皇室の地方訪問再開、安倍元首相銃撃の模倣犯を懸念…国民と「ふれ合い」妨げないよう訓練

 この秋に皇室の方々の地方訪問が本格的に再開されるのを前に、警備にあたる警察当局が神経をとがらせている。7月の安倍晋三・元首相が銃撃されて死亡した事件を受け、模倣犯の懸念が高まっているためだ。国民と皇室とのふれ合いを妨げるわけにはいかず、実践的な訓練を重ねるなど警戒を強めている。(小野沢記秀)

■様々な行事控え

 10〜11月は、天皇、皇后の毎年恒例の4大地方行事のうち、国民体育大会(栃木)、国民文化祭(沖縄)、全国豊かな海づくり大会(兵庫)が開かれる。天皇、皇后両陛下の地方行事は新型コロナウイルス禍でオンライン出席が続いていたが、感染者の減少を受け、10月1日の国体の総合開会式には、約2年9か月ぶりに現地を訪問される予定だ。

 秋篠宮ご一家は今春から地方訪問を再開させており、この秋も様々な行事を控えている。

 警察当局が警戒を強めるのは、安倍氏銃撃事件のように駅前や沿道などに集まった群衆に、模倣犯が潜んでいるケースだ。皇宮警察幹部は「社会には何の根拠もなく一方的に恨みを募らせる人物がいる。皇室だから狙われないとは考えていない」と危機感を募らせる。

■過去に事件も

 皇室を狙った事件は過去に繰り返されてきた。1923年(大正12年)には、当時摂政だった昭和天皇の車が無政府主義者の男に銃撃され、同乗の側近がけがを負った。75年(昭和50年)には、沖縄県の慰霊施設「ひめゆりの塔」で、皇太子夫妻だった上皇ご夫妻が過激派の男に火炎瓶を投げつけられた。

 近年は、こうした過激派による反皇室闘争は沈静化しつつあるが、2019年4月には秋篠宮家の長男悠仁さま(16)の中学校の机に刃物が置かれるなど、組織に属さない個人の犯行も起きている。

■「ソフト警備」に

 警察庁警備局長や警視総監を歴任した宮内庁の西村泰彦長官は7月の記者会見で、警察当局に銃撃事件の教訓を踏まえた対応を求める一方、「国民と皇室の方々の間に壁を作ることがないようにしてほしい」とクギを刺した。

 皇室の警備は平成初期、在位中の上皇ご夫妻の意向で大きく変わった。

 昭和時代は車列が通過する沿道に制服警察官を配置した「見せる警備」で、対向車線の車は通行止めにしていた。しかし、平成に入ると、私服警察官を中心とした「ソフト警備」に替わり、対向車も可能な限り通行させるようになった。

 皇室の方々は、駅頭などに集まった人たちに近づいて声をかけ、移動中も車の速度を落とし、窓を開けて手を振られる。このスタイルは、令和の皇室にも引き継がれており、皇宮警察幹部は「両陛下のお気持ちは尊重しなければならない」と話す。

■いざという時は「壁」に

 銃撃事件の教訓を踏まえ、警察庁は8月、政治家など要人警護のあり方を定めた「警護要則」は全面改正したが、皇室警護の「警衛要則」は変更しなかった。

 両陛下の警備は、警察庁と全国の警察、皇宮警察が数か月がかりで計画を入念に練っており、「急に予定が入る政治家の遊説とは異なる」(皇宮警察幹部)という。

 ただ、沿道の人たちの手荷物検査を行うことは難しく、武器を持った不審者が潜む可能性は否定できない。皇宮警察の護衛官らは、銃器による襲撃を想定した訓練を重ね、いざという時には壁になるよう立ち位置なども柔軟に見直している。「最後は一人一人の能力が試される」と皇宮警察幹部は気を引き締める。

 宮内庁の西村長官は「国民との親和を妨げない形でいかに身辺の安全を確保するかは、警衛に携わる警察の永遠の課題といってもいい」と語る。