大麻由来のCBDが台頭する中、忌避されるもう一つの成分「THC」。本当に有害なだけなのか

大麻由来のCBDが台頭する中、忌避されるもう一つの成分「THC」。本当に有害なだけなのか

画像はイメージ(adobe stock)

◆カンナビジオール(CBD)の台頭

 海外での大麻規制の変更を受けて、日本でも2021年の1月から大麻法制のあり方を見直す有識者会議が毎月開催されています。使用に対する罰則を新たに設けることが提案されるなど厳罰維持の方針が示される一方で、医療目的の大麻使用に関しては一定の理解を示す流れが生まれつつあります。

 この背景にはカンナビジオール(CBD)と呼ばれる大麻成分の台頭があります。CBDには大麻草の主成分であるTHCのような陶酔作用がなく、抗炎症作用や抗酸化作用、抗てんかん作用などの様々な薬効が認められ、日本でも食品、化粧品、サプリメントとして幅広く流通しています。

 特に難治てんかんの特効薬として、欧米ではエピディオレックスという名前の医薬品が2018年から病院で処方されるようになりました。このエピディオレックスを始めとした大麻由来の医薬品を国内でも使えるようにするための臨床研究を行う動きが起きているため、有識者会議でもCBDの医療効果には理解を示す発言が目立ちました。

◆THCが含まれる製品で発作が軽減

 一方でTHCに関しては医療価値のない有害成分という意見が支配的でした。しかしこれは、大麻=悪という先入観に基づいた見方と言えます。我々は国内で流通しているCBD製品を原価で難治てんかん患者に届けるチャリティープログラム(みどりのわ)を運営し、約30名の難治てんかん患者を追跡しています。その中にはCBDだけでは発作のコントロールがつかないけれど、THCを含有する製品では発作が消失した男の子がいるのです。

 その子は1歳時の頭の怪我をきっかけとし、2歳半頃からてんかん発作が出現するようになりました。病院から処方される薬を服薬しても、けいれんが持続する日々が続きました。御両親は日本国内では小児向けに受けることができない先進医療を受けるためアメリカに渡航した際にCBDについての情報を得て、アメリカで“シャーロッツ・ウェブ“というブランドのCBDオイルを帰国時に購入し、スーツケースで持ち帰りました。

 帰国後、発作が増加した際に恐る恐る服薬させてみたところ、一ヶ月後には1日に30回ほど認められた発作が完全に消失したのです。さらにその後、服薬していたCBD以外の抗てんかん薬を中止することができました。しかし問題は、このシャーロッツ・ウェブが日本には輸入できないのです。

◆わずかでもTHCが含まれると「大麻」扱い

 アメリカ合衆国では2014年に農業法が改正され、THC含有量が0.3%未満の大麻草は“ヘンプ“として区分けされ、通常の農作物として栽培や流通が自由化されています。

 一方、日本の大麻取締法では、伝統的に繊維や食品として使用されていた茎や種由来の製品は法規制から除外されています。CBDの輸入に際しては、茎・種から製造されているという証明書とTHCを含まないことを示す成分分析表の提示が義務付けられており、条件をクリアした製品だけが国内で流通しています。

 シャーロッツ・ウェブは大麻草の花や葉を含む全草から作られており、ごく微量のTHCを含むため日本の法律では大麻に該当します。同製品を継続して使用することが法的に困難だと知ったご両親は、我々の運営するプログラムに参加し、THCを含まない製品に切り替えました。すると一度は完全に消失した発作が再び出現してしまったのです。

◆アントラージュ効果とは

 大麻に含まれる成分はそれぞれ単体でも作用しますが、一緒に摂取することでシナジー効果が生じる事が知られており、これはアントラージュ効果と呼ばれています。過去に大麻の成分を単離・合成し、処方箋医薬品として世に売り出そうとした製薬企業の試みが大きな実を結ばなかったのは、生薬としての大麻のこの特性を理解していなかったからと言えるかもしれません。

 実際に、精製されたCBDであるGW製薬のエピディオレックスと、様々な成分を含有する全草抽出サプリメントであるシャーロッツ・ウェブを比較すると、後者の方が発作抑制に必要な量が圧倒的に少ない事が知られています。

◆諸外国では微量のTHCを許容する傾向

 このように微量のTHCは医薬品としてのポテンシャルを高める一方で、規制当局が懸念するTHCの陶酔作用は、CBDと一緒に摂取する限り問題となることはありません。なぜならTHCとCBDが同じ受容体を巡って拮抗するため、大量のCBDの存在下ではTHCの精神作用はブロックされるためです。微量のTHCでは公衆衛生上の問題が起きないこと、そしてCBDを含む大麻草の産業的な可能性が大きいことを考慮し、諸外国では現在THCの含有率が0.2~1.0%以下の大麻草の品種をヘンプとして、大麻草と別個に扱い、栽培や流通が自由化されています。

 仮に日本でも同様の制度を導入すれば、T君のような子供達が現在、アクセスを妨げられている製品を合法的に使用することが可能となります。このような制度の恩恵に預かるのは、難治てんかんの子供だけではありません。イタリアではTHC0.6%未満のヘンプ製品の流通を許可したところ、睡眠薬や抗不安薬などの精神科関連の処方薬の流通量が1割程度、減少したと報告されています。

 しかし仮に、日本で大麻使用罪が制定され尿中から微量なTHCが検出されるだけで罪に問われるようなことになると、こうした制度の運用は事実上不可能です。

◆大麻への厳罰が続く日本

 有識者会議を主導する規制当局は未だ、大麻への厳罰姿勢を取り続けていますが、日本よりも多くの薬物問題を経験してきた諸外国では、薬物使用者を逮捕・投獄することは問題を悪化させるだけであって、本質的な解決にはつながらない事が明らかになり、薬物政策の方針を転換しつつあります。

 手錠より支援を重視する薬物政策のあり方はハーム・リダクションと呼ばれ、ポルトガルを始めとする先進地域で大きな成果を挙げています。未だに大麻で逮捕する国は先進国では日本だけと言っても過言ではないでしょう。

 規制当局が厳罰に固執する理由の一つは、全国に約300名いる麻薬捜査官の雇用を維持するためではないかという噂がありますが、これもヘンプと大麻を区別する制度を運用することになれば、品質管理のために現在よりも大きな雇用を生むことは間違いがありません。

 今回の有識者会議が、1948年に作られた大麻取締法を時代に即した形に変更し、運用する好機となることを切に願っています。

<文/正高佑志>

【正高佑志】

熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。

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