なぜIT系のユーザーサポートはうまくいかないのか? 聴く側が最低限伝えるべきこと

なぜIT系のユーザーサポートはうまくいかないのか? 聴く側が最低限伝えるべきこと

y.uemura / PIXTA(ピクスタ)

◆話題になったAWSの『技術的なお問い合わせに関するガイドライン』

 年度末、年度初めは、慣れない仕事をすることが多い。一年に一度の仕事をしたり、業務の引き継ぎで新しい仕事に触れたりする。そうした時、疑問に突き当たり、自分一人では解決できず、必要に迫られて他人に質問する。

 そうした繁忙期の質問だけでなく、ITシスステムの不具合や、業務のトラブルなどで質問することは日々起きる。特に、新型コロナウイルス流行以降は、ネットワーク越しにやり取りすることが増えた。

 そうした質問を、メールなどの文書にして送り、素早い回答を得るには一定のノウハウが要る。適切な情報を届けて、サポート担当者が回答しやすくする。そのためには、目の前にいない人間に、こちらが直面している状況を過不足なく伝える必要がある。

 相手にとって必要な情報が不足していれば、確認のために無駄なやり取りが発生する。最初から全て揃っていれば、短時間でレスポンスがもらえる。

 少し前に、AWS(Amazon Web Services)の技術的なお問い合わせに関するガイドラインが話題になった。Amazon のクラウドコンピューティングサービスの技術的な質問をする際の文書の書き方をまとめたものだ。

 目次の大項目を見ると「解決したい課題を明確にする」「状況を正確に共有する」「経緯を共有する」という項目がある。上記のページには、悪い例文とよい例文まで載っている。日々、大量の問い合わせを受けていて、その対応に苦慮している様子が想像できる。

 私自身、昔『めもりーくりーなー』というオンラインソフトを公開していて、大量のユーザーサポートメールを受け取っていた。そのため、ユーザーサポートの難しさは骨身に染みている。今回は、コロナ時代にも役立つであろう、こうした技術的な問い合わせについての話をする。

◆遠隔ユーザーサポートの難しさ

 質問者と回答者が同じ場所にいないとする。その状態で、技術的な疑問やトラブルについて質問して回答することは、なかなか難しい。なぜ難しいのかは、いくつかの要因がある。

 一つ目は、人間にとって、離れた場所の人に、自分の状況を説明するのは、かなりイレギュラーな状況だということだ。人類が、離れた人とコミュニケーションできるようになったのは極めて最近である。そのため、多くの人にとって不慣れなことだ。

 たとえば目の前にいる人に「困った」と言って、自分の状況を伝えるのは簡単だ。相手も同じ場所にいれば、その困った状況が見えているからだ。しかし、遠隔地にいる人に同じように話しかけても、何が困っているのか分からない。その状態が見えていないからだ。

 メールで「困っているのですが、どうすればよいのでしょうか」とだけ書いてくる人は、非常に多い。メールを受け取った人は「何がどう困っているのでしょう」と聞き返すことになる。自分と他人が見えているものは違う。この切り分けが、想像以上に難しいのだ。

 二つ目は「相手が必要な情報が何なのか分からない」という問題だ。たとえばソフトウェアのユーザーサポートだと、実行環境、バージョン、手順、結果、エラーメッセージ、再現性などが知りたい。

 しかし、IT業界以外の人だと、こうした情報への解像度が低い。そのため「止まりました」というのが、その人が把握している情報の全てだったりする。OSについて質問しても「パソコンです」という答えが返ってきたりする。Webブラウザーについて質問すると「Yahoo!です」と返答があったりする。

 こうした違いがあるために、質問を送る側は、ユーザーサポート担当者が欲しい情報について想像することはできない。この点で、質問者を責めることはできない。

 三つ目は、適切な質問を組み立てる難しさだ。その業界にいない人は、その業界固有の専門用語を知らず、基礎知識も持っていない。そのため、問題だと思っていることを、他人と共有するのが困難なことが多い。

 たとえば、普段パソコンを使っていない人が、意図せずCtrl+Sを押してしまい、ファイル保存ダイアログが出てきたとする。ダイアログの名称も分からず、ファイル名を付けて保存するという常識も知らなかったとする。

 そのユーザーが「何かよく分からないものが表示された」と問い合わせをしたとする。サポートする側が、どんな問題が起きているのか瞬時に把握するのは困難だ。

 三つほど難しさの要因を挙げたが、その解決方法は、業界によって違う。ソフトウェアのユーザーサポートや、プログラミング系のQ&Aについては、ある程度の共通認識が業界にある。遠隔での質疑応答の参考になる、その内容について書いていこう。

◆ソフトウェアのユーザーサポート

 ソフトウェアのユーザーサポートは、筆者も経験がある。ソフトウェアについては、おおよそのところで他の開発者も一致するだろう。OSの種類やバージョンなどの実行環境、ソフトウェアのバージョンが、まず必要になる。スマートフォンだと機種も重要だ。この前提条件が違うと、そもそも不具合が再現しないことがある。

 次に、操作手順と、その結果何が起きたかだ。結果としてエラーメッセージが表示されるなら、その内容をそのまま正確にコピペする。あるいはスクリーンショットを撮る。

 エラーメッセージは特に重要だ。エラーメッセージが分かると、プログラムのどこの行で問題が発生したのか特定できる。格段にトラブルの原因を見つけやすくなる。

 また、手順を書く際、可能なら、最小手順で同じトラブルが発生する方法が書いてあるとよい。ソフトウェアの問題は、再現性があると、ほぼ確実に修正することができる。100回やって100回起きる現象は直しやすい。逆に再現性がない、100回やって1回しか起きない現象は、直すのが難しい。

 そして可能なら、原因の推測も書いてあるとよい。質問者の方が、自身の環境について多くの情報を持っている。たとえば、前日に他のソフトウェアをインストールしたなら、そのソフトウェアが原因のこともある。

 それ以外には、何をしたくて操作したのか、期待とどう違っていたのかも書いた方がよい。そもそも、それはバグではなく仕様である、といったことも多い。あまりにも似た問い合わせが多いと、仕様がまずかったということで改善されることもある。

 こうした情報のうち、環境にまつわる情報は、ソフトウェア側で自動収集できる。そのため私の場合は、ユーザーサポートのメニューを選択した際は、必要な情報を自動収集して出力し、残りの情報をユーザーに記入してもらっていた。

 また、世間に出回っている多くのソフトでは、エラーが起きた時に、各種の情報を集めて、その内容をサーバーに送る機能を用意している。ユーザーに適切な情報を提出してもらうことは開発者以外には難しいので、そうした工夫をしているわけだ。

◆プログラミング系のQ&A

 プログラミング系のQ&Aには、昔からプログラマーの中で、ある程度の共通認識がある。有名なものとして、結城浩氏の「技術系メーリングリストで質問するときのパターン・ランゲージ」がある。

 公開されたのは2001年と20年前。メーリングリストという現代ではあまり使われないコミュニケーションツールだが、内容は色あせていない。WebベースのQ&Aサイトなどでも共通して使える内容である。この文書から、関係する大項目をいくつか箇条書きで抜き出してみる。

・実行手順を箇条書きで書く。

・こうなって欲しかったという期待した結果を書く。

・実際に起きた結果を書く。

・どこから期待通りにならなかったかのステップを明記する。

・条件を具体的に書く。

・エラーメッセージをそのまま記載する。

・自分がどう考えたのかを書く。

・参考文献を適切に引用する。

・関連するプログラムをコンパクトに抽出して示す。

・自分の環境を書く。

・事前に自分で調べる。

・本についての疑問があるなら、著者本人に質問する。

 こうしたことが書いてある。

 最後の「著者本人に質問する」というのは、ソフトウェアのユーザーサポートでもよくある問題だ。全然違うソフトの質問をしてくる人が一定数いる。

 たとえば、Google Chrome のユーザーサポートに、Adobe Photoshop の使い方を尋ねられても困るわけだ。こうしたことはよくあり、「それは、そのソフトの作者に聞いて下さい」という回答が一定数ある。

◆遠隔でのユーザーサポート

 新型コロナウイルスの流行以降、対面ではなくネットワーク越しの業務が激増した。同じオフィスにいれば、すぐに現場を見て、横に並んで確かめられることも、ネット越しに質問し、回答しなければいけないことが増えた。

 そうした際に、業界は違えども、古くから遠隔で質問と回答をおこなってきた業界のノウハウは役に立つと思う。

 環境などの前提条件の共有、手順の箇条書き、期待する結果と実際に起きた結果、結果を示すエラーメッセージやスクリーンショット、自分の考察結果。

 遠隔での業務に困難を感じている人は、こうした他の業界の先例を参考にするとよいだろう。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。2021年2月には、SBクリエイティブから『JavaScript[完全]入門』が出版される。

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