ひきこもり14年の男性が、月50万円稼ぐウーバー配達員になった理由

ひきこもり14年の男性が、月50万円稼ぐウーバー配達員になった理由

ひきこもりUberで月収50万

ひきこもり14年の男性が、月50万円稼ぐウーバー配達員になった理由

14年間ひきこもり働いていなかったIさんが、ウーバー配達で”社会復帰”

 緊急事態宣言等で需要が高まるウーバーイーツ。関西では、月に純益50万円以上を稼いだ配達員がいる。Iさん(41歳)。大学時代に不登校になり6年半かけて卒業、その後14年以上ひきこもり状態に。

 そんな彼はウーバーを昨年9月に初めて5か月で、月50万円の収益を達成した。20年間働いていない彼は「ソシャゲにハマるように、ウーバーイーツにハマった」と言う。

 両親と相性が悪いIさんは、何年も前から実家から離れた祖父母が残した家で、弟と2人で暮らしている。

◆ウーバーを始め、容姿を気にするようになった

 配達に使用しているのは小型の原付バイク。Iさんは「地元は配達範囲が広く、自転車では時間がかかりすぎる。そもそも、ずっとひきこもっていて体力もないし、とても自転車は無理」という。配達員登録をしたのは昨年5月。

「バイクだったら、ずっとひきこもっていた自分でもできるかなと、興味本意で。しばらくはビビっていた。仕事なんて十何年ぶり。注文も受けていないのに、からっぽのバッグを背負ってバイクで近所を走りまわる練習をしていた」と、準備期間が必要だった。

 稼働しはじめたのは9月から。

「1回だけやってみよう。だめだったらやめればいい」

 初めての配達は、少し失敗してしまった。チャイムを押さない「置き配」を指定されていたが、押してしまったのだ。部屋の中から「おい!」と怒鳴り声が聞こえたという。

「焦ったけど、もう1回だけ配達してみようと思った。すると特に失敗もなく、こなすことができた。安心感やうれしさがこみ上げてきて、何かがスタートしたと思えた。今まで明るい道なんてなかったのに」と振り返る。

 その後は昼過ぎから3〜4時間マイペースに配達すると、最初の月に8万円を稼げた。「こんなのでお金もらえるんだ」と思った。

 Iさんは過去のいじめ等の経験から、対人恐怖症気味だ。始める前は「起きもしないようなトラブルを想像し、怖くて足がすくんでいた」という。しかし実際にはトラブルはほぼ起こらず、お客さんと顔を合わせた時には「どうもありがとう」と感謝された。

「むしろ、お客さんのほうが怖いのでは。いきなりオタクみたいなのが来るのだし」

 心がけたことは「マスクをしていても、なるべく笑顔。渡したらサッと帰る。服装は清潔感の感じられるものに。髪型も、ヘルメットで潰れても爽やかに見えるような短髪を美容師さんに頼んでいる」。ひきこもり時代は容姿など気にもしなかったのだというが。

◆「この地域は俺が背負っているんだ!」と燃えてきた

 1日のスケジュールは、11時に開始して、長い時は深夜1時ころまで。月のうち25日は稼働している。

「お金を稼いでいるというより、ゲームのゴールドを集めている感じ。アプリの数字が増えていくから。パズドラやポケモンGOに飽きて、次はこれ。スマホの配達アプリに表示される金額を見ては、よくニヤニヤしている」と、ゲーム感覚で取り組んでいる。

 雨が降っている深夜は、とくに注文が多い。

「ほかに注文を受ける配達員があまりいない。すると『この地域は俺が背負っているんだ』と燃えてくる。『待っている人、困っている人がいるんだ。このままなら、お腹を空かせたまま寝ることになってしまう人がいるんだ』。そんなことを思いながら、次から次へと注文を受けている」

 誰かに必要とされていることが、やる気につながると言う。稼いだ金額はすべて記録している。ガソリン代などの経費を抜いた純益で、10月には22万円、11月には31万円、年末の12月には44万円。そして2度目の緊急事態宣言が出た1月には51万円を記録した。

 始めて2か月目くらいで「月に20万円が限界だろうな」と計算していたIさん。しかし「あれよあれよと50万円を超えてしまった。1月の宣言の影響もあったと思うし、冬、特にお正月は注文が多かった」という。「50万円はポケモンGOでいうと、超レアのポケモンが手に入った感じ。けれど、これで若干目標を見失なったね」と笑う。

◆生活リズムも、お金の使い方も変わった

 生活リズムも整った。「昼夜逆転生活が20年間続いていたのだけれど、ウーバーをはじめてから1か月もしないで治った。昼夜逆転がしんどくなって、10時くらいに起きるようになった」と健康的に。

 月に40万〜50万円も稼ぎ、生活は変わったのだろうか。「買ったものは、以前より大きめの電子レンジ。ほかには、キッチンのLED照明くらいかな。それだと弟も使えるし。普段は欲しいものが特にない」と物欲が湧かないのだという。

 ささやかな買い物のほかには、寄付をした。LGBTの居場所活動をしている団体に送ったのだ。

「以前、ひきこもりからのリハビリでそこに行ったら、優しくしてくれてすごく嬉しかった。だから、ささやかながら恩返し」

 また、Amazonで見知らぬ人たちのウィッシュリストを見て周り、3000円程度の品物を適当に送ったりもする。「ウーバーが終わって、風呂に入っていたりすると気持ちが高揚して、誰かに何かをあげたくなる」とプレゼント欲にも目覚めたらしい。

“社会復帰”したように見えるIさんだが「就労施設や、ハローワークに行くのは怖い」という。「何を言われるのかわからなくて怖い。『この年で何をしてるんですか』とか。でもウーバーの配達員はアプリ登録だけで面談もないし、履歴書もいらない。登録だけして、嫌ならやらなきゃいい。自分には敷居が低かった」と、ウーバーの仕組みが合っていると語る。

 しかし「ウーバーもいつまで続けられるのかわからない。報酬体系が突然変わってしまうこともある」と、ずっと続けられる仕事ではないと感じているようだ。

◆決意させてくれたきっかけは、絶縁していた父親からの仕送り

 最初は「興味本意で」はじめたと語ってくれていたが、よく聞いてみるとほかに理由があった。

 Iさんは父親とはほぼ関わっていない。「親父は仕事人間で、家にもほとんど帰って来ない。子どもにも無関心。15歳から3回くらいしかしゃべっていない」と家庭内断絶状態だった。

 しかしその父親が、昨年の夏に突然、口座にお金を送金してきた。父親からのメールには「私ができるのはこれまで。これでなんとか生きていってください」と書かれていた。

「これがすごく大きかった。お金をくれたからじゃない。あの親父が、俺のために動いた。ああ、俺、親父にこんなことまでさせてまで、ひきこもり続けているの無理だ」。その時を境に「何かが変わった」と言う。

「このままじゃダメだ。俺、やらなきゃダメだ」。それが配達バイクのハンドルを握るきっかけとなった。

◆お金よりも嬉しかったことは、「十何年ぶりにホッとした」こと

 順風満帆に見えるウーバー配達員キャリアだが、きついこともあった。「最初の頃は、配達しながら泣いていた。なんで俺、こんな所にいるんだろう。バイクに乗って何しているんだろう。何でこんな人生歩んでいるんだろう、と涙が出てた」と41歳にして、たった1人の社会復帰を始めた当初を振り返る。

 ひきこもり時代には、周りから「もうこんな歳になって、取り返しがつかない」と言われてきた。通っていた居場所の元ひきこもり当事者には「お前みたいに、努力しようともしない人間を見ているとイライラする」と罵られたこともあったという。

「自分では、小さなことでもポジティブに考えられるようになったり、外に出るようになったり、少しずつ良くなってきたと思う。でも周りから見れば働いていないし何も変わっていないんだよな」。当時はIさんが“自分なりに”頑張っていても、周りから認められることはなかった。

 Iさんは言う。「今回のことで自分なりの頑張りがお金という形になって、十何年ぶりに安心した。自分でもこれだけできるんだ。周りの言う通りじゃなかった」。

 もう一つ嬉しかったことがある。Iさんは人生で初めて、親の扶養ではなく自分自身の保険証を持てたのだ。「親父の思いに応えられた。もちろん頑張ったのは、親父のためでなく、自分のためだけど」。

◆「ひきこもりじゃなかったら、教えてくれる誰かがいたのかな」

 今やってみたいと思っていることは、自分と同じような人のウーバー参入を手伝うことだという。

「もしひきこもりの人がウーバーをやってみたいと思っていたら、やり方を教えてあげたい。もちろんライバルが増えるから、僕のエリア以外で1人か2人くらい。その報酬は、稼いだお金で飯をおごってくれたらそれでいい」

 Iさんはこう続ける。「最初の頃、一緒にやってくれる人がほしかった。やっぱり1人はハードルが高い。以前、2人組の配達員がいて、片方の人がもう片方の人にいろいろとアドバイスしてるのを見た。それを見てうらやましいなあと思って。自分もひきこもりじゃなかったら、教えてくれる人がいたのかな」と、自分がほしかった“スタート時の伴走者”になってあげたいと言う。

◆ウーバーの配達報酬3割減は、現場のやりがいを奪ってしまうのでは

 月50万円の目標は達成し、次の具体的な目標はまだ見つけられていない。IさんはSNSのメッセージで「明日からもまた朝から晩までフル稼働する予定です。説得力ないですが、力まずぼちぼちいきましょ〜」と返してくれた。

 3月初旬、ウーバーイーツジャパンが一部地域の報酬体系を見直し、配達報酬が約3割下落したとの報道が流れた。Iさんのような社会復帰者のためにも、現場のやりがいを奪う改定は避けてほしいと願ってしまう。

 今日もきっと彼はバイクを走らせ、温かいご飯を待っている人の元へ届けに向かっているはずだから。

<文/遠藤 一>

関連記事(外部サイト)

×