【永田町炎上】石原、小池…独裁者に翻弄される都庁官僚の嘆き節

【永田町炎上】石原、小池…独裁者に翻弄される都庁官僚の嘆き節

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【朝倉秀雄の永田町炎上】

■知事は地域の「独裁者」だ

 小池百合子都知事は10月5日、都議会の一般質問への答弁で豊洲市場の建物の下に盛り土がなく地下空間だった問題について退職者を含め幹部議員の懲戒処分を行うことを明らかにした。7日の都議会の経済・港湾委員会の集中審議では岸本良一・中央卸売市場長が盛り土の工法を検討した外部有識者による「技術会議」の平成20年12月25日の第9回会議の会議録を捏造したことを認めた。「実際は都側が建物の下の空洞を設けることを提案したのにもかかわらず、『技術会議』が地下水から基準値を超える汚染物質が検出した場合、浄化できるように建物下に作業空間を確保する必要があると提言した」ように虚偽の記載をしたのだという。

「敵役」を設定し、自らはさながら「水戸黄門」のような「正義の味方」を装い、相手を激しく糾弾して人気取りのために利用する「劇場型政治」を展開する小池としては、標的は「悪ければ悪い」ほど大衆の喝采は大きいのだから、笑いが止まらない思いだろう。

 堪らないのは、「悪代官」か「悪家老」のように仕立て上げられた都庁官僚たちだろう。直接選挙で選ばれる知事というのは、地域の「独裁者」だ。「民意」を盾に取れば、どんな勝手放題も許される。ひとたび知事が何か口走れば、幹部職員たちはその意に沿おうとしてさながら脱兎のごとく庁内を走り回る。権力の源泉は「人事権」にある。「大統領型」を採る地方自治体は知事が変われば幹部職員たちもゴロっと入れ替わる。職員たちは生殺与奪の権を握られているのだから、悲しいかな、たとえどんな「暴君」であっても唯々諾々として従わざるを得ない。

■石原知事の漏らした言葉は「神の声」

 ましてや石原元都知事のような傲岸不遜、どんな傍若無人も許される「カリスマ知事」ともなれば、その発した言葉は地球よりも重い。そんな石原が平成20年5月16日の定例記者会見で土壌汚染対策費が1300億円になることも懸念し、「土木工学的にもっと新しい方法があるのではないか」と発言。同月30日の記者会見でも「地下にコンクリートの箱を埋める案」に言及している。

 これを「神の声」と聞いた幹部職員たちは深く心に焼き付け、後は組織を挙げて「盛り土をしない」方向で一気に突き進んだに違いない。9月30日に小池知事に報告された内部調査で「『専門家会議』が敷地全体の盛り土を提言したのが平成20年7月26日。その約3ヶ月後、盛り土をせず、地下空間を設ける案が内部で検討され、暗黙の了解のように段階的に計画が変更され、いつ誰が決めたのかはとうとうわからなかった」とされているのは、「専門家会議」の提言よりも石原知事の意に従おうとした都庁官僚たちが後で誰も責任が取ることがないようにわざと意思決定過程を曖昧にしようと仕組んだからだろう。当時の中央卸売市場長だった比留間英人氏は『毎日新聞』の取材に対し「石原知事から(建物下に空間を設けることの)検討の指示を受けたが、2009年(平成21年)1月に技術会議で盛り土をする方向性が確認され、その後に知事に伝えると納得した」と答えているが、とても信じがたい。比留間のような「小役人」の身で石原の意に反するようなことを口にできるはずがないからだ。

■役人が「独善」で決めたのではないことを装う「専門家会議」

 メディアなどは「有識者会議」や「技術会議」の提言をさながら金科玉条のごとく扱い、それに従わなかった都庁官僚を「悪」と決めつけているが、それは行政の実態を知らないからだ。国・地方を問わず何かを決めるにあたっては、「有識者会議」なるものを設けるのが常套手段だ。多くは単なる「助言機関」に過ぎない。

 なぜそんなことが必要なのかといえば、職員が「独善」ではなく、豊富な専門知識を持つ公平な第三者の意見を謹んで拝聴した上で決めたことを装う一種の議会と有権者に対する対策だ。そうしておけば、野党や反体制的な勢力といえども露骨に反対しにくい。

 むろん単なる「儀式」に過ぎないなら、法的には従う法的義務はない。その提言を取り入れるかどうかの最終的な判断権は行政の最高責任者である知事にある。その意味では有識者たちの提言を無視した石原知事や知事の意向を優先させた都庁官僚たちに罪はない。

■犯人捜しよりも「食の安全」の検証が肝心だ

 実際の行政事務は先ず担当職員が案を起こし(これを「起案」と呼ぶ)、起案文書を下から順に回覧し、権限ある者の決裁を受けて知事の名で行う。決裁権者は案件によって内規で決められている。都庁であれば、重要なものから知事、局長、部長、課長の各級決裁の順となる。知事決裁などは滅多になく、大半は局長決裁どまりだが、なかには机の上の決裁文書の山を見ただけでうんざりし、ろくに書類に目を通さないで機械的に「判」を押すだけの横着な仕事しかしない者もいるから、自分がいったいどんな案件を決裁したのか「自覚していない」などといった馬鹿げた現象が起こりうる。豊洲の場合も必ず決裁権者が「判」を押しているはずだ。それでも「誰がいつ決めた」のが判然しないのは、おそらくその者がほとんど案件に興味を持たず、ろくに書類も見ず、起案者に説明を求めず、ダラけた仕事しかしなかったからだとも考えられなくもない。

 いずれにせよ、敷地全体に「盛り土」をしようが建物下に地下空間を設けようが、そんなことは大した問題ではない。何より肝心なのは現状のままで果たして「食の安全」が担保できるのかではないのか。小池知事は職員処分などより、まずはそちらの検証に全力を尽くすべきだろう。

文・朝倉秀雄(あさくらひでお)※ノンフィクション作家。元国会議員秘書。中央大学法学部卒業後、中央大学白門会司法会計研究所室員を経て国会議員政策秘書。衆参8名の国会議員を補佐し、資金管理団体の会計責任者として政治献金の管理にも携わる。現職を退いた現在も永田町との太いパイプを活かして、取材・執筆活動を行っている。著書に『国会議員とカネ』(宝島社)、『国会議員裏物語』『戦後総理の査定ファイル』『日本はアメリカとどう関わってきたか?』(以上、彩図社)など。最新刊『平成闇の権力 政財界事件簿』(イースト・プレス)が好評発売中。

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