朝日新聞が全面広告企画で偽装勧誘カルトの教祖本を抱き合わせ宣伝。寄稿者からも批判

朝日新聞が全面広告企画で偽装勧誘カルトの教祖本を抱き合わせ宣伝。寄稿者からも批判

3月28日朝日新聞朝刊に掲載された広告(広告朝日のTwitterより)

◆朝日新聞に掲載された親鸞会の広告

 朝日新聞が3月28日朝刊に「新しい世界に羽ばたく人に贈りたい 本の力」と題して、12冊の書籍を紹介する全面広告を掲載した。12人が書籍を1冊ずつ推薦する形式で、自社の書籍を紹介する出版社社員、自著を推薦するタレント、自著以外から選定した本を推薦するエッセイストなどが混在。その中で、浄土真宗親鸞会の教祖・高森顕徹会長の著書が上段に掲載されていた。

 親鸞会は、一般的な浄土真宗各派とは無関係の新宗教団体。地域の公共施設や大学などで、宗教団体であることを隠したり別趣旨の団体を装ったりする「偽装勧誘」で知られている。全国の大学では新入学シーズンに「カルト勧誘」への注意を学生に呼びかけているが、大学が公に名指しするケースこそしないものの、多くの大学が事実上の「要注意団体」として意識している複数の宗教団体の1つだ。

〈参考記事:「怪しい勧誘に注意」だけじゃ足りない! 大学・高校でカルト勧誘を断る方法〉

◆多様な団体やイベントを偽装、リモートセミナーも

 問題の広告は、タイトル下に以下のようなリード文が付けられている。

〈進級、進学、卒業、就職……いま新しい世界に飛び立とうとしている人たちに何か力になるものを贈りたい。(略)様々な方面の方々が「君にこそこの本を贈りたい」と厳選した一冊をご紹介します。〉

 このすぐ下に、親鸞会教祖・高森顕徹会長の著書『歎異抄をひらく』(1万年堂出版)が掲載されている。版元である親鸞会系出版社、1万年堂出版の社員と思しき人物が歴史作家・司馬遼太郎の言として「無人島に一冊持っていくなら『歎異抄』」という言葉を添えている。

 進級、進学、卒業、就職という節目にある人々に向けた広告として、全国の大学で偽装勧誘が問題視されている親鸞会教祖の著書を宣伝する。悪い冗談のような企画だ。

 3月28日の朝日新聞に掲載された他、同日に朝日新聞社メディアビジネス局のTwitterアカウント「広告朝日」も紙面の複数の寄稿者の個人名を列挙し画像を添えて告知した。

 親鸞会は、大学生に限らず社会人や中高年に対しても偽装勧誘を行う。地域の公共施設等を使用して、仏教講座、アニメ上映会、読書会、異業種交流会など様々な名目でイベントを開催し、親鸞会の講師が所属を明示せず講師として立ち、親鸞会関連のアニメや書籍を教材にする。

 新型コロナウイルスの感染が拡大して以降も、「オンライン講座」の形態も取り入れつつ対面での同様の活動を続けている。

◆学生だけじゃない 老若男女を狙う無差別偽装勧誘

 私自身、2014年に世田谷区の公共施設で開催された親鸞会による偽装仏教講座とアニメ上映会、教祖講演の映像視聴集会に潜入したことがある。

〈参照:やや日刊カルト新聞:親鸞会が世田谷区施設で偽装勧誘=区は放置の方針〉

 このときの客層は高齢者ばかりだった。主催団体は「歎異抄に学ぶ会」。講師は親鸞会講師である人物だが、事前に周辺地域のポストに投函されたチラシにも当日のイベントでも、「親鸞会」という言葉は一切出てこない。仏教講座での講師の話は、人生がいかに虚しいものかをやたらと強調し、親鸞の教えがその救いになるという考えに誘導していく内容だった。

 休憩時間には、会場の客席にいた参加者から後日の別イベントに誘われた。そこにも行ってみると、高森会長の法話の中継を拝聴する集まりだった。私を誘ったのは、仏教講座の客のように見せかけた信者。つまりサクラだ。

 法話に誘われた仏教講座の場でも、法話の場でも、私はこれがどういう団体で高森氏とは何者なのか尋ねた。それでもなお彼らは宗教団体であることを明かさなかった。高森氏については「浄土真宗の有名な先生」「坊主ではない」という説明だった。

 私は前もってこれが親鸞会であることを知った上で潜入したが、これが一般の来場者だったらどうだろう。宗教団体の行事ではなく文化講座の類だと思い込まされたまま、なし崩しで信者にされてしまうのではないか。

 ちなみに上記の「やや日刊カルト新聞」の記事を掲載した際、潜入取材の映像もYouTubeで公開した。しかし親鸞会側が「著作権侵害」を理由に削除を申し立て、YouTubeが映像を削除。現在は別の映像サイトで公開している。

 大学生への偽装勧誘だけではなく、公共施設で一般市民に対する偽装勧誘も行い、その実態を示す証拠はインターネット上から削除させる。こうして現在に至るまで、この勧誘手法を続けているのが親鸞会だ。

◆『歎異抄をひらく』は偽装勧誘ツールそのもの

 インターネットのイベント告知サイトで『歎異抄をひらく』を検索すると、多くのイベントが見つかる。たとえば「こくちーずプロ」でハッシュタグ「#歎異抄」を検索すると、ヒットする講座やイベントの大半が親鸞会なのではないかと思えるほど、大量に親鸞会の偽装イベントを見つけることができる。

 まるで文化講座のように見せかけた「仏教講座」、仏教の教えを混ぜた心理学講座、人生相談会、異業種交流会、「なぜ生きる」をテーマにした講座もある。「なぜ生きる」は、これまた1万年堂出版から刊行されている、高森顕徹氏監修の書籍のタイトルでもある。

 いずれも講師が「仏教講師」とだけ名乗るパターンが多く、告知の中に「親鸞会」の文字は一切ない。講師が「浄土真宗」を名乗ることはある。一般的な浄土真宗宗派であるかのように思い込ませる手法だ。

 同様に「1万年堂出版」を検索すると133件がヒットする。最新のイベントは2月に開催された〈〜オンライン講座「心のお医者様ブッダに学ぶアンガーマネジメント」〜〉。講師の岡本一志氏は親鸞会講師だが、もちろんこのイベント告知では触れられていない。「一般社団法人全国仏教カウンセリング協会代表」を名乗り、著書として『幸せのタネをまくと幸せの花が咲く1,2』(1万年堂出版)を挙げている。

 今回、朝日新聞が広告として掲載した『歎異抄をひらく』は、こうした類いの偽装イベントの「教材」として活躍している。

 「こくちーずプロ」で「歎異抄をひらく」を検索すると、全て終了済みだが2019年5月以降の2年分、78件がヒットする(書籍を原作としたアニメ映画『歎異抄をひらく』関連も含む)。開催地域は東北地方から九州まで、ほぼ全国規模だ。

 たとえば昨年6月には〈類を見ない1万年堂出版の本『歎異抄をひらく』の本をテキストとして学ぶ講座です〉と称する「仏教教室」が鹿児島県で繰り返し開催された。主催団体は「大人の仏教サロン」。告知には「親鸞会」の文字は一切ないが、「仏教講師」を名乗る前川新吾氏は、親鸞会本部での法話も務めている人物だ。

 『歎異抄をひらく』は、ただの「カルト教祖の本」ではない。内容の良し悪しが問題だというわけでもない。偽装勧誘のツールそのものなのだ。

 上記の偽装イベントの「仏教講師」たちのプロフィールを見ると、宗教関係の専攻でもないのに大学卒業後、唐突に「仏教講師」になっているケースがいくつかある。「僧侶」や「住職」ではないから、実家が寺なので跡を継いだという話でもなさそうだ。

 彼ら自身が、大学生時代に親鸞会の偽装勧誘によって入信し、そのまま教団所属の講師になってしまったクチなのではないだろうか。被害者が加害者となり新たな被害者を再生産する地獄のようなサイクル。親鸞会の偽装勧誘とは、そういう問題なのだ。

◆朝日新聞による紛らわしい広告手法

 今回の広告には、もう1つ問題がある。1万年堂出版の単独広告ではなく複数の広告主をまとめた広告のようなのだが、広告としての書籍推薦と第三者による通常の書籍推薦を組み合わせ、読者が広告とそうでないものを判別できない形になっている。

 広告ではなく通常の書籍推薦を寄稿した1人であるエッセイストの能町みね子氏はTwitterで、事前にこうした企画であることを知らされておらず、自身は真面目に考えて推薦図書を選んで寄稿した旨を投稿した。この広告企画で能町氏が推薦したのは、『村に火をつけ、白痴になれ 伊藤野枝伝』(栗原康著、岩波書店)。アナキストの伝記だ。

 改めて能町氏にコメントを求めると……。

「私が広告ではなく寄稿を依頼されて推薦した本と、自薦による宗教団体の本がステルスマーケティング的に並ぶことは、私が推薦した本が宗教団体のために踏み台にされたようで非常に腹立たしく、モラル上、大きな問題があると思います。また、宗教団体の本以外についても、この広告では大半が自薦(あるいは自社の推薦)の本であり、広告のタイトルがある種、誇大なものとなっているのではないでしょうか。朝日新聞側には経緯を尋ねているところでお返事もいただいていますが、宗教団体関連の本に関する経緯についてはまだお返事をいただけていません」

 冒頭に示したように、この広告企画には〈様々な方面の方々が「君にこそこの本を贈りたい」と厳選した一冊をご紹介します〉というリード文がついている。それでいて実際には広告や自薦が大半で、広告部分とそれ以外の判別ができない体裁。

 掲載紙面の端っこに「全面広告」と書かれているとは言え、広告部分を広告でないかのように装って見せる効果を持つ点は「ステルスマーケティング(ステマ)」の要素を伴っている。

 朝日新聞東京本社が会員となっている日本新聞協会。その新聞広告掲載基準が「以下に該当する広告は掲載しない」として挙げている中に、こういうものがある。

〈責任の所在が不明確なもの〉

〈編集記事とまぎらわしい体裁・表現で、広告であることが不明確なもの〉

 朝日新聞自身、昨年7月に「番組か広告か 視聴者惑わせぬ放送を」と題する社説を掲載している。テレビの「広告と混然一体となったような番組づくり」を批判する内容だが、最後はこう締めくくられている。

〈新聞やネットも他人事ではない。受け手に疑念を抱かれないようにする。このことを常に念頭に、発信する内容や表示の仕方をチェックする必要がある。〉

 そもそもが問題を孕む微妙な手法の広告だった。それによって、偽装勧誘ツールになっているカルト教祖の本を「世に出回っているマトモな本の1つ」であるかのように演出した。こうした趣旨や構成であることを寄稿者に伝えていなかった。

 いくつもの違う問題が組み合わさっている。読者に対しても寄稿者に対しても不誠実ではないだろうか。

◆朝日新聞社は「親鸞会問題」への言及避ける

 朝日新聞社広報部に事実関係と見解を求めたところ、以下のコメントだった。

「この企画は出版社ならびに広告会社の皆様にご案内させていただきました。ご質問いただいている出版社につきましても、企画の趣旨に賛同いただき、出稿いただいた協賛企業のひとつになります。

 今回の企画では、出版社の協賛を伴う寄稿と、伴わない寄稿を同じ体裁で織り交ぜておりました。こうした手法は、寄稿いただく方々への敬意を欠くものだったと反省しております。また、自著の推薦については差し支えない旨の判断をしておりましたが、この判断について関係の方々への周知が徹底されていませんでした。大変申し訳なく思っております。」

 これはコメントの全文だ。広告とそれ以外の寄稿を混在させた手法について、「寄稿者への敬意を欠く」点を反省する内容で、読者に対する謝罪や反省はなかった。

 また取材の申し入れの際に私は、親鸞会の偽装勧誘問題を認識しているかどうかや、そういった宗教団体関連の広告を載せることへの見解を求めた。朝日新聞社の回答はこの点に全く触れなかった。

◆昨年も類似の広告企画を掲載していた

 なお、今回の広告を企画・制作した朝日新聞社メディアビジネス局は昨年11月にも、今回と同じような広告企画を紙面に掲載している。文化通信社の「ギフトブック・キャンペーン」と組み合わせた広告で、1万年堂出版『歎異抄をひらく』を最上段に掲載した他、聖教新聞社『四季の励ましII』(池田大作・著)も掲載した。

 「ギフトブック・キャンペーン」は34人の著名人や企業経営者が「セレクター」として各3冊の推薦図書を紹介する「ギフトブック・カタログ」を販売する企画。昨年11月1日から2カ月間行われた。「ギフトブック・キャンペーン」のウェブサイトで確認すると、『歎異抄をひらく』『四季の励ましII』を挙げているセレクターはいない。

 朝日新聞社による広告は「ギフトブック・キャンペーン」と似た別企画として朝日新聞社独自のセレクション16冊を掲載したもので、そこに『歎異抄をひらく』『四季の励ましII』が含まれた形だ。この2冊を含め、出版社関係者が自社の書籍を紹介するものが大半を占めている。

<取材・文/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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