似非「伝統」や穴だらけの「少子化」論。選択的夫婦別姓をめぐる日本の議論について外国人に聞いてみた

似非「伝統」や穴だらけの「少子化」論。選択的夫婦別姓をめぐる日本の議論について外国人に聞いてみた

shimi / PIXTA(ピクスタ)

 岡山県議会で意見書が可決されるなど、再び議論が過熱している「選択的夫婦別姓」。男女共同参画を担当する丸川珠代大臣が、反対を呼びかける書状に署名をしていたことが海外メディアに報道されるなど、導入への道のりはまだまだ険しい。

◆国連からの勧告を繰り返し無視

 ご存知の方も多いだろうが、夫婦で同姓しか選択肢のない国は、世界的に見ても極めて稀だ。

 昨今、議論が活発化しているため、一見すると夫婦別姓は「新しい」ように思えるかもしれない。

 しかし、日本は1985年に国連の「女性差別撤廃条約」に批准しており、この内容には夫婦別姓も盛り込まれている。つまり、理屈から言えば、日本政府はとうの昔に夫婦別姓に同意しているわけだ。

 ところが、繰り返し国連から勧告を受けながらも、夫婦別姓はまるで実現せず。1996年には法制審議会によって選択的別姓の導入が答申されたが、四半世紀たった今でも、具体的には何も前進していないのが現状だ。

 むしろ導入で述べたように、夫婦別姓に反対の立場である人物が男女共同参画大臣を務めるなど、進むどころか退行していると言ってもいいかもしれない。

◆世界でも珍しい日本の制度

 筆者が住んでいる東欧・ポーランドでは、同姓・別姓・複合姓の3つから選ぶことができ、そのほかの欧州諸国でも細かい違いはあるが、「夫婦はだちらかの姓に統一して名乗る以外認められない」という国は見当たらない。

 これはヨーロッパに限った話ではなく、アフリカや南米、アジア諸国でも同様だ。国際的なスタンダードからいえば、日本だけが特殊であることは、もっと知られるべきだろう。

 では、そんな日本の制度について、外国人たちはどのような感想を抱いているのだろうか。夫婦別姓をめぐる議論のなかで、争点となっている3つのキーワードとともに、ご紹介したい。

◆男女同性が「伝統」はホント?

 <伝統>

 夫婦別姓に限らず、「伝統」や「文化」といった言葉は、日本社会のターニング・ポイントにおいて、必ず出てくるフレーズだ。こうした反論について、外国人たちはどんな意見を持っているのだろう。

 「そもそも、日本でいう『伝統』は、わりと新しいことが多いですよね。よくよく歴史を見てみると、たいして古くないという(苦笑)。歴史的に見たら、日本では苗字を持っている期間のほうが圧倒的に短いじゃないですか」(男性・ドイツ人)

 「まったくナンセンスですし、ハンコかITかの議論と同じで、まるで今の時代に合っていません。日本でいう『伝統』は『既得権益』の言い換えに思えます。日本の苗字は山とか川が多いから、山田さんと川口さんで結婚するなら、山口さんとか川田さんとか、平等に混ぜちゃえばいいんじゃないですか?」(男性・アメリカ人)

 「夫婦混姓」の議論はさておき、「伝統」と「既得権益」が重なっている面は、決して少なくないだろう。

◆現在の制度は1947年から

 ちなみに、法務省公式HPの選択的夫婦別姓についてのFAQでは、こうした「伝統」について下記のように説明されている。(参照:法務省)

 “夫婦が同じ氏を名乗るという慣行が定着したのは、明治時代からだといわれています。

 明治31年(1898年)に施行された戦前の民法では、戸主と家族は家の氏を名乗ることとされた結果、夫婦は同じ氏を称するという制度が採用されました。

 明治時代より前は、そもそも庶民には氏を名乗ることは許されていませんでした。

 第二次世界大戦後の昭和22年(1947年)に施行された民法では、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する。」とされました。これが、現在の制度です”

 さて、読者の皆さんは、これを長い「伝統」と言えるだろうか? 戦後は言うに及ばずだが、戦前の民法でも120年ほどの歴史しかないのだが……。

◆選択的夫婦別姓は少子化に影響するのか

 <少子化>

 選択的夫婦別姓をめぐっては、婚姻率が低下し、離婚率や婚外子の割合が増加するという声もある。つまり、「姓が少子化に影響している」「シングルマザーが増える」という意見だ。

 「まるで関係ないと思います。もちろん、少子化と選択的夫婦別姓導入の時期が重なるというようなデータもありますが、因果関係が不透明すぎます。それよりも、働く女性・自立した女性が増えたことが関係していると思います。

 私たちの選択肢が増えたことで、結婚や出産をしないという道を『選べるようになった』んです。それまでは、私たち女性にとって、閉ざされていた道です。『子どもを産まなくなるから、苗字を夫に合わせろ』というのは無茶苦茶ですし、人権侵害です」(女性・イギリス人)

 「女性活躍」を謳いながらロクなサポートもせず、同じ口で少子化の責任まで問うとなれば、不公平に感じるのは当たり前だ。こうした矛盾は、選択的別姓に反対する丸川珠代氏を、男女共同参画大臣に据える姿勢にも表れている。

 また、身も蓋もない話だが、もし仮に姓の変更が少子化に影響を与えるならば、男性の姓に変える女性が圧倒的であるにも関わらず、まるで少子化に歯止めがかかっていない現状は、いったいどう説明すればいいのだろうか。

◆「ロジックが破綻している」との声も

 また、前述した国連からの勧告など、世界的に見れば「人権侵害」であるという視点も、日本ではまだまだ薄いように感じる。

 「本当に少子化に取り組みたいなら、苗字のせいにしないで、社会保障や育児のサポートをするべきです。そもそも、結婚しようがしまいが、子どもを産もうが産むまいが、私たちの勝手です。それは男性も同じです。

 国民の権利を守るべき法律が、男女どちらかから苗字を奪うというのは、意味不明です。苗字と少子化を結びつけるロジックも破綻しています。私はむしろ、女性が苗字を気にしなくてすむので、婚姻率や少子化にはプラスだと思いますよ」(女性・イタリア人)

 伝統に続いて、少子化についても「合理性に欠ける」という声が多勢。また、海外からは「社会的問題を女性にばかり押しつけようとする」というイメージを持たれているようだ。

◆同姓の強制は権利の剥奪と同じ

 <女性の権利>

 最後は、これまでも部分的に触れてきた、「女性の権利」についてだ。

 「話し合ってどちらかの苗字にするというのと、法律で無理に奪われるのとでは、まるで違います。たとえ夫婦でそれぞれ納得できなかったとしても、話し合うことでお互いをよりよく知ることにも繋がります。

 ヨーロッパでも、大半の女性は夫の苗字に変えたり、複合姓にしています。みんないろんな思いがあると思いますが、それでも一応は自分で選択しているわけです。その機会すら与えられないというのは、権利を奪っているのと同じです」(女性・ノルウェー人)

 「スゴくシンプルで、ものすごく簡単な話だと思います。男性は、自分が無理に苗字を変える立場になってみるべきです。私の妻は姓を変更したのですが、側から手続きを見ているだけでも大変そうでしたし、機関や企業によっては手数料もかかりました。

 私は姓を変えたいとは思いませんし、女性がそう思うなら、彼女たちも自分が好きなようにするべきです。絶対にどちらかの姓を名乗らなきゃいけない理由が見当たりません」(男性・ポーランド人)

 「伝統」「少子化」「女性の権利」という3つのキーワードを軸に、選択的夫婦別姓について外国人の意見を紹介してきたが、いかがだろうか?

 読者の皆さんにも、家族やパートナーなど、身近な人々との会話をとおして、ぜひ多様な意見に触れていただきたい。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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