦めて、定置網も廃業した」

そしてウナギも1993年を境に、大きく減ったままだ。

この謎に挑んだ科学者がいる。東京大学の山室真澄教授だ。2019年、アメリカの科学誌「サイエンス」に発表した論文が今、注目を集めている。宍道湖のフィールドワークがベースになっている。

山室真澄教授

「よくウナギは(稚魚の)シラスウナギが減ったからだという方がいますが、全国でシラスウナギは1993年に急に減ったというデータはありませんので、これはそうじゃないと言えると思います」

山室教授が辿り着いたのは、ある農薬の存在だった。

山室真澄教授

「ネオニコチノイドが使われた途端に、もう本当に激減してしまって。こういう減り方を説明できるのは、やはり殺虫剤しかない」

ネオニコチノイド系の農薬。通称「ネオニコ」。ネオニコとは、ニコチンに似た“新しい”殺虫剤で、虫の神経を麻痺させて殺す。昆虫によく効くが、人体への安全性は高いとされている。

ネオニコの特徴は、植物全体に広がりやすく、長く残留すること。このため、農家にとって散布回数を減らせるメリットがある。

日本で流通するネオニコは7種類ある。今、最も多く使われている殺虫剤だ。日本で初めて登録されたのは1992年。翌年から宍道湖周辺を含め、全国で使われ始めた。まさに、あの1993年だ。

ネオニコは、魚には影響を与えないとされてきた。しかし、山室教授は、1993年から動物性プランクトンが大きく減ったことを突き止めた。ネオニコが湖に流れ込んだことで、ワカサギの餌が激減したのだ。ウナギの場合は・・・

山室真澄教授

「ウナギというのは昆虫や動物プランクトンが属する節足動物。例えばエビ、カニを餌にしている。やはり節足動物が(ネオニコで)影響を受けたので、ウナギも減っている」

ネオニコが国内で注目されたのは、10年ほど前。ミツバチの大量失踪の原因として注目された。2013年、金沢大学・山田敏郎名誉教授の実験では、低い濃度でも巣に帰れなくなって群れが小さくなり、やがて群れ自体がなくなることが明らかになった。

農水省はこの年から農家や養蜂家に農薬散布の際は注意するよう呼び掛けているが、被害報告は、未だに年間50件ほど寄せられている。

皆川キャスター

「神奈川県・葉山町の養蜂園です。例年、秋口になるとミツバチがいなくなる被害が起きているそうです」

石井養蜂園 石井勉さん

「きのう見たらこのようにゼロになっちゃって。死骸も何もないしさ・・・夜逃げというか、なんというか」

その後も日本では7種類のネオニコが販売され農家などで広く使われている。問題になったあとも使用を禁止されたものはない。

■ネオニコ系農薬 ヒトへの影響は

そして今、このネオニコがヒトにも影響があるのではという懸念がでてきている。

神戸大学大学院の星信彦教授を訪れると、マウスを使った実験の様子を見せてもらえた。実験では、通常のマウスと“無毒性量”のネオニコを投与したマウスの行動を比べる。“無毒性量”とは、「これ以下ならあらゆる動物実験でも異常が認められない」と国が定めた量のことだ。

しかし、無毒性量のネオニコを投与したマウスは、通常のマウスと比べて動きが緩慢になった。また、通常のマウスは鳴き声をあげないが、高さ60cmに設置した十字路での実験では、“無毒性量”のネオニコを投与したマウスは「ピィ、ピィ、ピィ…」と鳴き声をあげて不安な様子を見せ、落下防止用の壁がない場所には出てこなかった。

神戸大学大学院・星信彦教授

「“無毒性量”なのにマウスは異常な行動を見せ、我々もびっくりした。“無毒性量”自体を変えないといけない。あれを承認している人たちは、こういう実験をやったことも見たこともないと思います」

10月、都内で行われた農薬についてのシンポジウム。脳神経科学の研究者、木村―黒田純子医学博士は国の規制はもっと厳しくあるべきだと述べた。

木村―黒田純子氏

「農薬は今も多種類の毒性試験をやっています。ただし毒性試験、今の段階では不十分で、ヒトへの毒性は調べていません。調べられません。そのために後から毒性が分かることがあるのです」

木村―黒田氏が2012年に発表し、海外に影響を与えた論文がある。子どものラットの脳の細胞に、たばこのニコチンと2種類のネオニコを注入した実験だ。

木村―黒田純子氏

「ニコチンやネオニコを入れると神経細胞が興奮して反応する。農薬会社は哺乳類にはネオニコはきかない安全です、と言ってたけど、いや、ニコチンと同様に効くじゃないか、と。ヒトの脳にも影響を及ぼすのではないか」

 あくまでラットでの実験だが、木村氏は、子どもの脳の発達に影響する可能性があると警告した。さらに木村氏は、日本で発達障害や自閉症が増えていることとの関連も疑っている。農地面積あたりの農薬使用量が突出して多いのが韓国と日本。他の国と比較すると、広汎性発達障害や自閉症の有病率と相関関係がみられたという。

木村氏の論文は、EFSA(エフサ)=欧州食品安全機関に評価され、EUでのネオニコ規制に一定の影響を与えたと欧州委員会の担当者は認める。

欧州委員会(公衆衛生・食品安全)ステファン・デ・ケールスマカー報道官

「この(木村―黒田の)研究結果では、2種類のネオニコが人の神経や脳にダメージを与える可能性があることが示されました。この研究と最新の科学に基づき、我々は食品に残留するネオニコの基準値を引き下げるなど厳しくする措置をとりました」

日本で使われている7種類のネオニコ。EUは5種類を登録していたが、3種類の屋外使用を禁止。もう1種類も承認を取り消し、残る1つも基準を厳格化した。

気候や害虫の発生状況も違うとはいえ、EUの対応は日本よりはるかに厳しくみえる。そこには因果関係がはっきりしなくても“疑わしきは規制や禁止を”という「予防原則」の考え方があるという。

ネオニコは、人体に入ってもすぐに尿で排出されると言われてきた。しかし、この点についても疑問を呈す専門家がいる。

東京女子医科大学(ネオニコチノイド研究会・代表)平久美子医師

「ニコチンはすぐに分解されるし排泄されるのでタバコを吸っても30分経ったらニコチンの血中濃度が下がる。ところがネオニコはそんなことない。徐々に溜まっていって、微量でも毎日摂取していると、だんだん体の中のネオニコ濃度が上がっていってしまう」

微量でもマウスに毎日ネオニコを投与し続けると、体内の濃度が上がることが確認されている。

平久美子医師

「結局、微量(のネオニコ)だと思っていたのが、そこそこの濃度になってしまうことが十分、起こり得るのです」

ネオニコの安全性について農水省は、「提出された試験成績に基づき、科学的に安全が確保されている農薬だけを登録してきた」などとして、使用方法を誤らなければ問題はないとしている。

また農薬メーカーでつくる農薬工業会は、「農薬登録の際の神経系への毒性試験で、詳細な臨床観察を行っている。行動異常や影響があれば『極めて精度の高い確率で検出される』」と回答した。「国際的なガイドラインに基づき、ヒトへの安全性を確認している」という。

ネオニコをめぐる議論は、日本の農業のこれからを問いかけている。

(報道特集11月6日放送より抜粋・編集)

※情報提供は番組ホームページへ(13日09:00)