「今だけカネだけ自分の会社だけ」の原発推進派の愚<弁護士・映画監督 河合弘之>

「今だけカネだけ自分の会社だけ」の原発推進派の愚<弁護士・映画監督 河合弘之>

よっちゃん必撮仕事人 / PIXTA(ピクスタ)

◆世界の潮流は「グリーン」だ

―― 脱原発に向けて活動してきたこの10年間と被災地に対する思いを教えて下さい。

河合弘之氏(以下、河合) 福島の復興も廃炉作業も進んでいません。他方原発が息を吹き返しているかと言うと、そんなことはない。原発は推進派が思うほど再稼働せず、海外輸出は失敗、東芝は原発事業から撤退しました。これは原発に反対する民意が反映されたものだと思います。

 ここ数年、特にこの1年で自然エネルギーの導入が物凄い勢いで進み、原発の存在感が極めて薄くなっています。世界的にグリーンデジタル革命が進行しているからです。ここ数年で自然エネルギーは非常に安くなりました。自然エネルギーは儲かる≠謔、になったので、世界的に広がっているのです。

―― 経済原理が働くようになったということですね。

河合 そうです。グリーンデジタル革命の大きな波が世界を覆っています。日本はそうした情報が経産省やメディアによって握りつぶされて、世界の潮流から取り残されてきました。しかし、1〜2年前から日本経済新聞とNHKが方針を変えました。自然エネルギーに本気で取り組まないと周回遅れになり、日本経済が沈没するという警告を発信するようになったのです。財界人は自然エネルギーを環境派のおもちゃだとしか思っていませんでしたが、日経が自然エネルギーは儲かる、やらないと損だという論を展開し始めたので、認識を改めています。また、積極的な原発推進派だった安倍政権が退陣したことも大きいです。

―― 安倍政権は脱原発どころか、海外に原発を売ろうとしていました。

河合 原子力ムラという巨大な利権構造に支えられていた安倍政権では状況を変えることは難しかった。それが菅政権では安倍政権と違う政策を打ち出さないと駄目だということでグリーンデジタル革命に目をつけたんですね。その結果、施政方針演説でグリーンとデジタルで第四次産業革命を起こすと謳ったわけです。

―― 全く誤解していました。菅政権が掲げたゼロエミッションは原発を残すための含みを持たせたものだと思っていました。

河合 確かにそういう面もあります。しかし、政策の重点がどこにあるかは、施政方針演説をきちんと全文読むと分かります。原発についての言及は「安全最優先で原子力政策を進める」というたったの15文字。一応触れた程度です。

 しかし、これで原子力ムラが諦めたかと言うとそんなことはない。なぜ原発を再稼働させたいのか。理由はひとつだけ。燃料費です。原発を1基動かすと、1日1〜2億円儲かる。年間で400〜900億円儲かる。関西電力のように原発が多い電力会社は何が何でもやりたい。結局は目の前の銭の問題です。「今だけカネだけ自分の会社だけ」という論理のみで原発推進派は動いています。

 なるほど確かに環境のためにCO2は削減しないといけないでしょう。しかし、CO2は有害ですが、放射能はもっとひどい。1の公害をなくすために10の公害を使う必要はないでしょう。緩慢な死を避けるために急激な死を招いているようなものです。

 原発推進派はよくベストミックスという言葉を使います。電力供給元を多様にしなければいけない。そこには原発も入っていなければいけないと。しかし、自然エネルギー自体がバラエティに富んでいます。風力、太陽光、水力、地熱、バイオマス。野菜サラダでいえば、トマトもレタスも人参もきゅうりも入っている。そこにわざわざ原発という毒キノコを入れますか? どんなにバラエティに富んでいても、毒キノコが入ったとたん、それは食べられません。

◆日経の方針転換

―― 日経がそんな風に方針を転換していたとは知りませんでした。むしろ積極的に原発推進の旗を振る筆頭媒体だと思っていたので。

河合 たとえば3月1日の朝刊トップは「緑の世界と黒い日本」という見出しです。世界各国の最安電源が自然エネルギーの国は緑、石炭が一番安い国は黒。日本は石炭が一番安いので最も多く使っており黒ですが、緑の国のGDPを全部足すと世界の7割を占めるのです。ロシア以外の主要国はみんなグリーンエネルギーに移行しています。「日本も再生可能エネルギーの導入と電化を加速するときだ」とはっきり書いています。

―― しかも日本の最安値は他の国の2倍近いですね。米国が36ドル、中国が33ドルに対して、日本は74ドルです。

河合 こういう記事を日経がどんどん書いているので、経営者たちは考えを変えているんです。

 2050年にCO2をゼロにするということは、電力源をほとんど自然エネルギーにするということです。自然エネルギーが増えればコストも下がりますから、原発をやるのが馬鹿馬鹿しくなる。何でわざわざ高くて危険なものをやらなければいけないのか。こう考えるのが自然です。自然エネルギーを環境派、左翼だけのものにしてはいけない。経済界を巻き込めば一気に動きます。

―― 指数関数的に増えるということですね。コロナ禍でみんなマスクをするのが当たり前になったようにガラッと変わると。しかし、日経と経団連は微妙に思惑が違うのでしょうか。

河合 経団連は主流が重厚長大産業なので原発推進派です。日経は日本経済全体が沈むと困るので、自然エネルギーに行かないと駄目だということを強調しています。日本経済を支えているのは経団連の企業だけではありませんから。かといって経団連勢力を無視するわけにはいかないので、一応原発のことも少しは書くということです。

 菅政権は世界の潮流がグリーンに移っていること、CO2削減に消極的だと世界から馬鹿にされるということで、グリーンデジタル革命を政策として掲げました。しかし、原子力ムラを怒らせるのもまずいので、リップサービスはしたということです。それが施政方針演説の15文字ですね。その15文字をできるかぎり拡大解釈するのが原発推進派です。CO2削減には原発がいいじゃないかという主張の根拠にするのです。

◆不都合なデータを隠す国の愚挙

―― 福島の子どもの甲状腺がんと放射能は無関係だという立場を国や県は崩していませんが、こうした意見についてどう思われますか?

河合 200人を超える福島の子どもたちががん手術をして、今も苦しんでいます。甲状腺がんの発生率は100万人に1人と言われていますが、福島では38万人に252人出て、そのうち200人以上が手術を受けている。これが過剰診断やスクリーニング効果で説明がつくでしょうか。こうした立場をとる人たちは、調べすぎたから出てきたんだ、調べなければ済んだのにと言います。もし調査、検査を受けていなかったら、今手術を受けた人たちはみんな手遅れで死んでいたかもしれないということですよ。

 200超の手術は福島県立医大で行われましたが、彼らは不要な手術を200回以上もしたんですか。そんなことありえないでしょう。実際にがんがあったから手術をしたのですから。

 データを取らないということは、甲状腺がんが発生することを隠すための策動です。放射性物質が甲状腺がんを引き起こすことが明らかになると、原発を止めようということになる。それが困る人たちがいるのです。国は絶対に因果関係を認めたくないから、データを取らない、検査をしないということです。

―― なるべく検査をしないという発想は、コロナ対応にも通じると思います。原発を止められない国や社会を変えるために何をしていけばいいですか。

河合 北風と太陽の寓話がありますね。僕らは今まで脱原発を掲げて、北風をずっと吹かせてきました。しかし、太陽によって原発というコートを脱がせる運動も大事です。私は『日本と原発』という映画で原発の危険性を訴え、北風を吹かせてきましたが、その後自然エネルギーは儲かるということを伝えるために『日本と再生 光と風のギガワット作戦』という映画を撮りました。後者の太陽アプローチが効いてきている実感があります。

https://youtu.be/fX7JH0Z4KIs

https://youtu.be/g8syYn0KTss

<聞き手・構成 杉本健太郎・記事初出/月刊日本2021年4月号より>

【月刊日本】

げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。

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